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【19話】社交パーティー


 満天の星が浮かぶ夜。

 ドゥランシア公爵家の四人は、馬車に揺られていた。

 

 エレナの両隣に座っているフレイとアクアは、パーティードレスを着ている。

 二人ともお姫様みたいにかわいらしい。

 

 そしてエレナもまた同じように、ドレスを着ていた。

 

 ドレスの色は三人とも全員違うが、デザインは全員一緒。

 お揃いとなっている。

 

 先日街へお買い物に行ったときに、ジオルトに買ってもらったあのドレスだ。

 

 そのジオルトはというと、エレナの対面に座っていた。

 

 黒いジャケットを羽織り、首には銀色のスカーフを巻いている。

 普段とは違う、ビシッとした正装だ。とっても似合っている。

 

 馬車が向かっている先は、大きなホール。

 四人はこれから、社交パーティーに出席することになっていた。

 

「今日のパーティーには多くの貴族が出席するが、変に緊張する必要はないぞ。のびのびやってくれていい」


 三人へ、ジオルトが声をかける。

 緊張しないように気を遣ってくれた。

 

 双子は大きく頷く。

 しかし彼女たちに挟まれているエレナだけは、アクションを取れないでいた。


 不安、だった。

 引っ込み思案のエレナは、昔から人が大勢いる場所が得意ではない。

 

 しかも今日は、ドゥランシア公爵夫人として参加する初の公の場。

 きっとたくさんの人が注目してくるだろう。

 

 それを考えると、胸がざわついてしまう。

 

 公の場でドゥランシア公爵夫人として振る舞うこと――初夜にサインした契約書には、そう明記されていた。

 だからこうなることは、最初からわかっていた。エレナなりに覚悟もしていたつもりだ。

 

 でもいざそのときを迎えると、どうしても緊張してしまうのだった。



 馬車が会場に着いた。

 

 ジオルトがまず、馬車から降りた。

 三人もあとに続く。

 

「二人ともおいで」

 

 エレナが両手を伸ばすと、すぐに双子がやってきた。

 フレイが左手、アクアが右手をそれぞれ握った。

 

 以前に街へ買い物にいったときと同じく、両手に花。

 だがエレナは、あのときみたく浮かれてはいない。


 緊張が勝ってしまい、今はそんな気分になれなかった。

 

 四人は横並びになって歩いていき、会場に入る。

 

 瞬間、エレナへ向けていっせいに視線が飛んできた。

 会場内にいる貴族たちのものだ。

 

 絡みつくような視線は、まるで品定めでもしているかのよう。

 貴族たちはみな、ドゥランシア公爵夫人がどんな人物なのかを確かめていた。

 

「……ぅ」

 

 多くの視線を一気に浴びたことで、エレナの口から小さな声が漏れる。

 

 ぞわぞわとした気色悪い感覚が這い上がってきた。

 体が冷たくなる。緊張で手が震えてきてしまう。

 

「大丈夫よエレナ。怖がることはないわ!」

「私たちが一緒です! 安心してください!」

 

 エレナの両手を握っている双子は、手を握る力を少しだけ強めた。

 私たちが守る、という強い意志を感じる。

 

「俺たちがついてる。君は一人じゃない」


 横を向いたジオルトが、エレナの肩に優しく手を乗せた。

 大きな手のひらは力強く、たくさんの安心をくれた。

 

 緊張でいっぱいになっているエレナのことを、三人はそれぞれ励ましてくれた。

 繋いだ両手から、肩に乗っている大きな手から、温かい気持ちが全身に広がっていく。

 

 緊張が解けていく。

 冷たくなっていた体が元に戻った。

 

「ありがとう」


 心をこめて感謝を伝える。

 三人のおかげで、もう平気になった。

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