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5 謁見の間での出会い2

 毛が生えたフサフサの耳やモフモフの尻尾など、動物的特徴を持った者たちのことを獣人と呼ぶ。

 対してキャロラインのように何の特徴もない者たちは人族と呼ばれていた。

 獣人というものは総じて身体能力が高いと言われている。

 それに対して人族は、獣人より知能が高いとされていた。


 自分達の方が優れているとお互い譲らない二つの種族は基本別々の国に暮らしているが、近年では鉱物や農産物の交易のため交流が進んでいる。

 しかし、まだまだお互い謎が多い。

 ちなみにアカシア王国は人族、トスカーナ王国は獣人の国だ。

 獣人と一括りに言っても鼠、兎、猫、犬、虎、狼、熊、など様々な人種がおり、一見すると人族のように頭上に耳がない烏や鷺、海を越えた大陸には鰐や鮫、竜などもいるらしい。


 アカシア王国の隣国であるトスカーナ王国は主に猫や犬に熊、さらに狼を主体とした獣人で構成されており、王族は白狼の一族である。

 目の前にいるリーンハルトのフサフサの耳と尻尾も、光を反射した雪のような白銀色をしており、彼が白狼の獣人だということが容易に知れた。


「よろしければ直接御名をお聞かせ願えませんか?」


 琥珀色の瞳を柔らかく細めて自分を見るリーンハルトにキャロラインが戸惑う。

 相手が獣人であれ人族であれ、今までこんな風に話しかけられたことなど一度もなかったので、緊張してしまい身体が強張る。

 とはいえ黙っていては相手に失礼なため、返事をしなければとコクリと唾を飲み込んだキャロラインへ、厳しい声が飛んだ。


「早くなさい! 何をグズグズしてい……」

「ゆっくりでいいですよ。ゆっくり、キャロライン王女のペースで構いません。私は貴女の声を聞くためなら、いつまででもお待ちします」


 まごついているキャロラインを叱責した王妃の言葉が、途中でリーンハルトによって遮られる。

 思わず気色ばんだ王妃だったがリーンハルトが笑みを深めると、忌々しそうではあるが口を噤んだ。


 いつもは感情のまま手をあげるような王妃が、不本意そうではあるが黙って引き下がったことに、キャロラインは瞳を瞬かせる。

 一方リーンハルトは、その言葉通り催促するようなことはせず、じっと優しい笑みを浮かべたまま待っていてくれるようだった。

 そのことにじんわりと胸が熱くなったキャロラインは、勇気を出して口を開く。


「ア、アカシア王国第三王女キャロラインと申します」


 たったそれだけを伝えるだけなのに、吃ってしまったことに内心で冷や汗をかきながら、キャロラインがカーテシーをするとリーンハルトは感嘆の声をあげた。


「ああ、キャロライン王女は本当に大変可愛らしいですね。それにカーテシーへの動作も流れるように美しい」


 思いもよらない誉め言葉に、ぶわっと頬が赤くなるのを感じて、キャロラインは目を伏せる。

 しかし隣からクスリと聞こえた嘲笑にギクリと身を竦ませた。


「まぁ、うふふ。お姉さまが可愛いですって? 獣人の方は随分と面白い感覚をお持ちなんですね。やっぱり動物に近いからなのかしら?」


 アリアナの一言にキャロラインの上がっていた気持ちが急速に凍り付く。

 アリアナが自分を貶す発言をするのはいつものことなのだが、リーンハルトの前で言ってほしくはなかったと思った。

 そして、そんな考えが浮かんだことに戸惑いつつも、他国の王太子に向かって暴言ともとれる言葉を放ったことに驚き、背筋が寒くなったのだ。



 先にも述べたが、友好関係を築いてはいるが実のところ人族と獣人はあまり仲が良くはない。

 人族は獣人を人になれなかった獣だと見下し、蔑視語も存在する。

 それは獣人の方も同じで、人族を劣った種族だと忌み嫌う獣人もいるらしい。

 そのせいで嘗ては二つの種族の間で数多の戦争が繰り返されてきたが、今現在はお互いの長所短所を補い合うことで、表面上は平穏を保っている状態なのだ。

 そんな中、獣人と人族を区別するような発言をすればせっかく訪れた平和が崩れかねない。


 ちなみに人形のような美しさを重んじるアカシア王国では、獣の耳や尻尾が生えた獣人を見下す傾向が強い。

 動物はあちこちに体毛を落とす汚らしいものという認識があり、馬車を引く馬でさえ王族が外出する時以外は、白亜の王宮へ立ち入ることが許されていない程である。


 だがトスカーナ王国は獣人の国ということもあり軍事力が高く、この辺りでは大国に数えられる。小国のアカシア王国などトスカーナ王国に攻められたら一溜りもないだろう。

 だからこそ、先程からリーンハルトが父王や王妃の言動を遮る発言をしても許されているのだ。


 人族主義の考えが根強く、日頃から獣人にあまりいい感情を抱いていない父王や王妃にしてみれば、獣人のリーンハルトを王宮へ招くことさえも本来は不満だが、相手が大国の王太子であるため煮え湯を飲んで対応しているのが今の状況なのである。


 しかし甘やかされて育ったアリアナはそんな事情は忖度しないようで、基本的に思ったことを全て口に出してしまうらしい。

 天使と呼ばれるアリアナらしいといわれればその通りだが、王族なのだから発言には細心の注意を払わなければならないのに、それができない。


 リーンハルトが厳しい反応をしたらどうしようかと内心で冷や汗をかいていると、少しは拙いと思ったのか母親である王妃がアリアナへ苦言を呈した。


「アリアナ、他国の王太子に失礼よ」

「でもお母さま、私、可笑しくって!」

「まぁ、ね」


 注意をしたはずの王妃が、あろうことかアリアナに賛同したことにキャロラインは瞳を丸くするが、父王が窘める気配はない。


「トスカーナ王国は、軍事力は高い大国ですけれど、美意識の精度はもう少し向上させた方がいいかもしれませんね」


 剰え兄王子までそんなことを言い出したため、キャロラインは何だか眩暈がしてきた。


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