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73 因果応報4

 齢はとっていてもアカシア国王は相変わらず美しい。

 そんな父親はアリアナの自慢であり、自分がその娘であることを誇りに思っていた。

 地味な姉を虐めるのも、美しくないのが悪いのだと本気で思っていたし、両親から愛される自分は特別なのだと考えていた。


 けれど今は、父親からの愛が怖い。

 綺麗な金髪も青眼も、天使のようだと讃えられた容姿も、アリアナを作る美しい要素が、父親だった男の情欲を掻き立てているのかと思うと、かなぐり捨てたくなる衝動に駆られた。


「やだ、やだ、やだ、やだ! 気持ち悪い! こんなのやだ!」


 髪を掻きむしって泣きじゃくったアリアナに、流石の国王も我に返る。

 双子の王女の死や王妃に裏切られたことがショックで思いつめ、どうせ娘ではないのならと欲望に任せてしまったが、泣くほど拒絶されたことで少し冷静になり興が削がれたため退室しようとした時、アリアナが悲鳴をあげた。


「な、なんで? 髪が……私の髪がぁぁぁぁ!」


 振り返った国王が見たのは、長い金髪の毛先半分を灰黒色に染めたアリアナの姿だった。

 慌てて顔を覗けば、青眼も白く濁っており、陶磁器のようだった肌には薄らと染みが浮かんでいる。


 鷺の獣人が老化するのは20歳を過ぎた頃と言われていたが、アリアナはまだ16歳だ。

 そのせいなのか老化は途中で止まっているようだが、天使のようだと讃えられた美しさは完全に損なわれてしまっていた。


 若い時しか稼げないと解っている鷺の獣人は自分の老化を願ったりはしない。

 けれどアリアナは自分の容姿が嫌だと強く思ってしまったことが仇となり、老化が一般より早く訪れ中途半端に進行してしまったのだが、国王もアリアナもそんなことはわからない。

 けれども美しさを失ったことで国王の子ではなかったことが証明されてしまったため、アリアナは修道院へ追いやられた。


 王都の修道院は大抵孤児院を併設している所が多い。

 王女であった頃にバザーに貢献しないばかりか不良債権を押し付け、自分達を貧しい環境にした元凶であるアリアナへ、子供達の当たりは強かった。

 無垢な子供であるがゆえに嫌がらせは容赦なく、感情のままに叩かれたり蹴られたりすることも珍しくない。

 シスター達は目に余る場合には注意してくれるが容認している節もあり、アリアナの身体は生傷が絶えないようになった。


 だが、それ以上にアリアナを苦しめたのは老化への恐怖である。

 美しさだけで生きてきたアリアナにとって、確実に醜くなる鷺の特徴は呪いのように彼女の心をどす黒く染めていった。


 ある日、孤児院に新しく入ってきた明るい茶髪と黒檀の瞳を持つ子を食い入るように見つめたアリアナは、突然その子の髪を引きちぎり瞳を抉りだそうとして、シスターや他の子たちに取り押さえられる。

 半狂乱になって抵抗するアリアナに天使と呼ばれたかつての面影はなく、意味の解らない言語を叫び続ける彼女を持て余した修道院は、隣国へ流れる大河に戸板へ乗せ放り投げることにした。

 そのまま王宮へは不慮の事故で亡くなったと報告をしに行ったが、官吏も父親であった国王も関心を見せることは終ぞなく、アリアナの死はひっそりと受理されたのだった。



 度重なる王族の醜聞でアカシア王宮は暫く混沌とした。


 王家の威信は地に落ち、国王と王太子だけが残った王宮では、さすがの兄王子も逃げ出すわけにはいかず、徹底的に文官達にしごかれた。

 キャロラインの兄だというのに、王太子は頭の中身も人形のように綿が詰まっているか、空洞なのかと思うくらいに飲み込みが悪く、執務は滞り、その度に文官達から叱責が飛ぶ。


「殿下が蔑んでいたキャロライン様は、この数倍の執務を熟しておりました」

「本当にただの人形のような王太子殿下ですね。そのような体たらくで国王になられるおつもりですか? このままではアカシア王国は滅亡しますよ」

「今まで放蕩三昧していたツケを支払っていただかないと。王族としての矜持を持って執務にあたっていたキャロライン様の足元にもおよびませんが」


 役立たずだと思っていた妹と比べた挙句無能だと罵られる辛辣な言葉に、始めは怒りを露にしていた王太子も、彼らがいなくなると国政が立ち行かなくなるため反論もできず、今までは庇ってくれた王妃もいないため、次第に生気を失くしていった。

 屍のように王宮を彷徨う姿が散見されるようになったが、やがてキャパオーバーの教育と執務に精神を病んだのか、人形になりたいという手紙を残して蒸発してしまう。

 その後銀髪碧眼の人形のような見目麗しい青年が海を渡った竜人の国で奴隷として売り出されたらしいが、王太子の生死は不明のままであった。


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