表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/35

【11話】ジオルトからの頼み


 夕食のあと。

 

 エレナはゲストルームのソファーに座っていた。

 ジオルトに呼び出されたのだ。

 

 ソファーに座るエレナはかしこまり、体を縮めている。

 表情は緊張で強張っている。

 

 これから説教でも受けるかのような雰囲気だった。

 

「どうして教育係になった?」

 

 間にテーブルを挟んだ向かいのソファーから上がったのは、ジオルトの声だ。

 声色は普通なのだが、やっぱり怖い。

 

「イザベルから簡単に報告は受けているが、君の口からもう一度聞かせてほしい」

「新たな教育係を探すのが困難と聞いて、それならば私がやろうと思ったのです。他に仕事もないですし、ちょうどいいと思いまして……。お伺いもせずに勝手なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」

「責めているわけではない。むしろ、感謝している」


 ジオルトの口元に微笑みが浮かぶ。

 こうして笑っているところを見たのは初めてだ。

 

「イザベルから聞いているかもしれないが、教育係をしてくれそうな人間にオファーを出してもなかなか引き受けてくれないのだ。だから、君が引き受けてくれて助かった。それに、あんなにも楽しそうな娘たちを見たのは初めてだ」

 

 それに今気づいたのだが、ジオルトの雰囲気が初夜と違っている。

 他者を寄せ付けないようなとげとげしい雰囲気を、今はもう感じない。

 

(ずいぶんと柔らかくなったのね)

 

 強張っていたエレナの表情が元に戻る。

 もう委縮する理由がなくなった。

 

「それにしても驚いた。アクアはまだしも、フレイの大人嫌いはかなりものだ。フレイは大人に対して、誰にも心を開いていない。だが、君にだけは違う。かなり懐いていた。教えてほしい……いったいどんな方法を使ったんだ?」

「そんなに、すごいものではありませんよ。私はただ、フレイの悩みを聞いてお話をしただけです」

「……悩み?」


 優秀な双子の妹に劣等感を抱いていたこと。

 そんな自分を姉失格と自己嫌悪していたこと。

 

 不思議そうにしているジオルトに、フレイがどんな悩みを抱いていたのかを伝えた。

 

「……まさかフレイに、そんな悩みがあったとはな。もう長いこと一緒にいるというのに、まったく気がつかなかった」


 ジオルトは大きく息を吐く。


「だが、そうなるのも当然か。俺はこの七年間、二人となるべく関わらないようにしてきたんだからな」

 

 フッ、と自嘲を浮かべる。

 見ているだけで痛々しい。


「俺の前妻――フレイとアクアの母親については知っているか?」

「アクアから少し聞きました。確か二人を産んですぐ、ここを出ていかれてしまったとか」

「その通りだ。『あなたには人間の温かみがないわ。ずっと人形といるみたいだった』、その言葉を最後に前妻は家を出ていった。娘たちに深く関われば、俺も二人にそんな風に思われてしまうかもしれない――それが怖くて、交流を避けてきたんだ」


 夕食のとき、ジオルトと双子の間には距離を感じた。

 どうにも不可解だったが、話を聞いて納得した。

 

 あのとき感じた距離は、父と娘の七年間だ。

 まともにコミュニケーションを取ってこなかったからこそ、あんな風に距離が開いてしまったのだろう。


「でもそれは、間違いだったのかもしれない。君の隣で楽しそうにしているフレイとアクアを見て、思ったんだ。俺も娘たちにこんな風に笑ってほしい、とな」


 優しい声色が響く。

 心からの気持ちが伝わってくる。


「……エレナ。君に頼みがあるんだ」


 真剣な表情をしたジオルトが、エレナをまっすぐに見つめた。

 

「恥ずかしながら七年間も娘たちまともにコミュニケーションに取っていないせいか、距離の詰め方がわからない。だからどうか、手伝ってくれないだろうか。たった一週間で娘たちと仲良くなった、君の力を借りたいんだ」

「わかりました」


 エレナは迷うことなく、すぐに返事をした。

 

 娘二人と仲良くしたいというジオルトの気持ちは、真剣そのもの。

 その気持ちを向けられたエレナは、どうにかして力になってあげたいと強く思ったのだ。

読んでいただきありがとうございます!


面白い、この先どうなるんだろう……、少しでもそう思った方は、【↓にある☆☆☆☆☆から評価】を入れてくれると作者の励みになります!

【ブックマーク登録】もしているだけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ