【24話】二人のためならいくらでも!
社交パーティーから数日が経った、その日の夜。
私室にいるエレナのもとを、フレイが訪ねてきた。
横並びになって、ソファーにかける。
「来週はね、お父様の誕生日なの。だから私、プレゼントをあげたいの。前に四人で街に行ったとき、ドレスを買ってもらったでしょ。そのお返しがしたいのよ」
ずいっと身を乗り出したフレイが見上げてきた。
まっすぐな眼差しには、強い気持ちを感じる。
「でも一人だと不安だから、エレナに一緒に街への買い物に付き合ってほしいの」
「もちろんいいわよ!」
父に感謝の気持ちを伝えたくて、フレイは頑張ろうとしている。
そんな健気な娘の頼みを、応援しない訳にはいかない。
全力で力になりたい。
(それにしても、フレイは成長したわね)
ジオルトに対して最初はキツイ態度を取っていたあのフレイが、今ではプレゼントをしたいとまで思うようになった。
大きな成長だ。
「偉いわよ」
フレイの頭へ手を伸ばしたエレナは、赤色の髪をそっと撫でる。
フレイがギュッと抱き着いてきた。
くすぐったそうに笑って、上目遣いにエレナを見上げる。
「私、エレナにそうやってもらうの大好きよ!」
(………………待って。かわいすぎるわ)
あまりにもかわいい反応に、エレナの視界は真っ白に。
意識が彼方へ飛んでしまった。
「ちょ、ちょっと!? どうしたのよエレナ!」
「――!」
フレイに激しく両肩を揺さぶられたことで、エレナは意識を取り戻した。
危うく昇天してしまうところだった。あぶないあぶない。
「大丈夫?」
「心配かけてごめんなさい。大丈夫よ」
心配そうに見つめるフレイに、エレナは苦笑いでなんとかごまかした。
「それじゃあ、買い物は明後日にしましょうか」
明後日は、週に一度だけある令嬢教育の週休日。
街へ出かけるには、ちょうどいいだろう。
「わかったわ。あとそれから、このことはアクアには絶対に秘密だからね!」
フレイが語気を強める。
「実は私とアクアの誕生日も、お父様と同じ日なの。私、今年の誕生日はアクアにもプレゼントをしたい。だから、内緒にしておきたいのよ」
「うん。わかったわ」
(アクアを置いてけぼりするのはかわいそうと思ったけど……なるほど、そういう事情があったのね)
それなら納得だ。
妹を大切に想うお姉ちゃんの気持ちを無駄にはしない。
「ありがとうねエレナ!」
弾んだ声でお礼を言って、フレイは部屋から出ていった。
「私もプレゼントを買おうかしら」
三人はエレナにとって、かけがえのない大切な人たちだ。
エレナも誕生日プレゼントを贈りたい。
フレイと出かけたときに、なにか買うのがいいだろう。
「アクアです。入ってもいいですか」
フレイと入れ替わるようにして、部屋の外からアクアの声が聞こえてきた。
「いいわよ」
「失礼します」
部屋に入ってきたアクアは、エレナの隣へちょこんと座った。
上目遣いに見上げる。
「エレナ様にお願いがあるんです」
とろんとしたスカイブルーの瞳は、とってもキュート。
お願いを聞く前なのにも関わらず、もう頷きそうになってしまう。
「実は来週お父様と、それから私とお姉ちゃんの誕生日があるんです。それで私、二人にプレゼントを買いたいんです」
(あれ? ついさっきも同じようなことを聞いたわね)
アクアは、フレイと同じことを言っていた。
そしてその先も同じだった。
「一緒にお買い物に付き合ってくれませんか?」
「えぇ。行きましょう!」
アクアもフレイと同じようにして、家族に感謝を伝えようとしている。
だったらこっちの方も、応援しない訳にはいかない。
「ありがとうございます! それでは明後日に出かけるのはどうでしょう?」
「そうね。明後日は週休日だしそこが――」
言いかけたところで、エレナは言葉を切った。
明後日は既に、フレイとの予定が入っている。
ダブルブッキングになってしまうことに気付いた。
「……明後日は都合が悪いのですか? ですが、その日じゃないと誕生日に間に合いません」
明後日以外はすべて令嬢教育があるので、街へ出かけることができない。
では来週の週休日に行くのはどうだろうか、となるがそれはできない。
三人の誕生日は、来週の週休日より前に来てしまう。そこまで待っていたら間に合わない。
つまり、買い物に行けるタイミングは明後日の他になかった。
「大丈夫よ! 明後日に行きましょう! でも午後の二時からでいいかしら? 午前中は、ちょっと予定があるのよね」
アクアの頼みだけ断るなんてことはできない。
だから時間帯をずらすことで、二人との約束を守ろうと考えた。
「ありがとうございます! エレナ様、おやすみなさい!」
ペコリとお辞儀をして、アクアは部屋を出ていった。
「……さて、と」
午前中にフレイ。
午後にアクア。
一日で二件のお買い物。
思いがけず、明後日は中々のハードスケジュールとなってしまった。
だがこれも、かわいらしい二人のためだ。
彼女たちの喜ぶ顔を見るためなら、いくらだって頑張れる。




