【3話】義娘との対面
将来ハーシス子爵家の役に立つかもしれない、という理由でエレナは令嬢教育を受けている。
成績はどの項目も良かった。
双子の教育係になっても、問題なく教えられるはずだ。
「そうしていただけるのは助かりますが、よろしいのですか?」
「ちょうど暇を持て余していたところだったから問題ないわ。むしろやることが見つかって、ありがたいくらいよ」
「ありがとうございます! すぐに持って参ります!」
イザベルは深くお辞儀をすると、大急ぎで部屋から出ていった。
それから少しして。
イザベルが戻ってきた。
令嬢教育の教材とスケジュール表を、手に持っている。
「ありがとうね」
その二つを受け取ったエレナは、さっそくスケジュール表を見てみる。
今日の午前の予定は座学となっていた。
「座学の実施場所は、三階の書斎です。私はフレイ様とアクア様に声をかけてきます。エレナ様は準備を整い次第、書斎に向かってください」
「わかったわ。よろしく頼むわね」
エレナは今日の座学で使う教材を手早く準備。
それを持って、早足で部屋を出た。
エレナは三階の書斎に入る。
瞬間、とんでもない衝撃を受けた。
(…………なんてかわいいのかしら)
部屋の中央にある机に座っている、青色の髪をした一人の少女。
その子が、あまりにもかわいすぎた。
歳は七歳くらいだろうか。
肩の上で切り揃えられた青色の髪に、青空を思わせる澄んだスカイブルーの瞳をしている。
あどけない顔立ちはこれでもかというくらいに整っていて、まるで人形のようだった。
ドゥランシア公爵家の双子――フレイとアクアのうちの、どちらかだろう。
(美少女とは聞いていたけど、まさかこれほどまでとはね)
実物は噂をはるかに超えてきた。美少女を越えた、超絶美少女だ。
(あれ? 一人だけ?)
ここでエレナは、一人しかいないことに気付いた。
フレイとアクアに声をかけてくる――イザベルはそう言って部屋を出ていったはずだ。
双子のうちのもう一人は、どうしたのだろうか。
ちょうどそのとき、イザベルが書斎に入ってきた。
入り口に立っているエレナへ向けて、頭を下げる。
「申し訳ございません。フレイ様にも声をかけたのですが、部屋から出てきてくれませんでした」
(ということは、来てくれている青髪の子の方がアクアね)
脳内メモにそんな書き込みをしつつ、エレナは残念そうな顔をする。
「……フレイにも来てほしかったけど、仕方ないわね。令嬢教育を始めましょうか」
フレイと一度も話したことがないエレナが呼びに行っても、結果は同じだろう。
フレイの問題は今はどうしようもできない。
のちのち解決するしかない。
であれば今やることは、決まっている。
こうして来てくれたアクアに、令嬢教育を一生懸命教えることだ。
(デビュー戦、頑張りましょうか!)
意気込んだエレナは、中央にある机へ向かっていく。




