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【1話】愛のない結婚


「これは契約結婚だ。俺と君の間に、愛が生まれることはない」


 初夜。

 ゲストルームでそんな宣言をしてきたのは、ジオルト・ドゥランシア公爵だ。

 

 美しい銀髪に、真紅の瞳が輝いている。

 眉間にしわを寄せているジオルトは、どっかりとソファーにかけていた。

 

(作り物みたいに綺麗な顔をしているわね)

 

 誰も寄せ付けないようなとげとげしい雰囲気を放つジオルトにそんな感想を抱くのは、ハーシス子爵家の令嬢――エレナ。

 間にテーブルを挟み、ジオルトの対面のソファーに座っている。

 

 年齢は二十歳。

 金色の長い髪に、緑色の瞳をしている。

 

 エレナとジオルトは、本日より夫婦となった。

 

 でも二人の関係は、一般的な夫婦ではない。

 契約結婚により結ばれた、愛のない形だけの関係だ。


 どうしてこうなったかというと、その発端はジオルトにある。

 

 ドゥランシア公爵家の当主であるジオルトには離婚歴があり、七歳の双子の娘と一緒に暮らしているという。

 本人は結婚にはもうこりごりらしいのだが、周囲から「子供のためにも再婚したらどうだ?」と頻繁に言われているのだとか。

 それらの声をわずらわしく思ったジオルトは、声を消すために契約結婚をしようと決めたらしい。

 

 その相手に選ばれたのが、エレナだ。

 

 ジオルトへ契約結婚を申し込んできた女性は非常に多く、とんでもない倍率だったらしい。

 エレナは見事にそれを勝ち抜いて、ドゥランシア公爵夫人となった。

 

 決め手となったのは、『自我が希薄で、欲がなさそうだったから』というもの。

 どうしてジオルトがそういう女性を探していたかは不明だが、ともかく彼の希望の人物像にエレナはピッタリだったらしい。


「受け取れ」


 懐から紙とペンを取り出したジオルトは、その二つをエレナへ手渡した。

 

「これは契約書だ。目を通して問題なければサインをしてくれ」

「承知しました」


 受け取った契約書に目を通していく。

 

・公の場でドゥランシア公爵夫人として振る舞うこと。それ以外の仕事は課さない。


・生活するにあたって必要なものは、すべてドゥランシア公爵家で負担することとする。それ以外にも給料という形で、自由に使える金を支払う。


・互いに必要以上に干渉しないこと。


 記載されていたのは、そんな内容だった。

 

「問題ありません」

 

 どれも問題ない――というより、ものすごく好条件。

 ほとんど自由に過ごしていい上に、お金まで貰える。なんて最高の生活だろう。

 

 テーブルの上に契約書を置き、サインをしていく。

 

 ジオルトがとげとげしい雰囲気が放っていることで、ドゥランシア邸のゲストルームの空気はかなり重苦しい。

 しかしサインをしているエレナの心は、そんな空気とは場違いなほどご機嫌に弾んでいた。

 

 契約条件が最高ということももちろんあるが、それだけではない。

 

(もう()()()に帰らなくていいんだわ!)

 

 あの家というのは、実家であるハーシス子爵家だ。

 

 エレナは両親からひどい扱いを受けてきた。

 毎日のように罵倒の言葉を浴びせられ、手をあげられたことも一度や二度ではなかった。

 

 エレナが契約結婚の相手に選ばれたと知ったときの両親の第一声は、「役立たずが大金で売れたぞ!」というものだった。


 契約結婚をするにあたり、ドゥランシア公爵家からは大量の金が支払われている。


 ハーシス子爵家は、大した権力も金もない弱小貴族。

 そのため契約結婚で大金が入ると知って、大いに喜んだ。


 つまり両親は、エレナのことを金を得るための道具としか見ていなかったのだ。

 

 その一方で、妹は溺愛されていた。

 四つ年下の妹は生まれつき、優れた魔法の素質を持っていた。


 エレナも魔法は使えるが、妹のような優れた素質は持ち合わせていない。

 ただの凡人だった。

 

 優秀な妹と、凡人の姉。

 二人を比べた両親はエレナを出来損ないと見下し、ひどい扱いをしてきたのだ。

 

 そんな環境で育った妹も当然のようにエレナを見下し、たくさんの嫌がらせをしてきた。

 

 ひどい言葉を言われたり、私物を捨てられたり、ドレスをズタズタにされたり……受けてきた嫌がらせを数えたらキリがない。


 家族、使用人――誰もがエレナを嫌っていた。

 味方は誰もいない。

 

 ハーシス子爵家はエレナにとって、毎日辛い日々を送るだけの地獄のような場所だった。

 

 その地獄から、やっと解放される。

 エレナはそれが、嬉しくてたまらなかった。

 

 サインを終えたエレナは、契約書とペンをジオルトに差し出した。

 

 その二つをぶっきらぼうに受け取ったジオルトは、スッと立ち上がる。

 

「これで話は終わりだ」


 そう言って、部屋から出ていこうとする。

 しかし、ドアノブに手をかけたところで足が止まった。

 

「仕事の関係で、俺は明日から一週間ほど家に帰ってこない。契約妻でしかない君には伝える必要などないかもしれないが、念のために言っておく」


 それを伝えると、エレナの反応を待たずにジオルトは部屋から出ていった。

 

(新婚早々それはどうなのかしら……。夫婦になった翌日から一週間も開けるなんて、普通じゃありえないわよね……)


 なんて思ったがすぐに、そういうものかも、と考えを改める。

 

 これは契約結婚で、エレナは契約妻。

 形だけの夫婦である以上、お互いに気を遣う必要はないのかもしれない。

 

 少し寂しい気もするが、契約結婚とはきっとそういうものだ。

読んでいただきありがとうございます!


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