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72 因果応報3

 王妃は証拠をつきつけても自らの不貞を当初は知らぬ存ぜぬを通していたが、醜い老婆へ変わったことで双子の姉王女達が発狂し、病死させられたことを告げると顔色を変える。


「私の子が醜くなったですって? そんなわけないわ! だって相手はちゃんと美しい男を選んだんだもの!」


 王妃に問い質したのは不貞についてだけであり、鷺について説明をしていなかったため、突然醜い老婆になった話など信じられずに出た発言だったのだろうが、思わず零れた本音は不貞を認めるには十分だった。


 冷めた目で見る国王に、それでも王妃は何とか言い逃れようと苦しい言い訳を始める。

 けれども激昂した国王が罵詈雑言を浴びせてきたことに我慢できず、美しい子供が欲しかったからだと開き直った。

 その太々しい態度に国王は王妃に対する愛が完全に冷める。

 お互いに罵り合う二人を重臣達が黙って見ていることしかできない間に、ヒートアップした王妃が声を張り上げた。


「言っておくけれど、貴方が溺愛していたアリアナも別の男の種ですわよ! 貴方との子である王太子が美しく生まれたから油断していたら、地味な子供が出来てしまったんですもの。仕方がないからまた美しい男の子種を貰ったの! 美しい私の子が美しくないなんて有り得ないもの! 貴方だってアカシア王族には美しい子だけが相応しいと思っていたのだもの、同罪でしょ!」


 王妃から伝えられた告白に動きを止めた国王は、口を開けたまま倒れこむように玉座へ座り込む。

 溺愛していたアリアナが自分の娘ではなかったことに強い衝撃を受け、立っていられなかったのだ。

 

 信じられない事実の連続に脳の処理が追い付かず、しばし呆然としていた国王だったが、徐に席を立つとまだ騒ぎ立てる妻を無視し、その日のうちに王妃の身分を剥奪すると、住んでいた王宮からたたき出しキャロラインのいた離宮へ住まわせた。

 王城の外へ出さなかったのは、ひとえにこれ以上王族の醜聞を晒したくない重臣達のせめてもの配慮であり、国王の温情ではない。


 しかし華美な生活に慣れた王妃が、離宮での不便な暮らしに我慢できるわけがなかった。

 王妃は当然文句を言ってきたが、元の王宮への立ち入りは一切許されず、怒りのまま面会もしない国王に悪態をつくと、長年キャロラインを住まわせていたくせに自分は3日と持たずに出て行ってしまう。


 離宮を出た王妃は仕方なく実家へ身を寄せていたが、国王に捨てられたショックと最高級の身支度をしてくれる侍女がいなくなったことで、あれほど美しいと讃えられた美貌はみるみるうちに衰えていった。

 しかも王宮にいる時のように傍若無人に振舞う彼女を実家も持て余し、やがて金持ちの妾として遠い国へ出されてしまう。

 しかしそこでも浪費癖が直らないばかりか若く美しい愛人を囲いだしたため、最果ての鉱山へ娼婦として売り飛ばされたらしい。

 美しいものだけに執着していた王妃にとって、不衛生で薄汚れた鉱山での日々は地獄以外なにものでもないだろうが、全て身から出た錆なので同情する者はいなかった。



 王妃が実家へ帰った頃、母親の爆弾発言により窮地に陥ったのはアリアナである。

 まだ鷺の特徴である老化現象が起きていないため本当に王家の血を引いていないか解らないアリアナは、王宮に軟禁状態にされていた。

 しかしアリアナが獣人である鷺の子であるかもしれないと噂されると、これまで恭しく接しどんな無茶なお願いも笑顔で聞いてきた侍女達が、手の平を返したように冷たい態度をとるようになる。

 獣人を見下す傾向にあるアカシア王国の人にとって、幾ら美しくても獣人であるアリアナを受け入れられないのは当然のことであった。


 食事も満足に運ばれず、身支度さえも手伝われない。

 嘗てキャロラインがされてきた仕打ちを受けアリアナが憤慨している中、久方ぶりにやってきた父親から告げられた言葉に絶句した。


「アリアナ、どうやらお前は私の娘ではないらしい。だが汚らわしい獣人の子では嫁の貰い手もないだろう。今までは娘として溺愛してきたが、娘ではないなら違う形で愛してやろうと思うがどうだ?」


 最初、アリアナは父親が何を言っているのかわからなかったが、次第に意味を理解しゾッとする。


 以前、戯れに関係を持とうとした旅芸人の美しい男から「同族からは巻き上げない主義なんだ」と軽く躱された時から、アリアナは自分の出生に不安を抱くようになっていた。

 今まで特に思う所はなかったが、自分の青い瞳が父親より少し明るい色なことも気になった。

 しかもそのことを全く両親に似ていない姉に指摘されたことが余計に苛立たせた。

 だからキャロラインを虐め抜いたのだ。


 アデルセンの結婚式でリーンハルトの言葉を遮ったのは、その不安を暴かれるかもしれないと本能的に忌避したためである。


 アリアナがキャロラインを虐めている事実を両親は知っていた。

 知っていて黙認し、いつだってアリアナの味方だった。

 その事実がアリアナの、自分は間違いなくアカシア王国の王女で、両親から手放しで愛されているという自信へ繋がっていた。

 それなのに父親だと思っていた男から情欲の籠った瞳で見られている事実に、アリアナは吐き気がした。


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