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【33話】大事な告白


 その日、ドゥランシア公爵家の四人は街へ買い物に来ていた。

 

 エレナは今日、特別な想いを持ってここへ来ていた。

 全ての買い物が済んだ後でジオルトへ告白しよう――そう考えている。

 

 告白というのは、本当の夫婦になろう、というものだ。

 これからの人生に関わる、大事な大事な告白だ。

 

「今日はやけに緊張しているようだが、どうかしたのか?」


 隣にいるジオルトが、心配して声をかけてくれた。

 

 大事な告白が控えているので、エレナは今ものすごく緊張してしまっている。

 いつの間にか、それが顔に出ていたみたいだ。

 

「大丈夫です。なんでもありません」

「それならいいが……。体調が悪いのであれば遠慮なく言うんだぞ」

「はい。ありがとうございます」

「……少し喉が渇いたな。みんなはどうだ?」

「そうですね……私も渇きました」


 雲一つない青空には大きな太陽が輝いていて、眩しい光を放っている。

 おかげで、結構暑い。かなり喉が渇いていた。


「私もよ!」

「喉がカラカラです。なにか飲みたいです」


 フレイとアクアの声が、エレナの両隣から上がった。

 エレナは今日も仲良く、双子と手を繋ぎ合っている。

 

「では、みんなの分の飲み物を買ってくる。ここで待っていてくれ」

 

 ジオルトが、三人へ背中を向ける。

 

 そのとき。

 黒髪の女性が、駆け足でこちらへ近づいてきた。

 

(……なんだか様子がおかしいわね)

 

 黒髪の女性は口角を限界まで吊り上げて、歪んだ笑みを浮かべている。

 茶色の瞳には光がない。

 

 そこには、狂気じみたものを感じた。

 嫌な予感がする。

 

 それと同時。

 エレナは衝撃的なものを見てしまった。

 

 黒髪の女性がポケットから何かを取り出し、手に握った。

 それは、ナイフだ。

 

 光のない茶色の瞳は、エレナの右側いるアクアをまっすぐに見つめていた。

 もう距離がない。すぐ手前まで近づいている。

 

 考えるより先に、エレナはアクアの前に飛び出していた。

 

「――ッ!」

 

 瞬間、熱い痛みがお腹から上がった。

 顔を下に向けてみれば、お腹にナイフが突き刺さっていた。

 

 それは、黒髪の女性が手にしていたナイフだ。

 アクアを襲うはずだったであろうその凶器は、エレナのお腹に深く突き刺さっていた。

 

「よかった……アクアを守れた」


 力なく呟いたエレナは、糸が切れたようにして地面に倒れた。

 

 きゃあああああ!

 

 ありとあらゆるところから、つんざくような悲鳴が上がる。

 

 ナイフが刺さっている箇所が燃えるように熱い。

 ドクドクと流れていく血が、道を赤く染めていく。

 

 顔に水滴が落ちてきた。

 それは、涙のしずく。

 

 フレイとアクアの涙だ。

 

 地面に膝をついた双子は、エレナの名前を大声で呼びながらボロボロと泣いていた。

 

「エレナッ!!」


 大声で叫んだジオルトが、エレナの手を取った。

 震えているエレナの手を、強く握りしめる。

 

(あれ……? なんだか声が……)

 

 周囲の声が、だんだんと遠くなってきた。

 視界もぼやけてくる。

 

 それに、体が寒い。

 体の感覚がどんどん消えていく。


(あ……そっか。私、死んじゃうのね)


 大切な三人と、これでもう会えなくなる。

 それを思うと、ものすごく寂しい。


 でも、自分の行動に後悔はない。

 

 大切な娘の命を守ることができた。

 それがなによりも大切なことだ。後悔なんてあるものか。


(でも、その前にジオルト様に言わなくちゃいけないことがあるわ……)


 エレナは今日、大事な告白をしようと決めていた。

 だから命が消えてしまう前に、どうしてもジオルトに伝えなければならないことがあった。

 

「ジオルト様……私、お伝えしなければならないことがあるんです」

「今は喋るな!」

「そう言わないでくださいよ。とっても大事なことなんですから。私、ジオルト様と――」


 本当の夫婦になりたいです――その言葉を伝えることなく、エレナの意識は途切れてしまった。

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