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【8話】フレイの理由


 大急ぎでフレイの部屋までやってきたエレナは、ドアをノック。

 ドアを開けてちょうだい! 、と声をかける。

 

 しかし、反応はない。

 昨晩と同じように、無視されてしまっている。

 

 でも、エレナは諦めなかった。

 

 昨晩とは状況が違う。

 二人をなんとしても仲直りさせたい。

 

 今日は引き下がる訳にはいかない。

 いくら断られようが、諦めない。ドアが開くまで、何度だって声をかけ続けるつもりだ。

 

 

 そうして、何度目かの声をかけた頃。

 

「いい加減にして! しつこいのよ!!」

 

 ピシャリ。

 ヒステリックな声が、ドアの向こうから聞こえてきた。

 

「帰ってよ! あなたに私の気持ちがわかるはずないでしょ!!」

「……少しだけならわかるわ。私も大人が嫌いだったもの」


 エレナは小さく息を吐く。

 

「私にもね、妹がいるの。私と違ってとっても優秀な妹よ。両親や使用人が褒めるのは、そんな優秀な妹ばかり。私には見向きもしなかった。だからそんな大人たちが嫌いだった――ううん、だったじゃないわね。今も嫌いだわ」


 大人たちは優秀な妹だけをかわいがって、エレナには冷たい態度を取ってきた。


 それが、寂しかった。

 辛かった。

 悲しかった。

 

 だからエレナは、大人が嫌いだ。

 

 この先もずっと、この傷が消えることはない。

 きっと一生嫌いなままなのだろう。


 ドアの向こうから足音が聞こえてきた。

 ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

 固く閉じていて扉が、ようやく開いた。

 フレイは俯いている。

 

「開けてくれてありがとうね」

「……」

 

 フレイはなにも言わない。

 下を向いたまま部屋の中へ戻っていき、横長のソファーにかけた。


 部屋に入ったエレナも、その隣に腰を下ろした。

 

 お互いに、なにも話さない。

 沈黙が流れる。

 

 フレイはきっと、話したいことがあるからドアを開けてくれた。

 

 だから、エレナは待つ。

 フレイが話してくれるのを、じっと待った。

 

 沈黙がしばらく続いた後、

 

「昔は運動も勉強も、私の方が上だったのよ」

 

 フレイが口を開いた。

 

「でも少し前からかな……アクアに勉強を抜かれちゃった。きっとそのうち運動だって抜かれちゃうわ。だってあの子は、私なんかよりずっと優秀だから。それが面白くなくて、アクアに冷たくするようになったの。妹のことをそんな風に思うなんて、姉として失格よね」


 フレイが笑う。

 自嘲たっぷりの悲しい笑みだ。

 

「わかるわよ、その気持ち」


 エレナは小さく微笑む。

 

「さっき、妹の話をしたでしょ?」

「うん」

「優秀でいつも褒められている妹のことが、私はずっと羨ましかった。どうしてあの子だけが、っていつも嫉妬していたの」

「……私たちって似た者同士なのかな?」

「そうね。でも一つだけ、大きな違いがあるわよ」


 フレイがエレナを見上げた。

 オレンジ色の大きな瞳を瞬きして、不思議そうにしている。

 

「私は妹にものすごく嫌われていたわ。ひどい嫌がらせを何度もされてきた。でも、あなたは違うわ。アクアはあなたのことが大好きよ。昨日アクアがね、『お姉ちゃんはかっこいい。私の憧れ』って、そう言ってたわ」

「……そんなの嘘よ。だって私、こんなにひどいお姉ちゃんなのよ……」

「アクアが勉強を頑張った理由を知ってる?」


 フレイは小さく首を横に振った。


「憧れであるお姉ちゃんに少しでも近づきたい――それがあの子が頑張った理由よ」

「……っ!」


 拳を握ったフレイは、顔をくしゃっとさせた。

 うるうるした瞳からは、涙が出てきそうになっている。

 

「アクアにとってあなたは、ひどいお姉ちゃんなんかじゃないわ。昔からずっと変わらない、憧れのお姉ちゃんなのよ」

「う……うあああああん!」


 フレイが大きな声で泣きじゃくる。

 次々と溢れ出ていく涙は止まらない。

 

「私、アクアに謝りたい! 仲直りして、前みたく仲良しになりたい!」

「大丈夫よ。きっとアクアも同じことを思っているから」

「でも私、あんなにひどいことを言っちゃったのよ……!」

「アクアはそんなことであなたを嫌いにならないわ」

「……ほんとに?」


 充血した瞳で見上げるフレイに、エレナは大きく頷いた。


「私もついていってあげるから、一緒に謝りに行きましょ」

「……うん」


 フレイが立ち上がる。

 

 エレナもそれに合わせて立った。

 フレイの小さな手を取って、ギュッと握った。

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