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第九話 ダンジョンの浅層

 クェーッ! クェーッ!

 極彩色の翼を羽ばたかせ、けたたましく鳴く怪鳥型モンスター、ジズが飛ぶ空の下。


「ペンダントを見せたら転送されたぁ? そんな話誰が信じるんだよ」

「私とて信じたくないわ!!」


 アスタロス島の大木の根本にて。

 レオナルトはこの場に追いやられた経緯をグレンに話したのだが、全く信じて貰えなかった。


「おのれ大臣! 帰還した暁にはぎったんぎたんのめっちょめちょにぃいいっ!!」

(罵倒の語彙少ねぇんだろうなぁ)


 子供っぽい言い回しを使い、怒りのままナイフを今日の朝食である一角兎(アルミラージ)にザクザク振り下ろし、挽肉にしていくレオナルト。

 ちなみに彼の使っているナイフは、ポール一派が使っていた集落から頂戴したものである。他にも色々と見繕い、丸腰だったレオナルトの装備は多少マシになった。


「てか慣れてない窃盗品振り回すなよ。危ねぇな」

「窃盗品ではない! 戦利品だ!!」

「どっちも同じだろ」

「ちっがーう!」


 閑話休題。

 一角兎(アルミラージ)と根菜の肉団子という朝食をすませた二人は、グレンを先導にアスタロス島を一望できる高台へ向かう為、視界も足場も悪い密林を移動する。


「ダンジョン・コア入手か。随分と難易度の高い条件だな」

「うっ、貴殿の力を借りても厳しいと……」

「お前の欲しいのはその辺の魔石ころじゃなく、特大サイズのコアだろ? なら島で一番でかいダンジョンを攻略する必要がある」


 淀んだ沼の端を慎重に歩き、直立に近い坂を剥き出しの木の根を利用して這い上がり、腰の高さほどのある雑草をかき分け、レオナルトが息切れしてきた所でようやく辿り着いた高台。断崖絶壁の頂上。

 視界が開けたそこからは、深緑の植物で覆われたアスタロス島を遠くまで見渡すことが出来た。


「そんでその一番でかいダンジョンってのは、あれだ」


 しかしその深緑の中央には、血痕が一滴落ちたかなような赤橙色がある。

 アスタロス島の赤橙色をした粘土土を使って造られただろう煉瓦、それを三角錐状に積み上げ建てられた遺跡が鎮座しているのだ。


「原住民が作ったっぽい遺跡。ポール一派は《ラマニア》っつってたな。多分歴史のある遺跡なんだろうが……今じゃドラゴンの寝床だ」


 バサバサバサ

 グレンが話だと同時に、見計らったかのように赤い鱗を持つドラゴンが、大きな翼をはためかせ遺跡ラマニアの真上へ飛んできた。

 遺跡の天辺には四角い壁に囲われた空洞があるようで、遺跡の上に降り立ったドラゴンはそこからするりと中へ入ってしまう。

 遠目からでは手の平サイズの模型に見える《ラマニア》。しかし成体であるとわかるドラゴンがあっさりと侵入できる広さ大きさを持っているとなると、町一つ分の広大さはある。

 そしてダンジョン・コアのある位置はダンジョンの最深部。移動だけでも多大な労力が必要なことが予想され、レオナルトはごくりと生唾を飲んだ。


「で、だ。あのドラゴンも厄介極まりないが、もっと根本的な問題がある。俺は使えそうな遺物を漁りに、《ラマニア》に何度か入ったことがあるんだが……。内部が複雑かつ仕掛けだらけで、奥に進めねぇんだよ。お前、解けるか?」

「じ、実際に見てみないことには何とも……」

「あー、それもそうか。そんじゃ今から試しに行ってみるか。浅い層ならモンスターも弱いしな」

「あっ、ああ!」


 ◇


 密林の道なき道を歩き続け、途中で水分補給や干し肉による軽食をすませつつ、どうにか日が暮れる前に辿り着いた《ラマニア》。

 四角い窓のようにくり抜かれた入り口は複数あり、その内の一つから中へ入ってみると、内部もまた外観と同じく煉瓦と石で四角く作られ、直線的。

 視界を遮るものはほぼない。よってレオナルトの炎魔法で灯りを灯せば、暗闇に潜んでいたゴブリンの群れが浮き彫りになり――グレンの拳に沈んだ。


「さっさと進むぞ、レオ」

「あ、あぁ」


 手をぱんぱんと払い事もなげに殲滅した彼の姿に、やはりグレンの強さは破格だな、と感心するレオナルト。

 そのまま二人はゴブリンの死体を足跡代わりに床へ転がしながら、迷路めいた一階層の行き止まりまで足を運んだ。


「読めない……」


 そして行き止まりの壁に刻まれた象形文字を見て、レオナルトは泣きそうな表情を浮かべたのだった。


「お得意の鑑定魔法はどうした、鑑定魔法は」

「私の鑑定魔法は既知の物に限り使える魔法だ! そして私はアスタロス言語の知識はない!!」

「そんな堂々と宣言せんでも」


 呆れながら、グレンはレオナルトに行き止まりの壁の前から退いてもらうと、壁に向かって回し蹴りを喰らわせる。

 ……ガッ!

 だがグレンの脚力を持ってしても、壁には傷一つつかず、足を痛めるだけで終わってしまった。仕掛けを施した原住民によって、防御魔法か状態維持魔法かがかけられているのだろう。力技では解決できそうにない。

 チッと、グレンは舌打ちをした。


「どうすんだ、さっそく行き詰まったぞ」


「う、うぅ……。エルフ語ならば、鑑定魔法を使わずとも読めるのに……」


 炎魔法で作った青い炎を周囲に浮かばせながら、両手で顔を覆いさめざめと泣くレオナルト。

 ちなみに彼がなぜ日常では使わないエルフ語が読めるのかというと、趣味である『魔導書読解』によく使うからである。


「アスタロス島の原住民は、一千年前に途絶えているという報告がある。……となると、時間をかけ地道に解いていくか、罪人の中に考古学者がいるか探すか……」

「考古学者だぁ? そんな都合のいい罪人がいるかよ」

「かっ、可能性はゼロではないっ! 私のように不手際で流れ着いた有識者がいるかもしれないじゃないか!」

「希望的観測がすぎる」


 グレンは呆れから肩をすくめ、行き止まりの壁に背を向けた。


「今日はもう切り上げるぞ。そんでダンジョンの近場に拠点を作る。考えるのはそっからにしな」

「う、うぅ……。了解した……」


 グレンの後に続き、肩を落としながら帰路につくレオナルト。


「……! 待て、レオ」


 だが数分歩いたところで腕を前に出したグレンに足を止められ、レオナルトは戸惑う。

 一体何が、と問いかけようとしたが、直ぐに口を閉じた。

 通路の曲がり角から、大きな影が伸びているのが見える。次いで聞こえてくるコッ、コッ、コッ、と短く鳴く鳴き声。


「来やがったぜ? 晩飯がよ」


 やがてレオナルト達の前に姿を現したそれは、人間の背丈と同じ巨体に蛇の尾を持つ鶏――モンスター『コカトリス』であった。



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