【15話】エレナの狙い
その日の夜。
食堂では、四人が夕食を食べていた。
(雰囲気が変わったわね)
エレナは食事を口に運びながら、そんなことを思う。
これまであった、緊張感のようなものが消えていた。
日中の魔法実技講習があったことで、ジオルトと双子の距離が縮まったからだろう。
(これなら問題なく、私の最終目的を言えるわ!)
魔法実技の講習は、最終目的のための準備に過ぎない。
エレナの狙いは別にあった。
「四人で街へお買い物に行きましょう!」
仲良くお買い物をすれば、ジオルトと双子の仲は一気に縮まるだろう。
そこでプレゼントを買ってあげたりしたら、さらに仲良しになれること間違いなしだ。
それこそがエレナの最終目標だった。
しかしながらお買い物というのは、一緒にいる時間がかなり長い。
距離があまり縮まっていない状態でいきなり買い物に出かけたら、かえってストレスになってしまう。そうなれば逆効果だ。
そこでエレナはまず、ジオルトと双子の距離を縮めようと考えた。
それが日中の魔法実技の講習だ。
おかげで、距離が大きく縮まった。
今の距離間であれば、長時間一緒にいてもストレスを感じないはずだ。
「いいわね!」
「楽しみです!」
エレナの両隣から明るい声が上がる。
フレイもアクアも大賛成のようだ。
「ジオルト様はどうでしょう?」
「もちろん俺も行こう」
ジオルトはニヤつきそうになるのを、必死に我慢していた。
恥ずかしいのか、平静を装おうとしてる。
でも、エレナにはバレバレだった。
食事を終えたエレナは、私室に戻ろうと通路を歩いていた。
その途中で、
「待ってくれ」
後ろから声をかけられた。
声をかけてきたのは、ジオルトだ。
小走りでやってきた彼は、エレナの隣に並んだ。
「昼間に言っていた君の最終目的が、まさか四人で買い物に出かけることだったとはな。そうくるかと思って、驚いたよ」
ジオルトは嬉しそうに笑う。
「しかしなぜ、魔法実技の講習を挟む必要があったんだ?」
「買い物に出かけるとなれば、長時間一緒にいることになりますからね。あんまり仲が良くない状態だと、ストレスになってしまいます。ですからまずは、仲を縮める必要があったのですよ」
「それであのとき、『準備』と言ったのか……なるほど。先を見据えて行動したわけだな。君はとても聡明な女性だ。尊敬に値する」
「……あ、ありがとうございます」
褒められるのは嬉しいが、ジオルトのような優秀な人間にそこまで大げさに言われるのはなんだかこぞばゆい。
エレナは照れてしまう。
「あとは俺に任せてくれないか? 君があげてくれた成果を絶対に無駄にはしない。三人が楽しめるような一日に必ずしよう」
意気込んだ顔をしたジオルトは、握った拳でドンと胸を叩いた。
やる気満々だ。
「期待していますね」
きっと当日は、楽しい一日になるだろう。
今から出かける日が楽しみだ。




