52 やっと手にいれた2~アデルセン視点~
ローゼリアに戻ったアデルセンはキャロラインを妾として迎える気持ちを固める一方、成長するにつれ大国の王子たる自分には相応しい正妃が必要だと考え、とっかえひっかえ令嬢達との逢瀬を繰り返し始める。
勿論、子を生すのはキャロラインだけだと考えていたが、性欲の赴くまま食い散らかして失敗し相手の令嬢がしつこく言い寄ってきた時には、権力にものを言わせて物理的に処理してしまっていた。
そして処断が終われば平然と、名目上は正妃選定と謳いながらまた別の令嬢を自身の欲望の捌け口としてゆく。
アデルセンはそんな堕落した生活を送りながらも、キャロラインを迎える日を指折り数えて待ちわびていた。
しかし事態はアデルセンが予期しない方向へ動き出す。
キャロラインがトスカーナ王国の王太子と婚約したのだ。
成人する20才になれば即キャロラインを貰い受ける気でいたというのに、ケモノの王太子などと婚約を結んだと聞いた時のアデルセンの衝撃たるや相当なもので、思わず報告をしにきた部下の頬を力任せに殴ってしまったほどであった。
殴られた部下が反抗的な視線を送ってきたので、王子の拳を傷つけた罰として免職にしたが。
実際の所、アデルセンとキャロラインが婚約しているなどいう話は書類一枚さえなく、当の本人以外思いもよらないことであり、王子の激高に部下たちは唖然とするほかなかった。
アデルセン自身も小国の王女如きに入れあげているとは思われたくなかったため、キャロラインへプレゼントや手紙を贈ったためしがなく、時がくれば自動的に手に入るからと、何のアクションも起こしていなかった。
そのため、誰もが子供の戯言だと忘れ去っていたのである。
当惑する部下たちを尻目にアデルセンは約束を反故にされたことに憤慨すると、ただちにアカシア王国へ抗議の文を送り付けた。
手紙を受け取ったアカシア国王はすぐに謝罪してきたが、既にキャロラインはトスカーナ王国へ旅立ってしまったと聞いて愕然とする。
「アレは私のものだ! ケモノの分際で栄えある人族の王子である私のものを横取りするなど許さん! 目にもの見せてくれるわ!」
待ちに待った極上の獲物を掠め盗られたアデルセンは、なりふり構っていられず、方々から手を回しキャロラインを捕らえる機会を窺った。
どんな方法でも構わない。
とにかくキャロラインを手に入れられれば、どうでもいい。
その方法で多少彼女が傷ついても構わない。
一生消えない傷や寝たきりになったらなったで、自分に依存するしかなくなり閉じ込めやすくていいとさえ思った。
だが滝に落ち気を失ったキャロラインが運びこまれた時は、あまりの顔色の白さに死んでしまったのかと勘違いし、連れてきた者たちに罵声を浴びせてしまっていた。
生きていると言われて安堵し、意識のないキャロラインを自分の髪色のドレスに着替えさせると、少しだけ気分が浮上した。
ポケットに入っていた汚いケモノの尻尾を模したキーホルダーは捨ててしまおうと思ったが、目の前で獣人との関わりを断絶させてやろうと思い立ち、ほくそ笑む。
「早く目を覚ませ。そうしたら私と結婚できるんだぞ」
栗色の髪を撫でながらアデルセンが囁く。
久しぶりに会った自分を見てキャロラインはどんな反応をするだろう。
あの日の約束通りに妾にしてやると言えば、きっとケモノの王太子から救いだしてくれたことを感謝するに違いない。
そう想像してニヤニヤしていたアデルセンだったが、目覚めたキャロラインは表情がさえなくて面白くなかった。
挙句に歩いてアカシア王国へ帰るとまで言い出す始末で困惑したが、トスカーナ王国へ戻りたいと言われなかったことは愉快だった。
ケモノはやはり気色が悪かったのだろう。
そんな国に拉致され、まだ混乱しているのだと思い、汚らわしいケモノのキーホルダーを目の前で踏みつけてやった。
ケモノなど恐れることはないのだと示してやったつもりだったが、キャロラインは相変わらず暗い顔をしている。
そんなに不安にならずともトスカーナ王国の王太子が来ても、連れ戻させたりはしないと安心させるため、警備が固い塔へキャロラインを避難させ、万全を期すため手錠もかけた。
さすがに手錠はやり過ぎかとも思ったが、怯えるキャロラインが可愛かったので、結婚してからも嵌め続けることに決める。
今は訳がわからないようだが、番だなんだのと騒ぎ立てるケモノの王太子からキャロラインを守るためだと解れば、何れ本人も納得するだろう。
結婚式は早ければ四週間後には開催できる手筈になっている。
本当は正妃を迎える結婚式として進めていたものだったが、キャロラインが手に入った今、正妃との式など後回しに決定である。
正妃は侯爵家の令嬢にしたが、式を延期すると言ったら抗議をしてきたので、暴漢に襲わせ傷物にして結婚を白紙にしてやった。
侯爵令嬢の分際で王子である自分の意見に従わなかったのが悪いのだと、乱暴され心を病んでしまった令嬢をアデルセンは歯牙にもかけなかった。




