表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-黎黒-補給02特務小隊  作者: 明智 秋水
7/7

第7部隊


「というわけで、今日から君たちには半年かけて魔術式学及び基礎魔術学、応用魔術学をオーガも裸足で逃げ出すほどの圧縮カリキュラムで学んでもらいつつ、並行して魔力増幅鍛錬をやってもらうことになった。」


「…えっと。」


「それは…一体…」


出会い頭、開口一番、一呼吸で言い切った俺の顔を、魔術師候補のニ人はポカンとした顔で見ている。オズワルド中尉からの話が終わった後、どうせやるなら善は急げと言わんばかりに候補者をオズワルド中尉は執務室に呼びつけ、俺に説明しろと促してきたが故の先程のマシンガントークでる。


カナリア・ローレイ2等軍曹。女性。年齢22歳。一般軍人枠としてみればこの年齢で曹長、しかも女性ならばかなりの出世頭だが、過去にセクハラ紛いで接してきた上官を見事なアッパーカットで沈めた事により左遷、現在に至る。見た目はお淑やかなお嬢様系の顔立ちだが、その拳は大の男を簡単に沈めれるほどの剛腕らしい。軍事格闘術の上位者だそうで、本当に人は見た目によらないとはこのことである。


ハンク・レンジスト2等軍曹。男性。年齢24歳。此方は資格試験上限ギリギリだが、オズワルド中尉曰く超遠距離射撃の名手だそう。そんな人物が何故補給部隊に?、かというと此方も左遷。しかも上官の不正を内部告発したが故の逆恨み人事によるものだ。見た目は軽薄そうだが、その実中身は実直なのだろう。本人はさほど気にしていないらしく、むしろせいせいした気分らしい。此方は探索系魔術式が得意な凄腕スナイパーという好カード。


因みに魔術というのは過去の俺やこの二人を見て分かるように、"魔術師"でなければ使えない、使ってはいけないということではない。魔力を有せば使えるし、使っても問題ないのだ。勿論、軍事機密扱いの魔術式や魔術の軍事的な運用方法などは魔術師でなければ知り得ないので事実上使うことは出来ないが、一般的に公開されているものは普通に使うことが出来る。そのための魔術師とは軍属の証であり、業務独占資格というよりは名称独占資格に近い性質を持っている。また待遇にも格差が如実に表れるため、一般軍人よりも魔術師になることはあらゆる面で優遇されるのだ。


そのためのいわゆる野良の魔術師改め"魔術使い"は巷にはそこそこおり、最悪の場合は犯罪組織や盗賊の中にも居ることがある。軍属の魔術師は一定水準の魔力量があり、軍属を希望しなければならないだけであり、下手をすれば魔術師よりも魔力も多く強い魔術使いもいないことは無いのだ。


因みに魔法が発現すれば一応任意という形ではあるが軍属への打診がくるが、これはほぼ強制である。俺は元々は軍属を希望していたからいいとして、望まない人間からしたら悪夢もいいところだ。


「貴官ら二人には来年に執り行われる魔術師資格試験に合格してもらい、魔術師登録したうえでレーウィック中尉の指揮する特務分隊に就いてもらう。これは決定事項であり、今は暫定的に一般軍人として隊へ編入し、資格習得次第あらためて辞令を発布する。先ほど中尉も言っていたが資格試験は本来は上級軍学校で履修するべき魔術的な学問も試験内容に含まれているため、座学に関しては私が。魔力増幅鍛錬については中尉が担当する事になる。」


「あの、異動に関しては問題ありません。しかし私は、いえ私たちは魔力が水準に達しておらず、魔術師資格試験を受験することは難しいのでは?」


ローレイ2等軍曹は戸惑いながらも暗に無理ではないかと聞いてくる。確かに魔力とは本来は生まれ持った総量からあまり変わることはない。魔術自体を反復的に使い倒す事により微増することはあっても、劇的に増加することは極めて稀で、その増幅量も微々たるもので、それも十数年かけてやっとというレベル。


二人の情報は予めオズワルド中尉からもらっているが、ローレイ2等軍曹は魔術師水準に2割ほど届かず、レンジスト2等曹長は1割ほど届かないといった具合。これは本来であれば絶望的な数値であるが、俺も実践した方法ならば余裕でクリアできる。


というよりそもそも何故、大佐と中尉は俺が確実的な魔力増幅鍛錬法を知っている事を知っているのだろうか?


その理由はオズワルド中尉から説明された。それは、両親にバレていたからだ。俺はこの世に転生してきた時点で自我があったので、赤子から魔力があるのは知覚していたし、魔力を増やすために試行錯誤もやっていた。俺としては秘密裏にやっていたつもりだったが、今思えば元軍属のしかも上位者だった両親がその異常性に気付けないわけがないのだ。そしてその異常性に気付きながらも、変わらず愛情を注いでくれた…本当に感謝しかない。そしてその過程でオールウェン大佐に相談していて、大佐が知るに至る。


「それに関してはレーウィック中尉の秘匿技術を用いて合格水準まで引き上げる。分かってると思うがこれは軍事最高機密として扱われるため、後ほど契約魔術を二人には刻んでもらう。」


俺としては別に秘匿にする程のものではないが、大佐がそう判断したらしい。確かにこの技術について四方から突っつかれるのも面白くはない。


それよりも問題なのは二人の受け取り方だ。こんな若造の下につくのは…まぁ軍属なので諦めてもらうとして、これからのキャリアを固定してしまうような人事だ。不満の一つやニつあっておかしくない。


が。


「本当に、本当に魔術師の水準までいけるのですか?レーウィック中尉。」


ローレイ2等軍曹は信じられないとも言わんばかりの顔でこちらを見ていた。その顔に落胆や反感といった色は含まれていない。むしろ歓喜に近い雰囲気さえ感じた。


「正直、魔術師になるのはとうに諦めてたんですがね。そりゃあ、イエスかはいの二択しかないでしょうよ。」


レンジスト2等曹長に至ってはその事実をすぐさま飲み込み、不敵に笑っていた。


…そもそもこの二人は魔力量を伸ばせるという事を微塵も疑っていない。普通はこんな軍学校を卒業したての若造の戯言だと切って捨てるような事案だと思うが?


「貴官らは疑わないのか?私が魔力を伸ばせるという眉唾のことに関して。」


敢えて高圧的にかつ懐疑心を煽るような物言いで問いかけてみる。はっきり言ってなぜこの二人がそこまでの信を自分に置けるのか分からないからだ。勿論、この二人も俺とオズワルド中尉の模擬戦には居たし、輸送襲撃時にも同行していた。魔術師として、魔法師としての腕には多少なりとも自信はあるが、二つ返事の真意を聞きたかった。


「そりゃ中尉、貴方を買ってるんですよ。」


レンジストはあっけらかんと言いのけたが、それをあきれ顔でローレイが続きを話す。


「レンジスト、言い方。中尉、私たちは貴方の実力に関してはもう周知しています。そしてその技量の裏にある努力も分かっているつもりです。私たちも魔術を扱う端くれ。あの技量はたとえ天賦の才があっても、いえ…天賦の才があった上で努力しなければなし得ないものだと考えます。それに失礼ですが、ハズレの当たりと揶揄されるあの魔法も貴方だから出来る運用方法。その確かに裏打ちされた技量を持つ人物から『魔力を増やせる』と言われれば、それは信じますよ…あと年齢を気にしているようでしたらその気遣いは不要です。なんて言ったって私たちは軍属。その上官が年下であるのは何ら珍しいことではないですし、その上官に確かな実力があるのなら何を気にする必要がありますか?」


…どうやら全て杞憂のようだ。レンジストの男臭い理由もまぁ俺も男なので好きだし理解できるが、ローレイの言も理路整然としていて納得できた。変に構える必要は何処にもないようだ。


ならば俺ができるのはこの二人を魔術師として押し上げ、かつ死なないように鍛えること。魔術師は損耗率の高い役職だが、この二人には死ぬ覚悟ではなく、死なない覚悟をしてもらう。俺の部下になるのならそれが最低ラインだ。


「分かった。では二人にはこの時より魔力を鍛える鍛錬を開始してもらう。二人ともこれを付けてくれ。」


懐から取り出したのは二つのミサンガ。ただのミサンガのように見えるが、その材質は特殊な繊維で編み込まれた糸だ。二人は受け取ると各々の腕にそれを嵌めた。


すると直ぐに効果は表れたようだ。二人は怪訝な表情でミサンガを凝視した。


「気付いたようだな。そのミサンガは、嵌めているだけで常に一定の魔力を吸い上げて空気中に霧散させる効果がある。魔力増幅の基礎的な方法は魔力枯渇と回復、これは二人も知っているな?」


「そりゃ知ってますが…」


「はい。しかしその方法では一年行っても極微増と呼べる量しか増えなかったと記憶してます…」


そう魔力枯渇と回復は、昔から知られているオーソドックスな方法。確かに増えはするが、期待できる量でもない。


「その通り、だがそれならわざわざ特殊なミサンガを使う必要もない。本題はここからだ。二人には『霧散魔力』の操作技術も同時に覚えてもらう。」


「待て中尉、その技術は私も初耳だが?」


オズワルド中尉が話の腰を折ってくるが、説明するので待ってもらう。


「それは今から説明します。ローレイ2等軍曹、魔術師試験の魔力量基準の定義を答えてみてくれ。」


「ハッ。魔術師試験の魔力量は指定された3段階の基本的な魔術式を、如何にどれだけ発動できるかによって、暫定含有魔力量として測定されます。」


そう。魔力量測定は保有魔力量を測るのではなく、魔力消費量がある程度決まっている魔術を、如何にどれだけ発動できるかによってその魔術の発動回数で測るのだ。そもそもの話、人が持っている魔力量を正確に測定する技術はこの世界には存在しない。その魔術師の保有魔力が大きいか少ないか程度ならある程度分かるが、正確な数値が測れるものではないのだ。


そしてこの技術のいいところは、魔力のリサイクルが可能な点。例えば試験課題の魔術式Aが100の魔力を使用すると仮定する。その魔術が効果を発揮し霧散すると、おおよそ50の残留魔力が霧散魔力として一帯に残留し、それを霧散魔力操作によって再結合、足りない50を再び自身の魔力から供給すれば再び魔術式Aを構築可能といった具合だ。


この技術はさらに発展応用編があるのだが、魔術師試験をとりあえずクリアすればいいのであれば、基本中の基本を覚えれば取り敢えずは問題ない。…はっきり言うとその基本こそ根幹技能であとの応用はオマケみたいなものだ。故に開発した俺が言うのもなんだが、修得難易度はそれこそ圧縮学習カリキュラムよりも何倍も高い。


「故に俺が教えるのが霧散魔力操作。魔術を放った後や人から自然に漏れ出る魔力残滓、これに自身の魔術式を転写し発動させる。そのミサンガの目的は常に魔力を消費し魔力増幅を四六時中行い、その消費した霧散魔力を使い霧散魔力の操作技術を会得してもらう。したがって魔力のベースはこれから少しずつ増やしていくが、その技術を覚えれば魔術師試験なら軽く突破できるはずだ。」


「中尉…そう言う重大な事柄は予め伝えておいてくれ。」


「いえ…てっきりオズワルド中尉たちは知ってるものかと。」


「いや、私たちが知っているのは中尉が何かしらの魔力増幅方法または類似技術を有しているということだけだ。そんな革新的…学会で発表すれば根本から覆されるような技術は知らない。」


まぁそれはそう。しかし俺はこれを広めるつもりは毛頭ない。修得難易度が高すぎるというのもあるが、そもそもこの技術はピーキーすぎる。今回はまず二人を魔術師に認定させるために覚えて貰うが、これを安易に広めればある種の秩序さえ壊してしまう恐れがあるからだ。


「まぁこれは広めるつもりはありませんからね…私たち4人と…オズワルド中尉には報告の義務があるでしょうから、大佐も含めて5人の秘密にしておいてください。」


何かを察したのだろう、オズワルド中尉は重く頷いた。


…実は二人にはもう一つ技能を覚えてもらう予定だが、この反応を見るに事前に話を通しておいたほうが良さそうだな。まぁそれも先に魔術師認定を受けてからだな。


こうして二人の部下が誕生し、特務分隊としての体裁が整ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ