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第一話 最果ての島、アスタロス

「国王陛下に挨拶申し上げます!」


 王都の王城の中、玉座の間。

 レッドカーペットの真ん中で、金髪金眼の青年『レオナルト』は片膝をつき、頭を下げる。


「おもてをあげい」


 国王陛下の厳格な声をもって許しを得たレオナルトは、顔をあげ壇上へ視線を向けた。

 壇上の真ん中には、玉座に座す国王陛下。

 レオナルトの、実の父。


「まずは、学園の卒業を祝そう」

「ありがたきお言葉!」


 国王殿下の六番目の息子――第六王子レオナルト。

 それが彼の通称であった。


(……今日ここで、私の身の振り方が決まる)


 その為に、レオナルトは玉座の間に呼ばれたのだから。

 王立学園で培った剣術を活かし騎士団へ入団する道もあれば、地方領主や外交使節、親善大使、他国への婿入りという使()()()もあり、更には王位継承権破棄という名の修道院送りも選択肢に入ってくる。

 全ては現王国の情勢次第。


 尤も国王陛下に何を言われようとも、応える気はなかった。


(私の望む道は、最高峰の魔法使いが集う『魔塔』入所!)


 そこで魔法を極めることこそが、レオナルトの夢だからだ。


(在学中に配属の報せがこなかったんだ、国王陛下も私の処遇に頭を悩ませているとみた。ならば希望も通りやすいはず!)


 たっぷりと蓄えたヒゲを撫でなでる国王殿下。彼の左隣には中年期に入った大臣が控え、その大臣の後ろには――杖を持ちローブを纏った宮廷魔法師が立っている。

 彼こそが、魔塔の最高責任者だ。


(ここで宮廷魔法師様へ媚を売り、コネを作る! このチャンス、ものにしてみせる!)


 レオナルトは国王が次の言葉を紡ぐ前に、すかさず小箱を前に突き出し、その蓋を開けた。

 中には銀色に輝くロケットペンダントが仕舞われている。


「まずは手土産を! 実は先日、城下町で開かれた露店で珍しい品を見付けまして! なんと蓋の裏側に見たことのない魔法陣が刻まれていたのです!」

「なっ!?」


 その時、大臣から変な声があがった。

 が、レオナルトは無視して言葉を続ける。このタイミングを逃してしまえば、口を挟む隙がなくなるかもしれないからだ。


「これはもしかすると、失われた古代魔法かもしれません! そこで私は王国の発展の為、この品を魔塔への献上……」

「王の御前で許可なく魔法道具を掲げるなど! 謀反も同然! この不届き者を追放せよ!! 今すぐに!!」

「……えっ?」


 直後、足場に広がる魔法陣。宮廷魔法師が魔法を発動したのだ。

 円の中に幾何学模様が描かれた魔法陣は、レオナルトの輪郭をも曖昧にする程の光を放ち――転送魔法を展開してしまった。


 ◇


「くっそ! 大臣め……!」


 クェーッ! クェーッ!

 極彩色の翼を羽ばたかせ、けたたましく鳴く怪鳥型モンスターが飛ぶ空の下、巨木の根本で、仰向けに寝転がるレオナルトは悪態を吐く。

 

(王の御前でみだりに魔法道具を出してはならない、なんて作法なかったはず……! なのに追放など! 大臣め、王都に戻ったらいの一番に訴えて……! ……。そもそもここはどこだ?)


 怒りでわなわなと手を震わせていたが、ふと我に返り、むくりと上体を起こす。

 目の前あるのは見通しの悪い密林と、そこに潜んでいるだろう無数のモンスターの気配。

 大木に巻き付いている蔦植物、大きな葉、右から左へ飛んでいく巨大な蛾。どれも見た事がない種類だ。

 レオナルトが周囲を警戒しながら立ち上がると、ポトリ。頭に何かが落ちてきた。

 それは極彩色の羽根。先ほど見かけた怪鳥型モンスターのものだろう。まじまじ眺めてみると、羽根の表面には光沢があり、軽くてしなかやで、何より光を通して輝く七色の色彩がとても美しい。


(この羽根の模様、どこかで見たような……。『鑑定』をしてみるか)


 レオナルトは羽根を左手に持ち、右手を掲げ、詠唱を唱えると『鑑定魔法』を発動する。これは術者の既知の物に限り、分析、解析、そして鑑定ができる魔法だ。

 鑑定魔法を受けた羽根の周囲は金色の光に包まれ、その光はやがて四角い額縁を形成し、その内側に映像を映し出す。

 映ったのはレオナルトが王立図書館で読んだ文献、その一ページ。

 極彩色の羽根を持つ怪鳥型モンスター、『ジズ』が載った箇所だ。

 そしてこのジズは、()()()()()()()()()()()()()()()()()


「まさか、ここは……『アスタロス』か!?」


 ――最果ての島、アスタロス。

 あらゆる大陸から離れた孤島であり、海流の関係で島外へ出ることが非常に難しい。

 何より抜きん出ているのは、島に生息するモンスターの凶悪さだ。大陸のモンスターよりも遥かに強靭な身体を持ち、性質も獰猛。

 大罪人を送る流刑地としてしか使い道のない――死の島。

 レオナルトの頬が引きつる。


「……っ! こんな所で死んでたまるものかぁっ! 私は絶対に王都へ帰ってみせる! そして夢の魔塔ライフを歩むんだ!!」


 しかし直ぐに頭を切り替え、レオナルトはその辺に落ちていた木の棒を拾って地面に突き立て、ガリガリと図を書き出す。

 それは魔法の計算式であった。


(私はここに転送魔法で飛ばされたんだ、同じように転送魔法を使えば帰還が叶う! ……が、魔力が足りない!)


 長距離を転送するには相応の魔力が必要となる。しかしどう計算しても、レオナルトの持つ魔力では王都どころか大陸へ渡る距離さえ稼げない。

 このまま転移魔法を展開しても、海の藻屑となるのがオチだ。

 レオナルトは顔を青くしながらも必死に思考を巡らせる。


(補う方法を考えなくては! 宮廷魔法師様は魔石がハマった杖を使用していた! 莫大な魔力を持つ、大きな魔石! この島でそれがありそうな場所といえば……!)


 魔石。

 名の通り魔力を宿す石。星に巡る魔力の流れが、何らかの理由で結晶化した物。


「――ダンジョン!」


 そして結晶化する場所といえば、モンスターの巣窟ダンジョンだ。


(最深部にある魔石こと『ダンジョン・コア』を入手すれば、長距離転移魔法が使える!!)


 モンスター巣食う場所にダンジョンあり。

 アスタロス島にも、どこかに必ずある筈である。攻略の難易度は未知数なものの、一筋の光明が見えたことにレオナルトはどっと力が抜ける。

 ぐぎゅるるる……

 と同時に、安堵からか腹の虫が鳴った。


(何をするにも、まずは腹拵えだな。っと、その前に)


 レオナルトは手に持っていたジズの羽を、ポケットにしまっていたロケットペンダントの中にしまい込む。帰還後に大臣を訴える際、いかに不当だったかを伝えるのに重要な証拠になるだからだ。

 なくさないようにと、ロケットペンダントを首にかけ学園服の下に入れてから、彼は食料を探しに歩き始める。

 

「ん?」


 蔦や根がむき出しで歩きにくい地面をしばし進んだ後、レオナルトは開けた場所を見付けた。

 そこには噴水のように水が噴き上がる、湧水で作られた小さな湖がある。

 水はとても澄んでいて、魚が泳いでいるのが目視でわかる。念の為、鑑定魔法で確かめてみても水質に問題はなし。飲み水として十分、活用ができる。


「お、お、お? ここ穴場じゃないか?」


 辺りにモンスターの気配はない。

 聖域のような場所を前に、レオナルトは頬を緩め湖の淵に腰をおろす。


(拠点に丁度よさそうだ。遠慮なく使わせて貰おう)


 湖の水は少し冷たく、乾いた喉を潤してくれる。それは今後が不安だったレオナルトに癒しを与えてくれた。


 ――しかしよく考えて欲しい。良質な水源があるというのに、モンスターが一体もいない不自然さを。

 多種多様な生物がいる密林の中だというのに、綺麗すぎる湖の違和感を。


 ふと、湖の水面が揺らぐ。次いで盛り上がる。

 ざぱっ

 そしてレオナルトの目の前に、大口を開けた湖の大蛇(ストーシー)が、姿を現した。


「うわぁああああっ!?」


 人間一人容易に丸呑みにできるモンスターの登場に、レオナルトは素っ頓狂な声をあげ飛び上がる。

 そして脱兎の如く逃げ出す。


(擬態魔法か!? 油断した……っ!)


 突如として姿を現した湖の大蛇(ストーシー)。最初から湖に潜んでいたのだろう。レオナルトのように、無防備に近寄ってくる獲物を狙って。

 湖の大蛇(ストーシー)は湖からレオナルトが離れても変わらず追ってくる。ここは足場が悪く、地の利もない土地。いずれは追い付かれてしまう。

 レオナルトは迎え撃つことに決めた。


「赤く輝く炎よ! 我が情熱に応え、活路を導く灯火をここに……!」


 右手を掲げ炎魔法の詠唱を唱えるレオナルト。だが湖の大蛇(ストーシー)の動きは素早く、魔法発動まで間に合わない。

 鋭く尖った無数の歯が並ぶ大口が、レオナルトの視界いっぱいに迫る。


(……っ!)


 死ぬ。

 恐怖と絶望から、反射的に目を瞑るレオナルト。このまま鋭い痛みを味わうことを覚悟したが――

 ドカッ!

 訪れたのは痛みではなく、鼓膜を揺らす大きな音であった。


「へへっ。こりゃ大物だ」


 次いで聞こえた、誰かの声。

 恐る恐るレオナルトが目を開けてみると、目の前には湖の大蛇(ストーシー)の脳天に足をめり込ませた一人の男性が立っていた。

 首の後ろでくくった銀髪をなびかせ、右目を黒い布で覆った隻眼の男。背が高く恵まれた体格を持っているうえに、衣服越しでもわかるほどに上半身は筋骨隆々で、非常に逞しかった。

 そんな彼の首筋には、罪人の証たる焼印が刻まれている。


(人間……! 島流しにあった罪人か!? しかし、強い! 湖の大蛇(ストーシー)を一撃で……! 何者だ!?)


 混乱しながらもレオナルトが隻眼の男を凝視していると、視線に気付いた彼は冷ややかな目を向けてきた。


「やらねぇぞ」

「あっ、いや違う! その、まずは礼と! それから貴殿の名前を……!」


 レオナルトの問いかけなど聞く耳を持たず、隻眼の男は絶命した湖の大蛇(ストーシー)の尾を鷲掴むと、引き摺りながらどこかへ走り去ってしまう。

 一瞬の出来事に理解が追い付かず、口を半端に開け固まってしまうレオナルト。だが時間経過と共に口角はあがっていき、気が付けば満面の笑みを浮かべていた。


「……ダンジョン攻略をする為にも、前衛が欲しかった所だ」


 身一つで大型モンスターを倒せる実力を持つ、隻眼の男。


(彼には是非、協力者になって貰いたい!)


お読みいただきありがとうございます!

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