51 やっと手にいれた1~アデルセン視点~
キャロラインを初めて見た時は噂の地味王女だと思っただけで、何の感慨もわかなかった。
王族席にいながら椅子さえ用意されず、緞帳の影に隠れるようにひっそりと立ち続ける様子に、王女ではなく侍女みたいだとバカにしたものだったが、ふとキャロラインが窓の外を見てふわりと笑ったのを目にした瞬間、手に入れたい欲が生まれた。
自身も派手な赤い髪を持つアデルセンだったが、元々目がチカチカするような金髪や銀髪は好きではないし、人形みたいな青や碧の瞳も造り物みたいで気持ちが悪いと常々思っている。
それに見た目のいい人間は、自分の美しさを信じ切っているからか、身分や権力がなくても自分が手放しで愛されると勘違いしている節があり、大国の王子であるアデルセンにしてみれば鼻持ちならない傲慢さだと感じていた。
キャロラインが見ている窓の外には夜空しかない。
暗い空の星屑なんかを見て何が嬉しいのか解らないが、楽しそうに外を見つめるキャロラインの笑顔からは高飛車な様子は見られない。
栗色の髪と墨色の瞳は地味だが落ち着く色合いだし、よく見れば目鼻立ちも整っていて可愛らしく、何より笑った時の顔が儚さを帯びていてアデルセンは釘付けになった。
(庇護欲がそそるのに、めちゃくちゃに虐めてみたい)
アデルセンの中で相反する感情がこみ上げ、キャロラインから目が離せない。
しかし、末端とはいえ王族席に佇むキャロラインの笑顔に気づいたのはアデルセンだけではなかったらしく、近くにいた他国の貴族らしき者が隣の者に囁いているのが聞こえた。
「色合いは地味だが悪くはないな。従順そうなのもいい」
「姉兄と違って役立たずと聞いたが、婚約を打診してみるか?」
「女は小賢しくない方が御しやすいし、うちは伯爵家だが小国の地味王女ならば娶っても問題ないだろう」
貴族の会話にアデルセンは居ても立っても居られなくなる。
他国の権力者がアカシア王族を娶る理由は見目の良さだが、地味王女と目されるキャロラインにその価値はなく、役立たずという噂もマイナス要素でしかない。
そんなキャロラインに大国の王子であるアデルセンが求婚したとあっては外聞が悪い。
だがアデルセンは何としてもキャロラインを手に入れたかった。
そこで自分の評判を落とさず彼女を手中にする苦肉の策として、妾としてもらうことを考えついたのである。
「アカシア王国の王女だというのに随分地味な女だな。これでは政略結婚の相手としても使えんだろう。仕方がないから私が妾としてもらってやる。醜いケモノよりはマシだからな」
一歩間違えば国際問題になった発言だったが、大国の王子として少々傲慢に生きてきたアデルセンは気が付かない。
この場にもし獣人国の者が参加していればアデルセンは何かしらの罪に問われていた所だが、昼間の式典には参加していたトスカーナ王国の王族は夜会を欠席していたため、幼い王子を責める者は誰もいなかった。
さらに子供とはいえ暴言ともいえるアデルセンの発言をアカシア国王が承認したことで、周囲の者達はキャロラインを狙うのを諦めたようだ。
王妃が彼女を殴ったことは気に入らなかったが、キャロラインをこれ以上衆目に晒したくなかったので目を瞑る。
成人まで待てばキャロラインが手に入る。
退出してゆくキャロラインを満足気に眺めながら、我ながら良い案だと内心で高笑いをしたアデルセンは、まさか自分が放った言葉が彼女を深く傷つけたなど微塵も考えていなかった。




