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【28話】みんなでお月見


 三人の誕生日から、一か月が経った。

 

 食堂では今、四人が夕食を食べるために集まっている。

 しかし、食事の手を動かしているのは三人だけだ。

 

 エレナの右隣に座っているアクアだけは、食事をしていない。

 ぼんやりした顔で、窓を眺めていた。


(お腹いっぱいなのかしら?)


 エレナは右隣へ顔を向ける。


「どうしたのアクア?」

「お月様がとっても綺麗だったので、ここから見ていたんです」


 それを聞いた三人も、窓へ顔を向ける。

 アクアの言う通り、空には綺麗な満月が浮かんでいた。

 

(綺麗なお月様ね)


 真っ黒な空で明るい光を放っている光景は、幻想的で美しい。

 エレナはうっとりする。

 

 ジオルトとフレイも、まっすぐに一点を見つめている。

 視線の先にある月をじっと見つめ、見とれていた。

 

(外で見たらもっと美しいんでしょうね)

 

 ここからでも十分美しいが、食堂の窓があまり大きくないため全体が見えない。

 遮るものがなにもない外であれば、ここと違ってくっきりなはず。さらに美しく見えることだろう。

 

(……そうだわ!)


 エレナは良いことを思いついた。

 

「このあとみんなで外に出て、お月見しませんか?」

「行きたいです!」


 アクアが真っ先に賛成する。

 瞳はらんらんと輝いていた。

 

 ジオルトとフレイも、それに続いて笑顔で賛成してくれた。

 

 

 夕食を終えた後。

 四人はドゥランシア邸の庭園に出てきた。


 横長のベンチに一列に並んで座って、真っ黒な空に浮かぶ満点の月を見上げる。

 遮るものがなにもないので、食堂の窓と違って全体が見える。

 

 くっきりと見える月は、一段と綺麗だった。

 

 思っていた通りだ。

 外に出てきて良かった。

 

「綺麗だわ……!」

「わぁ……!」

 

 エレナの両隣に座る双子から、感嘆の声が漏れる。

 

「美しいな」


 そして、ジオルトもだ。

 三人とも、外から眺める満月の美しさをじっくりと堪能していた。


 そのとき。

 ふいに月を見上げているジオルトの横顔が、エレナの目に入った。

 

 月に照らされている整った顔立ちは、なんとも美しい。

 まるで絵画のようだ。

 

(空に浮かんでいる満月よりも、こっちの方が魅力的だわ)


 以前にも月に照らされた彼に見とれてしまったことがあったが、美しいものというのはやっぱり何度見ても美しい。

 ジオルトの美丈夫さというものを、エレナは改めて実感していた。

 

「あ! 私、屋敷の中に忘れ物してきちゃったわ!」


 フレイが大きな声を出した。

 

 しかしなんだろうか、ものすごく棒読みだ。

 わざとらしい。

 

「ちょっと取ってくるわね。アクアも行くわよ」

「……え、私は忘れ物なんて――」

「いいから来るのよ! ……二人はここでゆっくり楽しんでいてね! 追いかけてきたりしたら、絶対ダメなんだから!」


 エレナとジオルトにビシッと言ったフレイは、アクアの手を取った。

 ちょっと強引にアクアを引っ張って、屋敷の中に戻っていった。

 

(引っかかるわね……)


 わざとらしい棒読みといい、アクアを強引に引っ張っていったことといい、フレイの行動は明らかに不自然。

 なにを企んでいるのだろうか。

 

「フレイはどうしたのでしょうか?」

「わからん。フレイの行動はなかなか読めないからな。……しかし、『楽しんでね』か。フレイにああ言ってもらえる日がくるとはな」


 ジオルトから漏れた声は楽し気。

 口角はわずかに上がっている。

 

「以前の関係性のままであれば、絶対にありえなかったことだ。こうなれたのもすべて、君のおかげだな。あらためて君の存在の大きさを感じる」


 月を見上げていたジオルトが、ゆっくり顔を戻す。

 横を向くと、エレナをまっすぐに見つめた。


「ありがとう。君という素晴らしい女性に出会えたことが、俺の人生で最大の幸運だ」

「――!!」


 ボン!

 顔を真っ赤に染め上げたエレナの頭から湯気が上がる。

 

 エレナはプイッと顔を背けた。

 どうしても今は、ジオルトを見ていられなかった。

 

 心臓がドクンドクンと鼓動を打ち鳴らす。

 爆発しそうなくらいに激しい高鳴りは、間違いなく過去一番だ。


 社交パーティーの一件からエレナは、ジオルトのことを意識するようになっていた。

 エレナのことを『俺の大切な家族』と言ってくれた彼に、ときめいてしまった。

 

 そのときめきは消えなかった。

 むしろ、日に日に大きく膨らんでいった。

 

 そして一か月の前の誕生日の、あの日。

 エメラルドのネックレスをもらったときに、爆発した。


 これでもかというくらいに、ジオルトはエレナを大切にしてくれている。

 それを痛感したあの瞬間、はっきりと気づいたのだ。

 

 ジオルトのことが好き、なのだと。

 

 でも、その気持ちを口にはできない。

 それは決して、許されないことだ。

 

 この結婚に愛はない。

 ジオルトを好きになるのは、立派な契約違反だ。

 もし彼への気持ちを口にしたら、この生活が終わってしまうだろう。

 

 そんなのは絶対に嫌だ。

 

 三人に囲まれた今の暮らしは幸せで、なににも代えがたい。

 まだまだ続けていきたい。ずっと終わってほしくない。

 

 だからエレナは、恋心を隠すしかなかった。

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