表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/78

74 因果応報5

 跡取りのいなくなったアカシア王国は、先々代の時代に王女が降嫁した侯爵家から王太子を選出することとなる。

 元王女であり優しく聡明だった曾祖母の栗色の髪と薄墨瞳の色を受け継いだ侯爵家令息は、見た目が地味だというだけで国王がキャロラインへどんな仕打ちをしていたか式典で見知っていたので、立太子は引き受けたものの対応は冷ややかなものだった。

 彼は王太子に就任するとすぐに王宮内の調査を実施し、キャロラインへ暴言を吐いていた侍女達の更迭を決め、文官達と協力し次第に国王から権限を奪っていった。


 国王が娘として育てていたアリアナを手籠めにしようとしたことも、王宮での立場を失墜させる要因となる。

 老化が始まったアリアナは既に修道院へ放逐されていたが、未遂とはいえ鬼畜のような国王の所業に嫌悪を募らせる者は多く、王太子からは汚物でも見るような眼差しで見られる始末。

 それでも自分の美しさを鼻にかけ高慢な態度を崩さない国王に、愛想をつかした重臣達が堰を切ったように離れて行く中、トスカーナ王国からリーンハルトとキャロラインの結婚式の招待状が届いたのだった。



 ローゼリア王国で繰り広げられた出来事は、女官長が公爵令嬢だったこともあり、トスカーナの王宮内でも物議を醸していた。


 人族を憎む理由があったとはいえ、逆恨みでキャロラインを傷つけたことをリーンハルトは許しはしなかったが、騒ぎに乗じて逃げた女官長がその後、番だった男の墓の前で自害しているのが発見されたことにより、相手が既に鬼籍に入ってしまったことと、キャロラインが彼女の極刑を望まなかったことから、女官長の実家である公爵家が侯爵家への降格処分となることで決着した。


 しかし公爵家は最初の罪の際に女官長へ恩情を請うた責任を重く見て、自ら大半の領地を返納すると、子爵家への降格を望む。

 この辺が獣人特有の潔さともいえるが、女官長の死に顔が穏やかなものだったということも、公爵家が王家に対し最大限の謝意を示した原因といえる。

 だが王家と同じ白狼の血を引く公爵家が子爵家にまで降格になったことで、国内人事は暫くゴタゴタが続くことになったのだった。


 それが漸く片付いたので晴れて結婚式を挙げることとなったのだが、地味な王女のことなど思い出したくもないアカシア国王は苦々しく眉を寄せる。

 考えてみればキャロラインがケモノの王太子の番だと判明しトスカーナ王国へ行ってから、全てがうまくいかなくなったのだ。

 双子の王女の時はともかく、王妃が不貞を働いてアリアナを身籠ったのだって、キャロラインが醜く生まれてきたせいである。


 そう考えると悪夢のような日々の元凶が全部キャロラインのせいのような気がして、結婚式への出席を見合わせたいと言い始めた。

 獣人の国に行くのも気がすすまないし、あんな地味な娘の親だと思われるのも恥だと所かまわず言い出す始末で、話を聞いた栗色の髪の王太子が激怒する。


 美しさに固執するあまり妻に裏切られ家族を失くしたくせに、未だ反省する様子を見せないどころか唯一の娘の晴れの舞台を、くだらない理由で欠席しようとする国王は、同じ赤い血が通っている人間かと疑いたくなった。


 アデルセンの時には妾として娶るということだったので、アリアナだけの参列でも黙認されたが、今回キャロラインは王太子妃となるのである。

 それにキャロラインの立場を考えても父親である国王が出席しなければ体面が悪い。

 長年、彼女を虐げていたくせに、最後まで娘に愛情を見せようとしない国王に、王太子は嫌悪と呆れが滲んでくる。


 大体弱小国の国王が娘の結婚式に参加しないなど対外的にも問題であるし、獣人を見下す風潮も悪しき習慣だと王太子は考えていた。


 無能な王族達のせいで、アカシア王国はかつてないほど困窮している。

 今やリーンハルトがキャロラインを溺愛しているのは周知の事実なので、国王が結婚式へ出席しなければ、トスカーナ王国からどんな制裁を受けるか想像しただけで胃が痛い。


「我が国では今現在、厳しい現状を打破するため、重臣も文官も皆、頭を悩ませて東奔西走しているというのに、当の国王が私情を優先するとは何たることか! 式へ出席しなければ王太子の位を辞しクーデターにて政権を奪取する!」


 薄墨色の瞳を氷の温度まで下げた王太子の進退をかけた脅しに、国王は彼を廃嫡しようとしたが、重臣も文官も一様に王太子に従う素振りを見せたため、渋々結婚式への出席を決めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ