【34話】強い意志 ※ジオルト視点
「そう言わないでくださいよ。とっても大事なことなんですから。私、ジオルト様と――」
なにかを言いかけたところで、エレナが目を閉じてしまった。
「おいエレナ! しっかりしろ!!」
ジオルトは必死で呼びかける。
喉が枯れるくらいの大声を出した。
だが、エレナの瞳は開かない。
それどころか、顔からどんどん生気が抜けていってしまう。
「目を開けてくれ!! お願いだから……」
「あはははは!!」
すぐ近くから、甲高い笑い声が響いた。
エレナを刺した黒髪の女だ。
「貴様は!?」
その女の顔に、ジオルトは見覚えがあった。
前妻のシスティだ。
「予定とは違ったけど、目的は果たせたわ。これでようやくあんたも、私と同じ顔になったわね! ねぇ今どんな気持ち? 悔しい? 悲しい? 殺したいほど私が憎い? あはははは!!」
「よくもエレナを……!!」
奥歯を噛みしめたジオルトは、システィを睨みつける。
限界まで尖った青色の瞳に宿るのは、とてつもない憎悪だ。
腹の奥底から、どす黒い感情がせり上がってくる。
激しい怒りと大きな憎しみが、体全体に広まっていく。
「エレナ! しっかりしてよ! こんなのでお別れなんてあんまりよ!」
「うわあああああん! エレナ様ああああああ!」
フレイとアクアの泣きじゃくる声が聞こえてきた。
それを聞いてジオルトは我に返る。
(システィに構っている場合ではない!)
そんなことよりも先に、ジオルトにはやらなければならないことがある。
今はともかく、エレナの命を救わなくてならない。
ジオルトはエレナへ、両方の手のひらを向けた。
回復魔法をかける。
だが、効かなかった。
エレナの顔は真っ白のままだ。
生気が戻らない。
(普通の魔法ではダメか……! こうなれば、『特上魔法』を使うしかない!)
特上魔法というのは、魔法を極めた一握りの者だけが使える特別な魔法だ。
通常の魔法よりも、ずっと高い効果を持っている。
だが、タダで使えるものではない。デメリットがある。
大きな力の代償として、残りの寿命の一割が消費されてしまうのだ。
そのデメリットゆえに、特上魔法が使用された例というのはこれまでにほとんどない。
みんな寿命が惜しいのだ。
でもジオルトは、少しだって迷いもしなかった。
(エレナを助けるためなら、一割どころか全部だってくれてやる!!)
両方の手のひらを、もう一度エレナへ向ける。
「目を覚ましてくれ、エレナ!」
俺が必ず助ける! ――そんな強い意志を抱きながら、特上魔法を使う。
ジオルトの手のひらから、淡い光が放たれた。
それがエレナの体を包みこむ。
エレナの指先がピクリと動いた。
真っ白だった表情に、色が戻っていく。
「……あれ? 私、どうして……」
エレナが目を覚ました。
不思議そうな顔で、空を見ている。
「エレナ!!」
エレナの体を起こしたジオルトは、おもいっきり抱きしめた。
こうしてもう一度、エレナに会うことができた。
それがどれだけ嬉しいことか。
感情が溢れて止まらない。
それをぶつけるように、強く抱きしめる。




