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53 やっと手にいれた3~アデルセン視点~

 アデルセンが最終的な式の調整を進める間に、アカシア王国の王妃と王太子から内密に書簡が届けられる。

 宛名はキャロラインだったが、躊躇うことなく書簡を開封したアデルセンは我が目を疑った。


「なんだこれは? アカシア王国の作物の出来高と水路の設置個所の優先順位? それに国内貴族令嬢の一覧だと?」


 始めは意味が解らなかったアデルセンだったが、書簡を捲るうちに声をあげて笑っていた。

 要はアカシア王国の王妃と王太子は自分達の執務をキャロラインにやらせていたようで、彼女がローゼリア王国にいると国王から聞かされた彼らは、滞っていた仕事をキャロラインへ送り付けてきたのだ。


「フハハハ! まさか聡明だと噂されたアカシア王国の王太子達の功績が、全てキャロラインのお陰だったとはな!」


 自分達の国の執務を他国の王子の愛妾へやらせようとするなど、アカシア王国の王族の頭は大丈夫なのかと疑いたくなったが、自分が選んだキャロラインが聡明なことが誇らしい。

 それに小国とはいえ見返り無しに他国の内情を知れるなど棚ボタもいいところなので、快く引き受ける返事をすれば、早々に内政に関する書類が大量に送られてきたので宰相や管理官へ写しを回しておいた。

 アカシア王国の内情が丸わかりの書類に宰相たちは悪い笑顔で褒め称えてくれ、他国の王太子の婚約者を秘密裡に囲ったアデルセンの暴挙は黙認された。


 やはりキャロラインは自分に相応しいと再認識しアデルセンは手元の書類を眺める。

 そこには、アカシア王国の王太子からキャロラインへ宛てた書簡が握られていた。


「お前、アカシア王国の王族達のサインを、そっくりに書けるんだってな」


 塔へ赴きキャロラインを糾弾すればビクリと肩を揺らしたのを見て、書簡の中で王太子がサインの記入すらキャロラインへ指示してきたことが真実味を帯びる。

 キャロラインが優秀だったことは嬉しい誤算だったが、王太子のサインまで出来るとなると話は別だ。

 何しろ王族の直筆サインはそれだけで大きな意味を持つ。


 キャロラインが一度ケモノと婚約が成立してしまったため、アデルセンとの婚姻を整えるのに苦労したのだ。

 王太子のサインが出来ることを知っていれば、面倒な書簡のやり取りをせずとも結婚式の日取りが早められたのに、とアデルセンは不快気に眉を顰めると鉄の鎖を手繰り寄せる。


「何で今まで黙っていた?」


 鎖に引き擦られるままアデルセンの元までやってきたキャロラインは、俯いたまま固く口を閉じ一言も発しない。


「まただんまりか。早く言っていれば、回りくどいことをしなくて済んだというのに」


 塔へ隔離してからキャロラインはほとんど言葉を発しなくなっていた。

 だが、目が覚めた時もたどたどしい話し方だったし、もともとあまり話すのが好きではないのだろうと勝手に結論づけたアデルセンは鼻で笑う。


「まぁいい。それよりも結婚式のドレスが完成したそうだ。お前も気に入るデザインだから楽しみにしておけ」


 そう嘯いて口角を上げ、立ち尽くすキャロラインに背を向けると、アデルセンは部屋を退出してゆく。

 大半は部下にやらせているとはいえ、アデルセンも結婚式の準備で忙しい身だ。

 普段なら憂さ晴らしに部下を甚振ったり侍女を凌辱したりする所だが、やっと掴まえたキャロラインを早く自分のものにしたいので、珍しく文句も言わず執務を熟している。

 そのお陰か花嫁を挿げ替えたにも関わらず式の準備は順調に整っていっていた。


 面倒ではあったが、婚姻に関する書類の方も妾の身分なので適当に誤魔化せたし、結婚式を挙げてキャロラインを娶った既成事実があれば、多少のことはどうとでもなる。

 とはいえ、妾といえど実質アデルセンが望むのはキャロラインだけなので、結婚式を挙げない選択肢はなく、各国の要人へも招待状をばら撒いた。

 念のため花嫁の名は伏せたが、バラとアカシアの花を描いた招待状を受け取れば、気づく者は気づくだろうとアデルセンはほくそ笑む。

 トスカーナ王国と事を構えるのは面倒だが、キャロラインを自分のものだと誇示する機会を逃したくはなかったのだ。


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