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第五話 ポール一味

「同じパーティのな」

「パーティ……。モンスター退治を主な生業とする、冒険者のだろうか?」

「あぁ。神官だけでなく、男爵の放蕩息子だったリーダーも殺っちまった仲間殺しだ。だからポール一味の連中も俺を警戒し、集落に入れない。ま、元々入る気はなかったけどよ」

「……動機を、聞いても?」

「ムカついたからだ」


 そこでグレンはレオナルトから顔をそむけ、揺らめく焚き火の炎を左目に映す。


「カッとなって宿屋で殺っちまったんだよ」


 神官殺しに貴族殺し。どちらも大罪だ。流刑地送りになるのも納得してしまう罪状。

 しかし何だか、違和感を覚える。その正体を探りたいレオナルトは頭をひねるが、うまく考えがまとまらず言葉が出てこない。


「腕の立つ人間を探しているみたいだが、あてが外れたな。他当たりな」

「グレンよ、貴殿は……」

「俺にゃもう構うな」


 故にレオナルトはグレンに再び突き放されて、その日を終えてしまった。


 ◇


「坊ちゃん、レオナルト坊ちゃん」


 薔薇が美しく咲く庭の真ん中、ガーデンテーブルの前で、婆やが手招きをしている。


「デザートの準備ができましたよ。今日のデザートは貴方の好物のモモモゼリーです」

「やった! ありがとう婆や!」


 レオナルトは直ぐに婆やの元へ駆け寄り、ガーデンチェアへいそいそと座る。

 そしてガーデンテーブルに置かれたデザートグラス、その中で柔らかな光沢を放つモモモゼリーをスプーンで掬った。


「坊ちゃんはモモモゼリーが本当に好きですね。モモモの果実は庶民が食べるものだからと、口にしない貴族もおりますが」

「好き嫌いにレッテルなど関係あるものか!」


 鼻腔を満たす甘い香り。口の中に広がるすっきりとした甘み。ぷるぷるとした柔らかい食感。暑い時期に心地よい冷たさ。

 それは他の誰でもない、レオナルト自身が感じ、思ったこと。


「私は、私が好きなものを愛でる!」


 *

 *

 *


 クェーッ! クェーッ!


「う……」


 怪鳥型モンスター、ジズの鳴き声で目が覚めたレオナルトは、節々が痛む身体をゆっくりと起こす。

 目の前には薔薇の庭園ではなく、薄暗く湿った洞窟。出入り口に立て掛けた扉代わりの木の板、その隙間から差し込む日の光が、朝が来たことを伝えてくれている。


(……グレンに固執する必要はない。彼の言う通り、他によさそうな者を探し出し、引き入れれば私の目的は達成される……)


 大きな葉を重ねた敷物の上で、レオナルトは昨晩の出来事をぐっと拳を思い返し、グッと拳を握り締めた。

 グレンにその気がない以上、仲間にするのは諦めよう。

そう何度も心の中で呟いて眠りについたというのに、起きても思い浮かぶのはグレンのことばかり。

 心のしこりを残したまま頭を切り替えられるほど、レオナルトは器用ではなかった。


「北の港街……。宿屋……。殺された神官とパーティリーダー。……グレン」


 グレンが犯したという殺人、流刑地送りを決定付けた大罪。

 ――朧げだが、見聞きした事がある。

 レオナルトは詠唱を唱え、鑑定魔法を発動した。金色の光が四角い額縁を作り、その内側にとある新聞の一面を映し出す。

 それを読み終えてから、彼は立ち上がった。


(もう一度。もう一度だけ、グレンに会いに行く)


 ◇


 クェーッ! クェーッ!


「相変わらず、うるさい鳥だな」


 空の上で極彩色の翼を羽ばたかせ、けたたましく鳴く怪鳥型モンスター、ジズを睨み付けた後、グレンは朝食の準備に取り掛かる。

 と言っても使う食材は昨日と同じ、湖の大蛇(ストーシー)の肉だ。


(でかい分、過食部も多くて助かるな。狩りをする頻度も下げられるから、身体も休める)


 密林の中でも一際大きな大木のウロを拠点に、一人で活動するグレンは、当然食の確保も身の回りのことも一人でこなさなければならない。役割分担をする。交代で休む。そういった、仲間がいれば可能なことは一つをできない。

 それでもグレンは仲間を作る気はなかった。例えレオナルトという、魔法を便利に使える人間相手でも。

 島外脱出という、希望を見せてくれる者だとしても。


 カッ! カッ!

 火打石と火打金がぶつかり合う、小気味のいい音が乾燥させた歯の上で鳴る。しかし今日は湿度が高いからか、なかなか火が付かない。

 チッ、とグレンは眉間にシワを寄せ舌打ちをする。


(……あの坊ちゃん、火の魔法を使おうとしていたよな)


 湖の大蛇(ストーシー)に襲われていたレオナルトは、反撃の手段として火の魔法の詠唱を唱えていた。魔法は詠唱を唱える過程を挟む為、戦闘時では隙ができるものの、どんな条件下でも身一つで発動できるのは強みだ。

 特に物が十分に揃っていない今のような状況では、非常に重宝する。


(何を考えているんだ、俺は。あいつとはもう会うこたぁねぇだろうに……)


 ――グレン、よい名前ですね!


 ふと脳裏に浮かんだのは、青い衣を着た神官。


 ――貴方には是非、パーティに入って欲しいのです!


 差し伸べられた、白い手。

 グレンは首を横に振り、思い出さないよう努める。

 がさり

 その時、草木をかき分ける音が背後から聞こえた。


「はぁ〜……。なんだ、坊ちゃん。いい加減しつこ」

「オイラがだいじ〜に育ててたモモモを盗ったノは、おめぇか?」


 だが振り返った先にいたのは思い浮かべていたレオナルトではなく……

 長身のグレンでさえ見上げる背丈を持つ、一つ目の巨人型モンスター『サイクロプス』であった。



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