表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/35

【22話】ジオルトの怒り


 ジオルトを見たメイリアは、瞳を大きく見開いた。

 

「『俺の妻』ってことは、もしかしてこの人がドゥランシア公爵!?」


 焦った顔になったメイリアは、やばい……! 、と小さく呟く。

 それからすぐに、取り繕った笑顔を作った。

 

「初めまして公爵様。私はメイリア・ハーシス子爵令嬢と申します。姉のエレナが、いつもお世話になっていますわ」

「くだらない挨拶などどうでもいい」


 メイリアはお茶を濁してこの場を切り抜けようとする。

 だが、ジオルトは取り合う気がなかった。


「貴様は今、なにをしようとしていた?」


 氷のように冷たい声が飛ぶ。

 ジオルトの雰囲気は鋭く尖っていて、怒りでいっぱいになっていた。

 

 そんな激しい怒りを正面から受けたメイリアは、バツが悪そうに目線をそらした。

 強張った表情には、ありったけの恐怖が浮かんでいる。

 

「なにって……ただ遊んでいただけですわ。そんな怖い顔をしないでください」


 委縮しながらも、メイリアはごまかしの言葉を吐いた。

 

 でもあれは、誰がどう見たって遊んでいたようには見えないだろう。

 ものすごい下手な嘘だ。

 

 メイリアは勉強が苦手だったが、昔から悪事に関してだけはかなり頭が回る。

 いつもであれば、こんな見え見えの幼稚な嘘はつかない。

 

 メイリアには、もう余裕がないのだろう。

 精神的にかなり追い詰められている証拠だ。

 

「嘘つき! なにが『遊んでいた』よ! あんたエレナに、ビンタしようとしてたじゃない!」


 エレナの後ろにいるフレイが、大声で叫んだ。

 幼稚な嘘はジオルトに指摘される前に、フレイによって暴かれてしまった。


「そいつ初めは、私のことビンタしようとしてたのよ。でも、エレナが私のことをかばってくれたわ。そしたら今度は、エレナをビンタしようとしたの!」

「……だ、そうだが?」

「私とお姉様はとっても仲良しなんですよ。それなのにビンタなんて、そんなことするはずじゃないですか。嘘つきは私ではなくご息女の方でしたね、あはははは――」

「黙れ」


 苦笑いするメイリアに、ピシャリ。

 ジオルトの声には、有無を言わせないようなたっぷりの威圧感が含まれていた。

 

「エレナと貴様の関係を俺は知っている。なにが仲の良い姉妹だ。すべて嘘ではないか」

「……そ、それは」


 メイリアはたじたじになっている。

 言い訳しようとしているが、なにも言えていない。


「ドゥランシア公爵家の人間を愚弄した罪は重い」


 ジオルトがメイリアを睨みつけた。

 激しい怒りが宿る真紅の瞳には、殺気のようなものまで感じる。

 

「制裁として、ハーシス子爵家の領地の半分を没収することとする」

「…………へ?」


 気の抜けたような声を上げたメイリア。

 顔がみるみるうちに青ざめていく。

 

 経済的余裕がないハーシス子爵家にとって、この制裁は大打撃。

 これが原因で経営が立ち行かなくなり、最終的には爵位が没収されるかもしれない。

 

「どうかお許しを!」


 大きな声で叫んだメイリアは、深く頭を下げた。

 こんなにも必死になっている彼女を見たのは、これが初めてだ。

 

「貴様は俺の大切な家族を傷つけようとした。絶対に許さん」


 ジオルトは断固として許す気はなかった。

 一瞥し、背中を向ける。

 

「……そ、そんな」

 

 メイリアは糸が切れたようにして、その場に崩れる。

 真っ白になった顔は、魂が抜けてしまっているかのようだった。

 

「三人とも、行こうか」


 ジオルトの声に、エレナと双子は静かに頷いた。

 四人はこの場をあとにした。

 

 

 それから少しして、パーティーは閉幕となった。

 ホールを出た四人は、ドゥランシア邸への帰りの馬車に揺られていた。

 

 エレナの両隣では、双子がぐっすり眠っている。

 

 パーティーで疲れてしまったのだろう。

 二人ともそっくりな、かわいい寝顔をしている。

 

「エレナのことは私が守るんだから!」

「大丈夫ですよエレナ様。私がいます」

 

 双子から寝言が聞こえてきた。

 夢の中でもエレナを守ってくれているみたいだ。

 

「ありがとうね二人とも」

 

 微笑んだエレナは、二人の頭をそっと撫でる。

 それから、正面へ顔を向けた。

 

「ジオルト様。今日は本当にありがとうございました」


 ピンチに駆けつけてくれたジオルトに、心を込めてお礼を言う。

 

 ジオルトは最後に、『俺の大切な家族』とエレナのことをそう言ってくれた。

 まっすぐでブレのない本気さが、そこにはしっかりとあった。

 

 言葉を聞いたとき、温かい感情が体に広がった。

 大事にしてもらえていることが、痛いくらいに伝わってきた。

 

 実の家族である両親やメイリアよりも、ジオルトはずっとエレナのことを大事にしてくれている。

 契約による嘘の関係であっても、これだけは本当の事実だった。

 

「当然だ。君は俺にとって大切な人だからな」

「――!!」

 

 エレナはバッと、顔を下に向けた。

 頬には熱が集まっている。

 

 ジオルトが言っている『大切な人』というのは、娘たちとの距離を縮めてくれた恩人、とそんな風な意味合いだろう。

 決して絶対に、エレナが思っているような意味ではないはずだ。

 

 だから顔を赤くするのはおかしい。

 こんなにも心臓が高鳴るのも変だ。

 

 頭ではわかっている。

 でも、体はそうではなかった。

 

 熱い気持ちになってしまう。

 勘違いとわかっているのに、とまらなかった。

読んでいただきありがとうございます!


面白い、この先どうなるんだろう……、少しでもそう思った方は、【↓にある☆☆☆☆☆から評価】を入れてくれると作者の励みになります!

【ブックマーク登録】もしているだけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
なぜ公爵が、子爵の領地を、没収できるの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ