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エピローグ1

 話はキャロラインとリーンハルトが結婚式を挙げる少し前に遡る。


 トスカーナ王国へ戻ったキャロラインは、ギース達からリーンハルトの自分に対する嫉妬と執着の重さを延々と聞かされていた。


「キャロライン様と話すだけで親の仇みたいな目で睨まれるんですよ? 信じられます? 獣人を蔑んだ目で見ないキャロライン様と、みんなお話ししてみたいと思っていたのに変態ストーカーの執着を恐れるあまり、今まで寂しい思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」


 ギースの案じた通り、キャロラインの居場所が解るなり単身飛び出して行ってしまったリーンハルトを、国境沿いでやきもきしながら待っていたギース達は、心配をかけた主への仕返しとばかりに、洗い浚い心中を暴露する。


 王城の見張り台で、リーンハルトの原寸大の尻尾の模造品を抱きしめながら庭園を覗いていたキャロラインは、ギースの突然の謝罪に戸惑いを隠せず後ろに控える護衛へ目を向けた。

 だがキャロラインと目があった護衛も首を縦にブンブンと大きく頷くと、90度の角度でガバリッと頭を下げ謝り始める。


「俺、いや、私もずっと仏頂面のままですみませんでした。本当はもっとお話をしたかったんです。それを変態ストーカーが、いや、メンヘラ王太子、じゃなくて、鬼畜狼が……」


 護衛はキャロラインと話すことに緊張しているのか、不敬な呼び方を言い直しているはずなのに、全く言い直せていない。

 嫌われていたわけではないようなので安心したが、ギースと護衛の声は思ったよりも大きく、見張り台の端に控えていた騎士や侍女が、自分も自分もと動き出しそうなのを見て、キャロラインは逡巡する。

 注目されるのは苦手だし、謝罪を受けるようなことはされていない。


 後退りするキャロラインだったが、その背後から不機嫌な声が響いた。


「今すぐそのおしゃべりな口を閉じなさい」


 登場するなりキャロラインを抱き寄せたリーンハルトの行動は、今やトスカーナ王宮ではデフォな日常である。

 ついでに栗色の髪へ口づけし、頬を撫でるのまでが一連の流れだ。

 キャロラインは恥ずかしがっているが、それさえも楽しんでいるリーンハルトに、護衛は顔を青くしたが、ギースは眼鏡越しに睨みつけると、灰色の尻尾を奮い立たせ、きっぱりと言い放った。


「いいえ、もうこの際ですから全て暴露させていただきます! リーンハルト様が変な執着を暴走させるからキャロライン様が誤解したんじゃないですか! もう主だけに任せておけませんので、これからは我々だって我慢せずにどんどん話しかけて、ちょっとの誤解も与えないつもりです!」

「却下です! キャロは私だけのものです! 減りますから他の男と話すのは許しません!」


 優しくキャロラインを撫でながらも、リーンハルトは冷たく一蹴する。

 そんなリーンハルトに、キャロラインは彼にもらった尻尾の模造品を撫でながら首を傾げた。


「あのぅ……以前からお聞きしたかったのですが、私が他の殿方とお話しすると何が減るのでしょうか?」

「うぐっ!」

「ぶふっ!」


 二人分の変な擬音が聞こえた気がして、キャロラインが眉尻を下げる。


「ハルト様? ギース様も、どこか具合がお悪いのですか? それでしたらお休みになったほうが……」

「どこも悪くありません。キャロと離れたくありません」


 心配したキャロラインが見張り台を出て行こうとするのを、間髪を容れずに否定し引き寄せたリーンハルトに、ギースがヤレヤレといった視線を向けた。


「リーンハルト様は何が減るのか理由を言いたくないのです。何せキャロライン様が絡むと変態思考になる主でありますから、ろくな回答じゃありませんよ、きっと。でも隠し事はよくないですよね~? キャロライン様だって悲しくて、また変な誤解をしてしまうかもしれませんよね~?」


 ギースの言葉にキャロラインが不安気にリーンハルトを見上げる。

 視線を受けたリーンハルトの耳は半たれになり、尻尾がソワソワとあちらこちらへ揺れる。


「キャロ、そんな可愛い顔で見つめないでください。いえ、見てもらうのは大いに結構ですし、私的には一生見つめ合っていたいのですが、今は……」

「私には言いたくないのですね……」


 模造品の尻尾を握りしめキャロラインがしゅんとして俯けば、リーンハルトがこの世の終わりのような顔になった。


「言いたくないわけではありません! ただちょっと……」


 言い澱むリーンハルトに、ギースがニヤニヤしながら「ほ~ら、言っちゃえよ?」みたいな眼差しを向ける。


「あーぁ、キャロライン様がまた誤解したら今度こそ取り返しがつきませんよ~?」


 ギースのあまりにあけすけな物言いに、護衛がハラハラしながら見守る中、リーンハルトは白銀の髪を搔きむしると、キャロラインの両肩をガシッと掴んだ。


「キャロ、聞いてもどうか引かないでくださいね」

「ひく、ですか?」


 何だかよくわからないがコクリと頷いたキャロラインに、リーンハルトが真剣な表情で口を開く。


「減るのは……」

「減るのは?」



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