【最終話】本当の夫婦へ
目を覚ましたエレナがまず思ったことは、どうして私は生きているんだろう、というものだった。
ナイフでお腹を刺されたことで、死んでしまったはずだ。
それなのに生きている。
しかも、体はピンピンしていた。
あんなにドバドバ血が出ていたはずのお腹は、綺麗に血が止まっている。
それに、もうなんにも痛くない。
「……あれ? 私、どうして……」
その状況を不思議に思いながら空を眺めていたら、ジオルトにギュッと抱きしめられた。
(……そっか。きっとジオルト様が私を助けてくれたのね)
どんな方法を使ったのかは知らない。
でも彼が助けてくれたことだけは、なんとなくわかる。
ピンチのときに助けてくれる大好きな人。
それがエレナにとっての、ジオルト・ドゥランシアという人間だからだ。
(とっても温かいわ)
ジオルトの優しい温もりが、エレナに安心とやすらぎをくれた。
大きな胸の中で、エレナはゆっくりと目をつぶった。
******
エレナは目を覚ます。
そこは私室のベッドの上だった。
「起きたようだな」
横から、ジオルトの優しい声が聞こえてきた。
その声の方へ顔を向けてみれば、ジオルト、フレイ、アクアがいた。
三人はエレナの手を、ギュッと握ってくれている。
窓から外を見てみれば、真っ青だった青空は綺麗な夕焼けに染まっていた。
ジオルトの胸の中で目をつぶってから、結構な時間が経っているらしい。
エレナは体を起こす。
「もう動いて平気なの?」
「痛みはないのですか? 大丈夫ですか?」
フレイとアクアが、エレナへぐいっと体を寄せてきた。
顔にはでっかく、心配、という文字が書かれている。
「もう平気よ。すっかり元気だわ。ありがとうね」
双子の頭を優しく撫でる。
もう二度と、こうして二人の頭を撫でることができないと思っていた。
だから喜びを噛みしめるようにして、いつもよりゆっくりと撫でていく。
「エレナ。君に伝えたいことがあるんだ」
ジオルトがまっすぐに見つめてきた。
青色の瞳の眼差しは揺るぎなく、真剣そのものだ。
「君のことを愛している。俺の本当の妻になってほしい」
まっすぐな眼差しをしているジオルトが口にしたのは、まっすぐな愛の言葉だった。
嘘偽りのないその言葉には、これでもかというくらいにいっぱいの気持ちがこもっている。
(嬉しいわ……!)
エレナは心を打たれた。
温かで優しい気持ちが全身に広がっていく。
この人は必ずエレナを大事にしてくれる。
そのまっすぐな眼差しと愛の言葉が、揺るぎない確かな証拠だ。
ジオルトへの気持ちが止まらない。
だからエレナはそれを、包み隠さず口に出した。
「私もジオルト様のことを愛しています。本当の夫婦になりたいです」
「ありがとう」
身を乗り出したジオルトが、両腕を広げる。
エレナをギュッと抱きしめた。
それを見たフレイとアクアは大喜び。
歓喜の声をあげながら、エレナにおもいっきり抱き着いた。
くっつき合っている四人の顔は、みんなそっくり。
ものすごく幸せそうに笑っていた。
******
それから、エレナとジオルトは本物の夫婦となった。
契約で縛られた嘘の関係ではなく、固い絆と愛で結ばれた本物の関係だ。
ジオルトから聞いたのだが、エレナを刺した犯人はシスティという侯爵令嬢でジオルトの前妻だった人らしい。
エレナを刺した彼女は、その場で現行犯逮捕された。容疑は殺人未遂だ。
公爵家の人間を殺そうとした罪はとても重い。
刑はまだ確定していないが、終身刑か死刑になるだろうとのことだった。
システィの動悸は、幸せそうなジオルトを見て腹が立ったから、というもの。
アクアを殺すことで、絶望を味合わせようとしたのだそうだ。
アクアはシスティの娘だ。
システィはそれを知っていたらしい。その上で殺そうとしたのだ。
自分の娘を殺そうとするなんて、どうかしている。
システィの気持ちは、まったくもって理解できなかった。
(だって、こんなにもかわいいのに)
食堂で朝食を食べているエレナは、両隣に座る双子を見やる。
今日も相変わらず世界一かわいい。愛してやまない、自慢の娘たちだ。
「どうしたのよエレナ?」
「エレナ様?」
不思議そうに見てくる双子に、エレナは微笑みを浮かべる。
そして正面を見てみれば、ジオルトがいる。
今日も相変わらず素敵な、世界一素敵で大好きな夫だ。
「どうしたエレナ? なんだか嬉しそうだな」
エレナは今、最高に幸せだ。
胸を張ってそう言える。
心からそう思えるのは、なによりも大事な三人の家族にこうして囲まれているおかげだ。
これからもずっと、大事な家族と幸せな道を歩んでいきたい。
「みんな、大好きよ!」
三人を見渡したエレナは、満面の笑みを浮かべた。
これにて完結です!
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それではまた、次回作でお会いしましょう!




