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第三話 隻眼の男

(なんと。人がここまで集っている場所があるとは)


 捜索を始めてから一時間後。

 レオナルトは二十人ほどの人々が生活をしている集落を発見した。密林の材木を使って建てた柵や住居は原始的かつ簡素だが、ここアスタロス島の中では十分に文化的である。少なくとも洞窟を寝床にしているレオナルトよりは。

 直ぐに声をかけたい衝動を押さえつつ、レオナルトは引き続き木の陰に隠れ様子を伺う。集落の人々は皆、身体のどこかに焼印があるからだ。

 全員、罪人。

 ここはやはり流刑地なのだと、レオナルトに突き付けてくる。


(隻眼の男もここで暮らしているだろうか? 建物の外には見当たらないが……)

「おい! そこにいる奴は誰だ!!」


 大声で叫ばれ、レオナルトはびくりと大袈裟に肩を揺らす。柵で門番を勤めていた男に見つかってしまったのだ。

 門番はずんずんと荒い足取りでレオナルトの元にやってきて、木陰から引き摺り出すとまじまじと見つめて来た。そして鼻で笑った。


「何だガキか。驚かせやがって」

「ガキ……!? 私は十八歳を迎えた成人だぞ!?」

「ガキはガキだろ。人様のテリトリーに入って何こそこそしてやがる」

「わっ、私は、その」

「ま、何にせよ。ここにいるんだからロクでもねぇガキなんだろうけどよ」

「なっ!? 私は罪人ではないぞ!? 不手際で送られただけだ!!」

「何でもいいけどよ、お前ポール様の傘下に入りたいのか? どうなんだ?」

「ポール?」

「様を付けな! ここはポール様が管理するシマなんだからな!!」


 門番は集落の中で一番大きな、二階建相当の建物を指差して言う。

 どうやらあそこに集落を()()とする『ポール』とやらが暮らしているらしい。


(罪人が他の罪人を束ねているのか。面倒だな)


 人間、徒党を組まれると厄介だ。

 特に今のレオナルトは丸腰で、咄嗟に身を守る手段がないため一斉に襲い掛かられたら直ぐに負けてしまう。


「しっかしお前随分と小綺麗だな、貴族か富裕層か……。それに島に来たばっかで、食い扶持確保にも寝床の確保にも困ってる。違うか?」


 門番の鋭い指摘にぎくりと身体を硬直させるレオナルト。

 湖の側という仮初の拠点はあるものの、いつまでも使える訳ではない。門番の言う通り今後、困るのは目に見えている。だがそれを正直に門番に伝えたとして、救いの手を差し伸べてくれるとは限らない。何せ相手は罪人だ、まともな倫理観を持っているのかどうか。寧ろ弱みに付け込まれる可能性の方が高いだろう。

 故に何も答えないでいると、門番は唐突にレオナルトの顎を掴み、ぐいと顔を上げさせた。


「なぁに。お前は若いし、なかなか綺麗な顔をしてる。奉仕の一つ二つすりゃポール様も認めてくれるだろ」

「は?」

「何なら俺が()()してやろうか?」

「……っ!? 寄るな変態っ!!」

「ぐあっ!?」


 想定外の提案にぞわりと背筋に悪寒が走ったレオナルトは門番の股間を思い切り蹴り上げ、彼が痛みに悶絶している内に集落に背を向け駆け出した。


「あのガキ……! おい、侵入者だ! 捕まえろ!!」


 ◇


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 密林を全力疾走したレオナルトは、大木の枝の上で息を整えていた。


(えらい目にあった……)


 何とか集落の罪人は撒けたものの、後悔は尽きない。

 隻眼の男について聞き出せなかったこと。相手が多勢に無勢ではどう足掻いても勝てないとわかっていたのに、嫌悪感から攻撃を繰り出してしまったこと。それによって集落に身を寄せる選択肢を自ら捨ててしまったこと。更には今後、集落の罪人と顔を合わせたら自分は攻撃対象となってしまうこと。


(どれもこれも失敗だ。島の情報源として、利用する手もあったと言うのに)


 短絡的な行動は未熟者の証。レオナルトは一人しょんぼりと肩を落とす。

 その時、木の下でガサガサと草と草が擦れる音が聞こえ、もしや追手か? とレオナルトは身構え、じっと下を凝視していたところ、草木をかき分け現れたのは一人の男である。

 首筋に焼印が付いた逞しい身体を持ち、銀髪を首の後ろで束ね、右目を黒い布で覆った、隻眼の男。


(いた……!)


 ようやく見付けられたことにレオナルトは内心、歓喜しつつ、大木の枝から飛び降り隻眼の男の前に着地をする。

 隻眼の男は唐突に現れたレオナルトに左目を丸くしたが、それ以上に驚いた様子はなかった。

 この機を逃すものかと、レオナルトは胸元に手を当て背筋を伸ばし、口を開く。


「私の名はレオナルト・ド・ラ・キャヴェンディッシュ! 貴殿の名を是非知りたく……!」

「長ぇ」

「んえっ!?」


 そしてまさかの返しに頓狂な声をあげてしまった。


「あと答える義理はねぇ」

「名乗ったんだ! 名乗り返すのが礼儀だろう!?」

「知るかよ。さっさと失せな、お坊ちゃん」


 まともに取り合わず、隻眼の男はレオナルトの横を通り過ぎようとする、

 レオナルトは慌てて隻眼の男の腕を掴み、引き留めようとした。


「待ってくれ! 私は貴殿と話を……!」


 ぱしんっ

 隻眼の男はレオナルトの手を払い落とし、冷たい目で睥睨する。


「殺すぞ」


 そして低い声で凄み、取りつく島もないとわかるほど、突き放してきたのだった。

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