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-黎黒-補給02特務小隊  作者: 明智 秋水
5/6

第5部隊


「報告します!敵補給部隊と思われる敵影を確認、目標の部隊かと思われます。事前情報通り術師は4、残りは一般兵…ただ1人、恐らく訓練生かと思われる青年が同行しております。」


森の茂みを隠れ蓑に、統一された軍服姿の男達。オズワルト率いる補給部隊を強襲する為に選ばれた精鋭。その中のひとり、明らかに他の者と違う雰囲気を纏う男が、今し方報告された内容を反芻した。


「訓練生?それは確かか?」


「はい。情報と齟齬があるのはその青年だけで、纏う軍服も若干意匠が異なり、かつほぼ新品のようでしたので間違いないかと。」


男は考える。強襲対象は、まともな戦力が望めない補給部隊。もちろん抵抗はあるだろうが、こちらの練度と質を考えれば必ず成功すると見て問題ない作戦。情報に齟齬があるということは、何かしらの不確定要素が紛れ込んだということだ。


通常であれば作戦の再確認と情報の精査を要求するところだが…。


「その青年は魔術師か?」


「敵索敵外からの視認でしたので確実ではありませんが、魔力反応や漏れは見受けられませんでした。」


「(魔術師という線は薄いか…ならばおそらく本当に訓練目的の学生…)よし、ならば作戦は予定通り実行段階に移動する。」


男は問題なしと見て、号令をかけた。


「よし…各人員、遠距離用術式用意。目標術師4、一般複。尚、捕虜の必要はないため迅速に敵を殲滅、後に兵站を焼き払い即帰還する。」


その号令に誰一人淀みを見せることなく魔術式を構築し待機状態へ移行する。それだけでこの部隊の練度が垣間見え、そして全員・・が優秀な魔術師である事が伺えた。


「総員、魔術式はつ…」


「それはご遠慮願おう。」


そんなゆったりとした声色の振動が別種の緊張感を生み出し、場を支配した。くぐもったうめき声とともに男が見たのは、先程まで隣にいた部下だったモノ。首が宙を舞い、鮮血が男の顔面を濡らす。


「(奇襲だと!?)くっ!総員接近戦闘!」


驚愕を露わにする内心とは裏腹に、男の口からは自然と次の号令が放たれた。自身も右手に構築していた遠距離用術式を破棄。代わりに瞬時に『肉体強化』の術式を組み上げたと同時に敵と推定される男へと腰のサーベルを抜き放ちざまに斬りつける。


「ふむ…その隊服…帝国諜報強襲部隊か。」


しかしその刃は届くことなく虚しく空を切った。魔術反応は見られなかったところから、体捌きのみで回避したのだ。男は内心、舌打ちしながらも思考は至って冷静に物事を観察していた。


「(ちっ…補給部隊が逆強襲だと?…だが明日は多く見積もっても4。対する私たちは20…いや、19名全てが魔術師だ。負ける通りなど…!?)」


思考の間、意識外からの突然の魔力反応に男は無意識的に防御術式を自身の側面へと展開した。展開と同時に激しく衝突する魔力弾と障壁。閃光と見間違うかの如く魔力残滓が煌びやかに舞う。


「(探知外から魔力弾による狙撃!?何なんだ、コイツらはただの補給部隊ではないのか!)」


「独白は済んだか?」


「っ!」


そう呟かれた言葉にふと視線を前方へ戻すと、先程の男が目の前に佇んでいた。手に持つ剣からは真新しい鮮血を滴らせ、その背後には人数を大幅に減らした部下たちが化物を見るかのように男を見ていた。


「(たった十数秒で…だと?)」


目の前の男がこの場に乗り込んで十数秒。たったそれだけで部隊の人数は3分の1ほどになっていた。それも魔力弾に気を取られたほんの数瞬でである。この時点でもはや作戦自体の失敗は確定。更に部隊は軍事的壊滅ともとれる損害を受けていた。


「(侮った…たかが補給部隊と甘く見た結果がコレとは。それによく見ればこの男は…『熱戦』の副官…この情報だけでも持ち帰らねば!)」


男は断腸の思いで部下たちにアイコンタクトをとった…と同時に、自身は踵を返し全力で駆ける。当然、襲撃者は男を逃がすまいと追従するがそれを数人の部下たちが足止めし、残りは男の後を追った。


「なるほど、情報だけは持ち帰るつもりか…だが、そちらは虎穴かもしれんぞ?」







「…くそっ!何人やられた?」


「…11名殉死、重傷者は全て足止めへ向かったので残りは隊長と2名です。」


全力で森の中を駆ける男とその部下。損耗率だけなら壊滅と言える報告に眉を顰めながらも駆ける足は止まらない。このままおめおめと帰還しても良くて前線送りの肉壁、最悪その場で打ち首もあり得るが、死んでいった部下たちのためにも情報だけは持ち帰らなければならなかった。


「まさかヤツが補給部隊なぞに居るとは!この情報だけでも…なんだ?」


ふと進路上に現れた魔力反応に男は戦闘態勢をとり、部下もそれに倣う。


「通したのは3名か…これも中尉なりの気遣いかな?」


現れたのは報告のあった訓練生と思わしき青年…いや、少年と言っても過言ではない男だった。まだ卸したばかりであろうパリッとした意匠の若干違う軍服は、明らかに軍学校のものであろう。


だが男は違和感を覚えた。


入学したばかりの特徴を絵に描いたような訓練生…にも関わらずあの落ち着き様。そして部下の報告。


『魔力反応や漏れは見受けられませんでした』


先程は確かに目の前の男から魔力反応があった…つまり、『隠蔽術式』なり何なりを駆使していたということ。『隠蔽術式』はその利便性とは裏腹に、緻密な魔力操作と高い集中力を要する為習得難易度は想像よりも遥かに高い。


よしんば習得出来たとして、少なくとも訓練生が現役軍人を欺けるレベルで常時運用できるものでは無いはずなのだが。そもそも術式自体も近年になり漸く広まったものなのに、何故目の前の男が運用できているのか?


「3人いるなら…まぁ1人・・でいいか。」


思考よりも身体が先に動く。腰のホルスターから拳銃を取り出し、訓練生風の男へと向けそこに魔術式を構築…『推進強化』そして『魔力中和』の術式。重複構築はダブルでエリート、トリプル以上で化物と言われるほどの技術だが、隊長と呼ばれた男はもとより部下2人も即座に構築できるところを見るに流石としか言いようがない。


だが技術が卓越していようと殺傷性が高かろうと、それの結果が相手に到達しなければ意味はない。


「(なん…だと!?)」


構えた拳銃…しかしそれよりも、構えた肘から先が無かった・・・・。男との距離はまだ10m以上ある。更に言えば男は先程から立っているだけだ…魔力反応も感知していないのにも関わらずである。


激痛と驚愕の波に飲まれながらも、両脇に目をやるとそこには拳銃を構えたままの姿勢で首から上が無くなっている部下たちの姿。


「化け…物…め…」


最後に男の目に入ったのは、何故か迫りくる地面だった。











「被害報告を…と言っても見たままだろうがな。」


オズワルドはそう言いながら周りを見ると、そこには何食わぬ顔で休めの体勢で待機するレイウィックの姿が。


傍らには四肢が切断された男が倒れているが、何とか生きている様ではあった。


「はっ!敵3名と交戦しうち2人は撃破、階級が高位と予想された1名を無力化し捕虜としております。」


そうあっけらかんと報告するレイウィックの傍らには、止血帯で止血してあるとはいえもはや虫の息の隊長格と思わしき男が。放っておけば1時間と待たずに絶命するだろう。


「…レイウィック訓練生。君はまだ履修前だから知らないだろうが、捕虜の選定基準とは何も地位だけじゃない。その捕虜の健康条件も指針の1つで、尋問等に耐えうる状態が求められる。この状態ならばあと数刻も持たないだろう。」


今は激痛により意識を失っているが、鎮痛剤や満足な治療を受けれない状態でどこまで受け答えが出来るか。そもそも輸送中も保つかさえ怪しい状態。捕虜としての地位や持っているであろう情報に問題はないが、些か状態が悪すぎた。


「はっ…それは…申し訳ありません。失念していました。」


レイウィックは申し訳なさそうに地面に転がっている男に視線をやると、その現状を再認識し、自分がやり過ぎたと自覚したようだ。


「まぁ仕方ないだろう。君は先に部隊に戻るといい、この男は今こちらに向かっている少尉たちに任せることにする。部隊に合流し、ソールド少尉に第3種戦闘態勢に移行するよう通達してくれ。」


「はっ!」


そう命令を反芻しレイウィックは森の外へと駆けてゆく。その後姿は年相応な少年のものだが、オズワルトは末恐ろしいと感じた。軍的な知識、教養はまだまだだが、軍のカリキュラムを受けていない素の戦闘力でこれなのだ。


今後『熱戦』の薫陶を受け、どこまで化けるのか。楽しみでもあり恐ろしくもある。


「(この捕虜の男は少なくとも士官クラス。私との直接戦闘はなかったが、あの指揮判断や状況把握の早さ、魔術構築の練度から見て相当な手練れ。それを何もさせずに完封…か)」


現場には戦闘跡は一切なく、あるのは大量の血痕のみ。しかもそれらは全て敵兵のものだ。例え見た目や訓練生という出で立ちによる油断があったとしても、ここまで一方的とは考えにくい。


ならば、それを成し得た何か・・があったに違いない。頼もしいが恐ろしい…オズワルドが魔法師に抱く共通認識が、間違いなくレイウィックもその1人なのだと訴えていた。


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