【14話】双子の気持ち
エレナ、フレイ、アクアは三階の書斎にいた。
令嬢教育の座学を行っている。
「それじゃあ休憩にしましょうか」
キリがいいところまで進んだので、休憩に入る。
スケジュール表を手に取ったエレナは、予定の確認を行っていく。
(今日は一日座学で、明日は魔法の実技教育ね)
「ねぇエレナ」
そこへ、フレイがやってきた。
いつもに比べてしおらしいというか、元気がない。
「今朝のアレって本気なのかな?」
「ジオルト様があなたとアクアに言ったこと?」
「……うん」
「本気よ。ジオルト様はこれまでの態度を反省して、変わろうとしているの」
「でも、どうしていきなりそんなこと言い出したのよ。これまでずっと私とアクアのことなんか、知らんぷりしてたのに……」
「それはね、私たち三人が仲良しだからよ」
エレナはふふふと、楽しい笑みを浮かべる。
「私たち三人が仲良くしているところを見たジオルト様は、自分も仲間に入りたい、ってそう思ったの。それで、フレイとアクアと仲良くなる手伝いをしてほしい、って私のところへ相談にきたのよ」
「それはほんとですか!」
アクアもこちらへ近づいてきた。
どたどたという足音には、いっぱいの喜びが溢れている。
「……うぅ」
フレイはバツが悪そうにしていた。
事実を知った今、今朝のジオルトへの言動を悔やんでいるのかもしれない。
「二人はどう? ジオルト様と仲良くなりたい?」
「はい! お父様とも仲良くなりたいです!」
アクアは元気いっぱいに答える。
「……私も」
フレイが小さく呟いた。
グッと拳を握ってエレナを見つめる。
「お父様は私たちを捨てないでくれたわ。お父様がそう思ってくれるなら、私も仲良くなりたい」
三人とも仲良くなりたい気持ちは持っている。
あとはなにかのきっかけさえあれば、うまくいくはずだ。
「そうだわ!」
手元のスケジュール表を見たエレナは、良いことを思いついた。
翌日。
エレナ、フレイ、アクアは、ドゥランシア邸の庭園に来ていた。
今日の令嬢教育は座学ではなく、魔法の実技講習。
実際に魔法を放つので、いつもの書斎ではなく広い場所で行う必要があった。
横並びになっている双子の前に立ったエレナは、小さく咳払いをした。
「講習を始める前に、まず二人にお知らせがあります。今日の教育係は私ではありません。この人です!」
すぐ隣に立っている男性――ジオルトへ体を向けた。
昨日のこと。
ジオルトのもとを訪ねたエレナは、明日の魔法実技の講師をしてくれるようお願いした。
「それは別に構わないが、どうしてだ?」
「きっかけさえあれば、フレイとアクアとの距離が縮まると思うんです!」
「……講師をすることが、そのきっかけになるということか?」
「はい。二人と触れ合う時間が増えれば、それだけ仲も縮まるはずです」
「……確かにな。そういうことであれば、ぜひやってみよう。素晴らしい提案、感謝するぞ」
そんな経緯で快く講師を引き受けてくれたジオルトは、さっそく二人に指導を始めていた。
「まずは魔法発動の基本姿勢からだ」
ジオルトの魔術師としての腕は超一流。
国内最強の魔術師とも言われている。
講師としては、これ以上にないくらいの人物だった。
ジオルトの指導に、フレイとアクアうんうんと頷いている。
その眼差しは真剣だ。
(いい雰囲気ね)
エレナは邪魔にならないようにして、スーッとその場を離れる。
少し離れた場所から、三人を見守ることにした。
魔法の指導を行っているジオルトだが、ただ解説しているだけではない。
身振り手振りを交えたり難しい用語を使わないようにしながら、小さな子どもにもわかりやすいように教えていく。
工夫をこらしていた。
フレイとアクアは真面目に指導を受けていた。
でも、それだけではない。
ときときではあるが、楽しそうな表情になっている。
そしてそれを見ているジオルトも、笑顔になっていた。
これでジオルトと双子の距離は、かなり縮まったに違いない。
魔法実技の教育が終わった。
ジオルトがエレナの方へ近づいてくる。
「君のおかげで娘たちとの距離が縮まった気がする。提案をしてくれてありがとう」
「いえいえ。それに、お礼を言うのはまだ早いですよ。これはあくまで準備にすぎませんからね。最終目的は別にあります」
「……うん?」
「夕食のときを楽しみにしていてくださいね」
不思議そうにしているジオルトへ、エレナはニヤリ。
企みのある笑みを口元に浮かべた。