【27話】三人の誕生日
ジオルト、フレイ、アクア――三人の誕生日当日。
四人はドゥランシア邸の食堂で、夕食を食べていた。
エレナと双子の足元には、ジオルトへのプレゼント――スカーフが入った包みが置いてあった。
双子にはそれぞれ、エレナの合図でプレゼントを渡す、ということを事前に伝えてある。
(そろそろいい頃合いね)
エレナは両隣に座っている双子に目配せ――合図を送った。
三人は食卓テーブルの下に隠してあった包みを持って、いっせいに立ち上がる。
「「「お誕生日おめでとうございます!」」」
三人は口を揃えてそう言ってから、ジオルトへ包みを差し出した。
三人からのサプライズレゼントに、ジオルトはびっくり。
そして、双子もびっくりしている。
フレイには、アクアと街へプレゼントを買いに行ったことを話していない。
アクアにもそうだ。
フレイと行ったことは話していない。
「お姉ちゃんもお父様へのプレゼントを買っていたんだね。びっくりしちゃった。実は私もね、この前エレナ様と買いに行ったんだよ」
「え、あんたもエレナと行ったの? 私もそうなんだけど……」
双子が顔を見合わせる。
そして、じーっ。
二人とも、ジト目でエレナの顔を見上げてくる。
どういうこと? 、と言いたげだ。
事情をすべて知っているエレナは苦笑い。
笑ってごまかす。
「ジオルト様。これは私たちからのプレゼントです。受け取ってください」
「あ、あぁ」
まだ驚いているジオルトではあったが、おずおずと手を伸ばした。
三人からそれぞれ、三つの包みを受け取る。
「開けてもいいか?」
三人は大きく頷く。
包みを開けたジオルトは、「おぉ……!」と感嘆の声を漏らした。
口元には嬉しそうな笑みが浮かんでいる。
「誕生日プレゼントをもらうのはこれが初めてだが、こんなにも嬉しいものだな」
ジオルトの声はかすれている。
感動しているのか、少し泣きそうになっていた。
プレゼントを渡した三人は顔を見合わせると、全員歓喜の笑みを浮かべた。
ジオルトに、こんなにも喜んでもらえた。
プレゼントは大成功だ。
「じゃあ次はエレナの番ね」
フレイは足元の包みを手に取ると、エレナへそれを差し出した。
「私にくれるの?」
「うん。開けてみて」
包みを受け取ったエレナは、中に入っているものを取り出した。
「これって……!」
入っていたのは緑色のリボン。
エレナはそれに、見覚えがあった。
スカーフとリボンを買った、あの服飾店に売っていたものだ。
帰り際フレイがひとりで店内に戻っていったのは、これを買うためだったのだろう。
「エレナにはいつもお世話になっているから、そのお返しよ!」
「わ、私も……!」
アクアは両手の手のひらを上に向けて、エレナへ差し出した。
その上には、フレイと同じ緑色のリボンが乗っている。
アクアもきっと、フレイと同じだ。
帰り際店に戻ったのは、これを買うためだったのだろう。
「エレナ様はいつも私のことを、なによりも大切に考えてくれています。だからお返しがしたかったんです!」
アクアからリボンを受け取ったエレナは、両腕を広げた。
双子をギュッと抱きしめる。
「二人ともありがとうね。とっても嬉しいわ」
「ほんと? 喜んでくれてよかったわ!」
「嬉しいです! エレナ様大好き!」
「そうだ。あなたたちにも私からプレゼントがあるの。あとで私の部屋に来てちょうだい」
エレナが体を離す。
双子は笑いながら跳び上がった。
プレゼントをもらえるのが、よほど嬉しいらしい。
リボンを渡したら、二人はもっと喜んでくれるだろう。
どんなかわいい反応をしてくれるのか、今から楽しみだ。
「まさかフレイとアクアも、俺と同じことを考えていたとはな」
ジオルトが小さく呟く。
(どういう意味かしら?)
ジオルトの言葉が理解できない。
大きな疑問符が浮かんでしまう。
「フレイ、アクア。お前たちにはドレスを買ってある。俺からの誕生日プレゼントだ。ゲストルームにあるから見てくるといい」
その言葉に、双子は大喜び。
二人とも駆け足で食堂を出ていった。
「そして、エレナ。君にはこれだ」
ジオルトは、懐からネックレスを取り出した。
トップには飾られているのは、大きなエメラルド。
緑の輝きは神秘的で、息を呑むくらいに美しかった。
「いつもありがとう。君には本当に助けられている。これはその感謝だ」
優しい笑みを浮かべたジオルトは、エレナの手のひらにそっとネックレスを乗せた。
エレナの頬を涙が伝う。
でもそれは、悲しいからでも苦しいからでも辛いからでもない。
嬉しいからだ。
三人はそれぞれ、エレナへ気持ちのこもったプレゼントをしてくれた。
大切に想ってくれていることが、痛いくらいに伝わってくる。
そのことが本当に嬉しかった。
いっぱいの温かな気持ちが、全身に溢れていく。
「ありがとうございます……!」
ゲストルームへ向かった双子へ。
そして、目の前にいるジオルトへ。
エレナはありったけの『ありがとう』をこめて、大切な三人に感謝を伝えた。
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