姫を助けに来たんだが、姫か魔王かわからない
「ようこそ」
「ひぇっ?」
最上階の扉を開けるとそこには美女がいた。それも世界が輝くような勢い。
いや、実際世界が変わっていた。今まで飾り気のない回廊を歩いてきたのに、この部屋だけは貴人の隠れ家のようだ。狭いながらにふかふかのカーペットが敷かれ、古さより重みを感じるアンティークのテーブルとチェア。
細かな装飾のされたそのチェアに、ゆったり美人が座っているのだ。
「あ、えっ、あのう、ルーナ姫様ですか?」
僕は周囲をきょろきょろと警戒しながら聞いた。姫は魔王に攫われたのだと言っていたから、ここには魔王がいるはずなのだ。
もっともここに来るまでどんな魔物の姿もなかった。魔王は嘘かもしれない。でもまあ、姫を攫った輩はいるだろう。
「あなたはどなたですか」
たぶん姫様は眉を潜めて聞いてきた。
咎める視線だ。突然にやってきた男が意味のわからないことを言っている、という顔だ。僕は慌てて居住まいを正した。
「失礼、僕は旅の冒険者です。アシュケリオ国の王様から依頼を受けて参りました」
「名乗れぬほど後ろ暗い冒険者の方ですか?」
「……レン・スミスと申します」
僕は顔を熱く感じ、縮こまりながらようやく名乗った。笑わないでほしい。旅の冒険者なんていっても、名も知られていない、雑用と商人まがいの仕事をするばかりの僕だ。家出少年とやってることは大して変わらない。
つまり何が言いたいかというと、こんな美女と話す機会なんて滅多にないのだ。
「引き受けた依頼とは?」
「魔王に攫われたルーナ姫の救出を」
「なるほど。わかりました。ではこちらを」
「は?」
彼女は表情を変えないままで、テーブルの上に書類を置いた。
「え、ええっと?」
「ご確認ください」
なんで書類。
僕は戸惑いながらも、無表情でじっと見てくる彼女の圧に押されて書類を確認した。几帳面な性格の伺える、丁寧な文字で書かれた書類だ。
「魔王に挑戦するにあたっての確認事項。挑戦者は、魔王によって命を奪われたとしても、その責任を魔王に追求することはな、い……!?」
「はい、そうです。挑戦者、つまりあなたは命の危険があることを承知の上で魔王に挑む。ゆえにあなたの命が失われたとしても、魔王に責任はないという確認書類です。よろしければ下部にサインを」
「は、はあ!? な、そ、えぇ? ちょ、ちょっと待ってください」
「はい、充分にご確認ください」
「いやそうじゃなくてぇ、つっこみどころが色々ありすぎてどこから……」
僕は相変わらず表情を変えない美女をみて、書類を見て、一度目を閉じてみた。うん、目を開けても変わらない。夢でも幻でもなさそうだ。
落ち着こう。
ひとつひとつ片付けていけばなんとかなる。
盗品をつかまされて尋問を受けたときも、記憶力の怪しいおばあちゃんに夫と間違われた時も、落ち着いて話をすればなんとかなったのだから。
ああそれに、遺跡の罠だってそうだ。複雑だからって放り出さず、ちゃんと仕組みを理解して1工程ごときちんと解除していくのが大事だ。
「まずその、あなたは魔王側の方ですか?」
「そうだとも言えます」
「……姫ではない?」
「そうとは言い切れません」
いやなんだそれ。
僕が頭痛を感じていると、彼女ははじめて、うっすらと微笑んだ。
「……」
ひた、と背筋が冷えるような、汗が滲むような感じがした。
よくよく考えるに、おかしい。どう考えてもおかしい。目を覚ませ僕、逃げ足の速さだけには自信があるのだ。警戒心を忘れるな。
魔王が住むと聞いた塔のてっぺん、鍵もかかっていない扉の奥に、優雅なドレス姿の女性がいる。この塔の主人であるがごとき堂々たる姿だ。助けに来た僕に喜ぶわけでもない。
(こーれ、魔王では?)
ひたひたひたひた、冷気が心臓まで忍び寄ってきた。
魔物なんていくらでも姿が変えられるのだから、見た目で判断なんてできない。
もしこれが魔王なら逃げるが勝ちだ。勝ちだがしかし、ちょっと空気の読めない姫って可能性だってあるじゃないか!
依頼といっても、僕はあの国の王様に助けられたのだ。地図にあった河川が消え果てていて、あの小さな国を見つけられなければ乾いて死んでいたかもしれない。
怪しい旅人を迎え入れてくれた王様の依頼だ。かわいそうな姫を助けてくれと涙ながらに言われては断れない。幸い僕は、逃げ足だけには自信がある。
(いやいや。……いやいや?)
さきほどの問答を思い出してみる。
(あなたは魔王側の方ですか?)
魔王ならそりゃ「そうだとも言える」だろう。魔王本人なのだから。
(姫ではない?)
おおむね姫とは、未婚の高貴な女性を言う。ちょっと無理はあるにしても、未婚の魔王なら「そうとは言い切れない」だろう。
いやいや待て、魔王の娘という線もある。それならばっちり姫だろう。
なんてこった。いや、彼女が事実を言っているとは限らないが、こんなからかうような嘘を言う必要もあるかという話。
よくよく落ち着いてみれば、彼女は可憐なドレスの上に黒い上着を羽織っている。ふんわりしたドレスのスカートを包み込むような、大きめの上着だ。可愛さと相反する落ち着きがまたドレスの可憐さを引き立てているわけだがしかし。
後ろ姿だけ見れば魔王寄り、かもしれない。
「あ、あの」
僕はひたひた汗を感じながらも、勇気を出して声をあげた。義理・人情、そして欲望が逃走を妨げている。だって。
涙ながらに王様は言った。
『姫を助けたあかつきには、どうか姫の夫となって我が国に住んでくれ』
……僕だってそれはそうなのと思ったさ!?
でも魔物にさらわれた姫なんて、ちょっとこの先難しそうだなってのもあるし、わりといい落とし所かなとも思ったのだ。姫がいいっていうならだけど!
僕は逃げ足の早いだけの冒険者だけれど、将来を悲観しているわけじゃない。いずれは家族と安住の地だってほしいのだ。
「ご結婚は?」
「はい?」
気づいたらとんでもないことを聞いていた。
ああ、世界の音が遠ざかっていく。その一瞬前に聞いた彼女の困惑した声は、鈴を転がすように愛らしかった。
そして「このひと大丈夫かな?」という目を向けてきている。魔王だとしたらずいぶん優しいことじゃないか?
僕はなんとか世界を取り戻した。
「姫とはほら、未婚の高貴な女性を言うらしいので」
さきほど考えていたことを話すと、彼女は「なるほど」と頷いた。納得されたのだろうか。それもどうかと思うけど。
「ではスミスさんは?」
「は?」
「ご結婚はされているのですか」
「え、ええ?」
「わたくしにだけ未婚かどうかを聞くのはあまりに無礼というもの」
「……確かに。未婚です、はい」
「そうですか。わたくしもです」
「あっはい、えっ、そうなんですか? お美しいのに」
「世辞は不要で」
「は、はい。お世辞ではないですが、はい、立ち入ったことを聞きました、すみません」
美しいのに未婚、という言葉には「性格がやばいのでは?」という裏を含んでしまいそうだ。相手が黙れというなら避けておくのが無難だろう。
……いやお見合いしにきたわけじゃないんだ。
僕は視線をうろうろさせて、手元の書類のことを思い出した。
魔王に挑戦するための確認事項。
「あの、魔王への挑戦というのは、興行のようなもので?」
「挑戦に価値があると感じる方がいらっしゃるわけですから、それに近いものと考えております」
「な、なるほど。では利用料金などは?」
「サイン欄の下に記載がございます」
「え? えぇぇ……ちっさ……」
「なにか問題が?」
「イイエ、読めます……」
ちゃんと読める文字で書いてあるのだから文句は言えない。読み飛ばす奴が悪いのだ。それにしてもこんな小さい文字、よくこんなきれいに書けるな。
「ええっと『万が一、挑戦者が命を失った場合、所持品は魔王への献上品として扱います』よくわかりました」
「わかっていただけて嬉しく思います。ではサインを」
「いえっ! いえ! いえ、そうではないんです。僕は魔王と戦いに来たわけじゃないんです!」
たとえ彼女が魔王だとしても希望はある。
普通ならこんな確認書類を用意せずにぶち殺して荷物を奪っておしまいである。きちんとした魔王だ。話の通じる魔王のはずだ。
「アシュケリオの王様に助けられましたので、お返しに姫を救出できればと思い、参った次第でして」
「魔王を倒して姫を救出する、劇的な展開をお望みなのでは?」
「いいえっ、魔王がいたら尻尾を巻いて逃げるつもりでした。できれば隙をついて姫を救出できればなあと」
言ってて情けなくもなるけれど、僕は逃げ足が早いだけの、大して戦えない冒険者だ。名をあげたいとも思っていない。ちょっとお金を稼いで、ちょっと楽しく旅をしてきただけだ。
魔王なんて逃げるしかない。
もっとも「魔王」なんて言っても大抵は「ワシはこの辺のボスじゃ」くらいの意味でしかない。この辺のボスでももちろん僕は逃げる。
「あの、それで、あなたはルーナ姫ですか?」
「……アシュケリオの王には、どんな姫だと聞いているのですか」
「美しい姫だと」
それにはどう考えても一致している。
「他には?」
「いえ、特には」
「はあ」
彼女は憂鬱そうにため息をついたが、その表情さえ美しい。僕はいたたまれなくなってくる。
「呆れたものですね。特徴もろくに聞かずに助けに来た?」
「うっ、それは、そうですね……」
なぜだろう。
そうだ、王があまりに必死に頼んでくるので、勢いに押されてしまったのだ。本当に必死だった。姫がいなければこれから生きていけないくらいに。
ちょっと必死すぎて、姫がどんな人なのか聞く余裕もなかったのだ。
「別人を連れ帰ってしまったら、どうするおつもりですか?」
「えーっと」
「まあ、本物の姫だとしても、連れ帰ったあとのことなど、あなたは気にもしないのでしょうけど」
「そんなことはないです」
「……ふうん?」
彼女が眉をあげて、ちょっと不快そうにした。
やはり彼女はルーナ姫なのだろうか?
連れ戻されても不幸になるだけだと思っているのなら、僕が来たのは迷惑そのものだろう。早く帰ってほしいし、なんなら魔王に挑戦して死んでほしいのかもしれない。魔王がいたとしたら、こんな部屋を用意するくらいだ、彼女を憎からず思っているだろう。
王様の、姫に帰ってきてほしいという気持ちに嘘はなさそうだった。だが、姫にも姫の思いがあるだろう。
「アシュケリオ王は心から、姫を必要としていましたよ」
「ふふっ。わかっているじゃない」
「え?」
「アシュケリオ国には姫が必要でしょう。結界の動力として」
「結界……?」
僕は首をひねった。
いや、結界はわかる。人の集落に張られている結界は、魔物の侵入を拒む効果がある。あの小さなアシュケリオ国の城も、その力で守られていたはずだ。
結界の動力は魔力だ。その国に住むものの魔力を、少しずつ吸うことで発動している。
「城だけならば、そんなに魔力はいらないのでは?」
「今は城だけなの? かつては国全体を覆っていたのだそうよ。国王は姫を取り戻して、その頃に戻りたいのです」
僕は荒れ果てた城下町を思い出した。
もはや誰も住んでいない町だ。しかし家屋の数から考えれば、かつては賑わっていたことがわかる。なにかがあって、国民が大きく減ったのだ。
「たしかに空き家は多かったですが、あれだけ人が住んでいれば、誰か一人に魔力を頼る必要などないのでは?」
「ご存知ではないかしら? 魔力は魔物から生まれたものだから、魔力を持つものは魔物の手先である、という俗説」
「は? そんな、いつの時代の話」
「三十年くらい前かしら?」
彼女にも実際の記憶があるわけではないらしい。
僕は少しほっとした。若い女性に三十年前をついこないだのように語られたら、それは人間じゃないだろう。
「でも三十年では忘れられない話よ。アシュケリオ国では、魔力を持つものが皆殺しにされたのだから」
「それは……そんなことが……」
そんな話は聞いていない。
けれど古い地図しか見つからなかったような田舎の国だ。知られていなくても不思議はなかった。
「ああ、少し嘘になったわね。皆殺しではなかったわ。逃げ出したものもいた。でも、結局のところアシュケリオに魔力を持つ人間はいなくなったの。ルーナ姫以外は」
「は?」
僕はまた困惑した。
せっかくさっき安心したというのに。三十年前の話に登場されてしまったら、ルーナ姫は三十歳を超えているということになる。
(……あれ?)
しかしふと、僕は王の様子を思い出した。
憔悴してひどく老けた姿に見えた。はつらつさの欠片もない。ずいぶん苦労しているのだろうと思ったが、あれが見た目通りだとすれば、ずいぶん年を取ってからの娘になる。
「……ルーナ姫がさらわれたのは、いつですか?」
「二十年ほど前」
「にじゅう、ねん、まえ」
くらくらと目眩がした。そんな、そこまで昔にさらわれた娘を、今、取り戻してくるように頼まれてしまったのか。
遅すぎる。
いや、姫がつらい生活をしているのなら、遅くても救助に意味はあるだろう。しかし魔物に攫われて二十年無事とは考えづらい。まがりなりにも国の王が、助けるつもりがあるのなら、もっと早くにどうにかするべきだ。
もしどうしても遅くなり、僕に依頼するにしても、そのあたりを説明しないのはどうかしている。
……どうかしてたのかな。
考えてみればあの必死さは、ちょっと執念みたいな感じがした。
「でも攫われたというのは、嘘。ひとりで一国の結界を支え続けたルーナ姫にはもう魔力がなかった。役立たずになった姫はお城で放置されて、あとは死ぬのを待つばかり。でもルーナ姫は、せめて別の場所で死にたかった。だから逃げたの」
「……なんてことを」
「それを拾ったのが魔族の男だった。追っ手なんてかかるわけがない。二人は愛し合い、幸せに暮らしました。ルーナ姫が死ぬまでの、わずかな時間」
僕は何か言おうとして、なんとも言えずに口を閉じた。
あまりに淡々と語りながら彼女は、ずっと遠くを見ているようだ。
「王としてはもう彼女がいなくても、新しく生まれた国民たちでどうにかなると思ったのでしょうね。でも、どうにもならなかった。それはそうよ、魔力のあるものを全員殺しちゃったんだから。魔力なしから魔力持ちが生まれないとは言わないけれど、確率はかなり落ちる。おまけに魔力持ちの負担が増えることはあきらかなんだから、出ていくものも多かった」
話を止めて彼女は、ふう、と息を吐く。飲み物が必要ではないかと僕は思った。整えられた部屋、古いが磨かれたテーブルの上に、茶器が必要だ。
そんな穏やかな会なら良かったのに。
「結界は維持できず、国民はいなくなった。残ったのは城だけ」
僕はあの小さな城を思い出した。王のほかに幾人かがいて、まだ確かに生活を続けていた。
そして涙ながらに姫を取り戻したいというのだ。
「……執念だ」
「そうね。もう元になんて戻れないのに」
一度いなくなった民を集めるのはほぼ不可能だろう。捨てられた故郷はすでに故郷ではなくなっている。新しく民がやってくるだけの魅力があるとも思えない。
結界を戻せばいいという話じゃない。
「私が誰だか、わかった?」
挑戦的に笑って彼女が聞いてくる。
愛らしいドレスと、黒い上着。どちらも大事にして、それでもずいぶん古いものだろう。
僕は少し迷って、首を振った。
「わからないよ。大事な人の無念を晴らしたいと思うのは、姫でも、魔王でも同じかもしれない」
「あなたって、鋭いのか鈍いのかわからないわね」
僕はなんともなしにもぞもぞした。
美しい女性にそういうことを言われると、落ち着かなくなるのだ。なんでってたぶん、こう、自分の性格の話をしているのが、なんというか。
ちょっと距離を詰めてる感じがするんだな。我ながら青くて泣きそう。
「それで、少しは無念が晴れた?」
「……そうね。お父様もお母様も、好きに生きろって言ってた。お母様の言葉は、日記で読めるだけだけれど」
「お父上は?」
そう、それだ。
結局この塔に魔王らしい魔王はいたのだろうか。僕はするっと入ってきてしまったのだけれど、危険がないなら婦女子の住居に勝手に入る不審者だった。
「お母様の生まれ変わりを探すって、出ていったのよ」
「おっ、おう」
さすが魔族、浪漫がある。
僕は感心しつつ、見つかるといいなと思った。生まれ変わった彼女は、すっぱりさっぱり何も覚えていなくて困惑するかもしれないけれど。
「だから私もここを出て好きに生きようと思ったの。でも万が一、お母様を不幸にした愚物が幸せに生きてたら嫌じゃない? だから」
「居場所を知らせた?」
「そう。手紙を出したの。助けて、迎えに来てって。返事がなかったらひどいことしてあげようと思ってたけど、まだお母様を取り返したいくらい、惨めな生活してたみたいだから、もういいわ」
それがいい。
涙ながらに訴えていた王様を思い出しながら、そう思った。彼には彼の言い分があるかもしれない。
でも二十年前の話を昨日のように話されたのではこっちも困るし、実際問題、ルーナ姫はもういない。僕にできることは何もない。
ルーナ姫は亡くなった、と、それくらいはお伝えしておこう。
「だから嬉しかったの、あなたが来てくれて」
僕はメッセンジャーになっていたということだ。依頼された僕が来たことで、王様が幸せに暮らしていないことがわかった。
別に僕としても美人と話せてよかったけど、テーブルに置かれたままの書類を見てため息をついた。
「それにしては嬉しそうな対応じゃなかったよ。姫を助けに来て面接されるとは思わなかった」
「そう? するんじゃない? 知らない人についていっちゃだめだって、お父様もお母様も言っていたもの」
「う、ううん?」
言われてみればそうかもしれない。
いくら姫が窮地にいたとしても、知らない人が連れ出そうとしたら警戒くらいはするべきだ。もっとひどいところに攫われるかもしれないんだから。
とすると、あれは姫として正しい対応だったんだろうか?
いやいや。
でもまあ。
「まあ色々考えてるうちに楽しくなっちゃって、変な書類作ったりしたんだけど」
「ですよね~!」
「でもやっぱり、魔王を倒しに来るような人じゃ嫌だし、お金のためって人じゃ嫌だし」
「嫌って、何が?」
「え? だから、助けに来てくれたんでしょう?」
美しいお姫様と魔王の娘は、不思議そうに首をかしげた。
「助けに……」
「そう。言ったでしょう? もうすっきりしたから、あんな国のことは忘れて好きなところに行こうと思うの。でも私、ここを離れたことがないから」
一緒に連れて行って。
そう言われているのだ。
僕は理解できなくて、しばらく固まってしまった。考えなかったと言えばそりゃ嘘になりますが。姫様を嫁にもらうとかばっちり想像してしまいましたが。
現実の美女から言われると重みが違う。あ、心臓が。
「僕、は……合格だった?」
「もちろん! だからどうか、私を助けてくださいな」
美しい姫様が手を差し出している。
断れる男なんているのだろうかと、僕は思う。