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【26話】アクアとお買い物


 アクアとの約束の時間である午後二時――の、十分前。

 エレナはドゥランシア邸に戻ってきた。

 

「急がないと!」

 

 ギリギリまでフレイと遊んでから帰ってきたことで、時間がもうない。

 大急ぎでアクアの部屋へと向かう。

 

 バターン!

 アクアの部屋のドアを勢いよく開ける。

 

「い、行きましょうか」


 急いだ甲斐もあり、なんとか約束の時間には間に合った。

 ギリギリセーフ。

 

「エレナ様、大丈夫ですか?」


 息を切らしているエレナを、アクアが心配そうに見つめた。

 

 エレナは、大丈夫よ、と明るく言う。

 大事な娘たちのためならば、どれだけでも頑張れる。なんにも問題はなかった。

 


 一時間ほどして。

 街へ到着した二人は、道の上を歩いていた。

 

 アクアはエレナの右腕に両腕をまわし、体をぴったりとくっつけるようにして歩いている。

 いつものように手を繋ぐだけでなく、今日はなぜか体ごとくっつけているスタイルだ。密着度が段違いに高い。

 

「今日はいつもと違うわね。どうしたの?」

「今はお姉ちゃんもお父様もいません! エレナ様を独り占めできるのが嬉しいんです!」

 

 アクアがいたずらっ子のような笑みを浮かべる。

 

(…………私の娘、かわいすぎるんだけど!?)


 今日のアクアは普段のしっかり者からは想像できないほどに、べったり甘々。

 そのギャップが、とてつもないかわいさを生み出していた。

 悶えすぎて死にそうになってしまう。

 

 フレイもアクアも、どうしてこうかわいいことを言ってくるんだろうか。

 そんなにもエレナをキュン死させたいのだろうか。

 

(めちゃくちゃに抱きしめてハグしたいけど……我慢よ!)


 グッと唇を噛む。

 午前と同じく、頭を撫でるだけにとどめておいた。

 

「アクアはなにを買うか決めているの?」

「お父様にはスカーフ。お姉ちゃんにはリボンを買おうと思っています!」


(スカーフとリボン……フレイとまったく同じね)


 さすがは双子。

 考えていることが同じだった。


 そうなるともちろん、行くところも同じ。

 二人は服飾店に向かった。

 

 

 店内に入った二人は、まずはスカーフ売り場へと向かった。


「これがいいです!」


 たくさんある中から、アクアは一つを手に取る。

 選んだのは、青色のスカーフだった。

 

「クールなお父様にはぴったりな色です! さらにかっこよくなること間違いなしです!」

「うん! 私もそう思うわ!」

「そういえば、エレナ様もお父様にプレゼントを用意するのですか?」

「え……うん、そうね。買おうとは……思っているわ。なにを買うかはまだ決めていないけど……」


 たじたじのエレナは、グダグダに答えた。


 午前中もフレイとここへ来ているということは秘密だ。

 実はもう買ってあるとは、言い出せなかった。

 

「それでは私と同じスカーフにしましょう!」


 身を乗り出したアクアが、キラキラとした瞳で見つめてくる。

 

(まさかアクアも、フレイと同じ提案をしてくるなんてね……)

 

 ここで断ればアクアもフレイみたくショックを受けて、泣き出しそうになってしまうのだろう。

 なんとなくわかってしまう。

 

 アクアの悲しむ顔を想像すると、エレナは断れなかった。

 青色のスカーフを二枚買うことにした。

 

 

 スカーフを選び終わった二人は、フレイへのプレゼントを買うためリボン売り場へ向かった。

 

「これをつけたらお姉ちゃんはもっとかっこよくなります! これにします!」

 

 アクアはオレンジ色のリボンを手に取った。

 夕焼けみたいに鮮やかなフレイの瞳と同じ色だ。きっと似合う。

 

「ぴったりね。それじゃ私はお会計をしてくるわ」

 

 アクアからオレンジ色のリボンを受け取ったエレナは、会計カウンターへ向かう。

 そのときさりげなく、シルバーグレーのリボンを手に取った。

 

 これはアクアへのプレゼントだ。

 上品さを際立たせるこの色は、落ち着いた雰囲気の彼女にぴったりだと思う。

 

 

 買い物を終えた二人は服飾店から出た。

 しかし出入り口を出てすぐ、アクアもフレイと同じように足を止めた。


「あ! ごめんなさいエレナ様。私ここで買いたい物があったのですが、すっかり忘れていました」

「なにが欲しいの? 言ってくれたら私が買ってくるわよ?」

「いえ、大丈夫です。すぐに買ってくるので、エレナ様はここで待っていてください」


 アクアは店内に戻っていってしまう。

 これもまた、フレイと同じだ。

 

(こんなところまで一緒なんて……双子ってすごいわね)


 驚異の一致率だ。

 遠くなっていく小さな背中を見ながら、エレナは感心していた。

 

 

 少しして、アクアが戻ってきた。

 

「今日はありがとうございました。エレナ様のおかげで素敵なプレゼントを買えました!」

「よかったわ。それじゃ次は、どこへ行きましょうか?」

「え? まだ帰らなくてもいいのですか!」


 アクアの声は弾んでいた。

 ウキウキしているのがよく伝わってくる。

 

「せっかくだし遊んで帰りましょう」


 フレイと遊んだのに、ここで帰るのは不公平だ。

 公平を期すなら、ちゃんと遊んでいかなければならない。

 

 アクアの顔がぱあっと輝く。

 

「実は私、エレナ様と行きたいところがたくさんあるんです!」


 それからエレナはフレイと同じ時間だけアクアとも遊んでから、ドゥランシア邸へ戻った。

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