【25話】フレイとお買い物
それから二日後の、午前九時。
街にやってきたエレナとフレイは手を繋ぎながら、舗装された道の上を歩いていた。
ドゥランシア邸からここまでは、約一時間。
正午までに買い物を終えれば、アクアとの約束である午後二時に十分間に合うだろう。
正午までは、まだ三時間ほどある。
買い物をする時間は、たっぷりと残っていた。
「……ふぁ~あ」
自由になっている方の手を口元にあてたフレイが、大きなあくびをした。
「今日は眠そうね。どうしたの?」
「ちょっと夜更かししちゃってね。寝不足なのよ」
「それは体によくないわ。しっかり寝なきゃダメよ」
「うん。でもエレナとお出かけするのが楽しみで、ワクワクしちゃって眠れなかったのよ」
「――!?」
エレナのハートが撃ち抜かれる。
その寝不足の理由はズルい。なんてかわいいことを言ってくれるんだろうか。
道の真ん中じゃなかったら、おもいっきり抱きしめていたところだ。
それに加えて、きっとハグもしていた。
でもここは、公衆の面前だ。
だからエレナは我慢。
抱きしめたい気持ちをグッとこらえて、頭を撫でるだけにとどめておいた。
「そういえば、フレイはなにを買うつりなの?」
「お父様へのプレゼントは、スカーフにしようと思っているわ」
社交パーティーのときにジオルトはスカーフを巻いていたが、ものすごく似合っていた。
その姿は印象的で、今でも頭に鮮明に残っている。
「アクアには、リボンを買おうと思ってるの」
(リボンをつけたアクア……かわいいわね)
想像するだけでもかわいい。
絶対に似合うこと間違いなしだ。
「二人にピッタリなプレゼントね。それなら服飾店へ行きましょうか!」
服飾店にはスカーフとリボン、その両方が揃っているはず。
そこへ行けば、目的のものが一気に手に入るだろう。
エレナとフレイは服飾店へ向けて、弾んだ足取りで歩いていった。
服飾店へ着いた二人は、店内に入る。
まずはジオルトへのプレゼントを買いに、スカーフ売り場へと向かった。
「どれにしようかしら」
売り場には、色々な種類のスカーフが売っていた。
眉を寄せながらそれらとにらめっこしていたフレイだったが、
「これにするわ!」
その中から一つを手に取った。
フレイが選んだのは、真紅のスカーフだった。
「かっこいい赤色のスカーフを巻いたら、お父様はさらにかっこよくなれるわ!」
「きっと喜ぶと思うわよ! ……私もスカーフにしようかしら」
「エレナもスカーフが欲しいの?」
「ううん、私じゃないわ。ジオルト様へ買っていこうと思ってね。実は私も、プレゼントをしようと思っているのよ」
「それじゃあ私と同じのにしなさいよ。うん、そうするのが一番いいわ!」
「でも、同じものをプレゼントするっていうのはちょっと……」
「なによ……私と同じものじゃ嫌だっていうの」
スカートの裾を両手でグシャっと掴んだフレイは、下を向いた。
声は潤んでいて、今にも泣き出してしまいそうになっている。
そんな反応をされてしまえば、嫌だなんて言えなくなってしまう。
こうなるともう、エレナに拒否権はなかった。
「私もフレイと同じスカーフにするわ」
エレナは真紅のスカーフを二枚買うことにした。
まったく同じものを二つ買うのは個人的にはどうかと思うが、
「うん! それがいいわよ!」
フレイが喜んでいる。
だからこれでいいのだ。
スカーフを選び終わった二人は、もう一つの目的――アクアへのプレゼントを買うためリボン売り場へ向かった。
「大人の雰囲気をしているあの子には、きっとこういう色が似合うと思うのよね!」
フレイはスカイブルーのリボンを手に取った。
青空のように澄んでいるアクアの瞳と同じ色だ。きっと似合う。
「ぴったりね。それじゃ私は、お会計をしてくるわね」
フレイから水色のリボンを受け取ったエレナは、会計カウンターへ向かう。
そのときさりげなく、金色のリボンを手に取った。
これはフレイへのプレゼントだ。
華やかなこの色は、いつも元気な印象の彼女にぴったりな色だと思う。
買い物を済ませた二人は、服飾店から出る。
これで誕生日プレゼントはバッチリだ。
しかし出入り口から出てすぐのところで、フレイの足が止まった。
「あ、私まだ買うものがあったんだわ」
「なにが欲しいの? 言ってくれれば私が買ってくるわよ?」
「大丈夫よ。ちょっと買ってくるから、エレナはここで待ってて」
フレイは店内に戻っていってしまう。
少しして、フレイが戻ってきた。
「これで二人へのプレゼントは買えたわね。帰りましょうか」
「えー、そんなの嫌よ。せっかく街に来たんだもの。まだ遊びたいわ」
「でも私、午後に予定があるのよね」
「……エレナと行きたい場所、たくさんあったのに」
フレイはガックリと肩を落とした。
目に見えてしょんぼりしている。
(このあとはアクアとの予定があるのよ! だからここは断らないと……!)
でも、できなかった。
エレナと行きたい場所がたくさんあった――なんて言われたら無理だ。
結局エレナは、時間ぎりぎりまでまでフレイと遊んでから帰った。




