表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/78

54 やっと手にいれた4~アデルセン視点~

 はたして、乱暴な日程だったにも関わらず大国ローゼリアの王子の結婚式ということで、各国からは軒並み出席する旨の回答が届いていた。

 当然のことだとは思いながらも上機嫌でそれらを確認していたアデルセンだったが、アカシア国王から届いた返事に眉を顰めた。

 一応トスカーナ王国の手前があるため自身と王妃、王太子の参加は見合わせ妹王女だけ出席させたいという返信がきたのである。


「弱小国のくせに生意気な真似を……キャロラインに指示して内政書類をローゼリア王国の有利になるように書き換え、いずれアカシア王国を併合してやる。今は頑なに拒否しているが、きちんと躾ければやがて言うことを聞くようになるだろうしな……その過程も楽しめそうだ」


 クククと笑って、アデルセンは今しがた降りてきた窓の外の塔へ目を向けた。

 文字通り鎖で繋いだキャロラインは、もう逃げられないし逃がさない。


 番だからなどというふざけた理由で無理やりケモノの王太子の婚約者にされたからか、キャロラインは人族の国に匿われているというのに、まだ怯えた表情を見せていた。

 一度だけ戯れに、ある書類へ王太子のサインを要求した際に、震えながらも頑なに固持したキャロラインを思い出す。


「い、嫌です……それは出来ません」

「ほう……この私が頼んでいるのに拒否するとはいい度胸だな」


 凄むように言い返したアデルセンにキャロラインは目に見えて狼狽え身体を縮こませる。

 墨色の目には涙さえ浮かんでいて、それを懸命に堪えている姿がアデルセンの嗜虐心を搔き立てた。


 もっと虐めてみたい。


 大国の王子の指示を真っ向から拒否する度胸はあるくせに、震えは隠せないキャロラインを、どうしようもなく打ちのめしたくて堪らなくなる。

 従順そうに見えるのに簡単に調教できない彼女を、自分好みに躾て泣きながら懇願するようになる姿を想像して、アデルセンは掴んでいた鎖を力任せに引き寄せた。


「あっ!」


 いきなり引っ張られたからかキャロラインはバランスを崩し、その場に倒れる。

 床に散らばった栗色の髪を鷲掴みにして顔を引き上げ、アデルセンは耳元へ口を寄せた。


「お前が役立たずでも、ケモノの王太子と違って優しい私は仕方ないからずっと面倒を見てやる。だがあまり強情すぎると痛い思いをするかもしれないぞ?」


 強引に引き上げたからかキャロラインの髪の毛が数本抜ける音がして、痛みで顔を顰めている。

 その顔にゾクゾクとしたものが背中に這い出してくるが、結婚式でザンバラな髪や顔に痣のある花嫁では外聞が悪いと考えて手を離した。

 その時、ふとキャロラインの額に薄い傷跡のようなものが見えて、再び手を伸ばし今度は前髪を掴んで持ち上げる。


「なんだコレは?」


 露になったキャロラインの額の隅には薄らと小さな傷があった。

 顔に傷はつけないようにしていたため、アデルセンがつけた傷ではない。

 しかし自分以外の誰かがキャロラインを傷つけたことにアデルセンは怒りを覚えた。

 だが、だいぶ昔についたであろう傷に思い当たる節があり冷たい声音で訊ねる。


「……ひょっとして、お前を妾にすると宣言した時に王妃に殴られた傷か? ……まさかあの程度のことで跡になっていたとはな……私以外がつけた跡など忌々しい」


 キャロラインの返事を待つことなく、舌打ちをしたアデルセンは額の傷跡へ自身の親指の爪を当てた。


「上書きしてやろう」

「……やっ!」


 グイグイと力任せに爪を深く食い込ませるアデルセンから逃れようとして、キャロラインは咄嗟に否定の言葉を口にする。

 押し方が甘かったのか、キャロラインの額に爪痕はくっきり残ったが傷がついた様子はなかった。

 そのことがアデルセンは気に入らないと思う反面、嗜虐心は益々高揚してゆく。


「いや? 私を否定する生意気な口には、おしおきを考えないとな」


 興奮からか荒い息を吐き出しながらニタリと笑ったアデルセンは、キャロラインが真っ青な顔色になるのを満足気に見ながら、彼女を押さえていた手を離した。


「式が楽しみだ」


 そう言い残してアデルセンは踵を返す。

 名残惜しいが楽しみは後にとっておいた方が何倍も良くなると自重して、キャロラインを閉じ込めた部屋を後にする。

 だが扉を閉めても昂る気持ちが抑えきれずに、荒い息と共に指に絡まっていた栗色の髪に口づけた。


「やっと手に入れた……絶対に逃すものか」


 虐めたくはなるがアデルセンはキャロラインを愛している。


「おしおきか……そうだな……」


 思案を巡らしたのはほんの一瞬で、すぐに何かを思いついたように口角をあげた。


「話すのが苦手ならば、話さなくてもいいようにしてやろう……」


 指に残った栗色の髪へ舌を這わせながら、反対側の手で情熱的な赤い髪をかき上げ不敵に笑ったアデルセンは、キャロラインを妾にすると決めた日から幾度も数えてきた指を折る。

 待ちわびた結婚式の日が着々と近づいてきていた。


思った以上にアデルセンが気持ち悪い人になってしまいました。

明日からキャロライン視点に戻ります。

最後までお付き合いくだされば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うわぁもうマジ心底キモい…と思った最後に作者様のお言葉があってなんだか安心しました(笑) 今後の展開も楽しみにしています!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ