表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/78

47 主と番の王女4~ギース視点~

 拗れに拗れた二人の距離は全くもって縮まらなかった。


 キャロラインの方は食事さえあまり摂らなくなり、リーンハルトはそれを見てまた落ち込む。

 ギースはじめ外野は、早く真相を話して仲直りをすればいいとやきもきして見守っているのだが、一度拗れてしまったものを修復するのは難しいようで、キャロラインの前では平静を装っているようだが、日に日にリーンハルトの落ち込み具合は酷くなっていった。


 そんな時に滝見の会が催されたのである。

 会の最中に女官長に関する全ての処断が完了したと公爵から報告と謝罪を受け、リーンハルトは漸くキャロラインへ真相を話す決意をしたようだった。

 優秀なキャロラインに無能だと思われ嫌われるのは怖いが、それよりも憔悴してゆく番を見るのが、これ以上耐えられなかったのだろう。

 公爵と話すため一人残してきたキャロラインの元へ戻るリーンハルトに、ギースは心の中で「やっとか……」と呆れつつもエールを送った。


 それなのに、お花畑な令嬢という者はどこにでもいるもので……。

 あろうことか王太子の婚約者へ暴言を吐く輩がいたことに、ギースは怒りを通り越して呆れてしまった。

 しかも手まであげようとするなど、怖ろしくて主の方をまともに見られない。


(女官長の甘すぎる処分のせいで、腹の虫がおさまっていないリーンハルト様の怒りの火に油を注いでくれるな!)


 内心で罵りながらギースが逃げて行った令嬢達の処遇を考えていると、後ろで悲鳴があがった。

 そこからは一瞬がスローモーションのような出来事であった。


 濁流に落ちてゆくキャロラインに伸ばしたリーンハルトの手は、寸での所で届かず空を切る。

 半狂乱で彼女の後を追って飛び込もうとしたリーンハルトをギースや数名の護衛が何とか押しとどめたが、自我を忘れて白狼に変身した主を押さえるのは屈強な騎士でも難しく、最後は麻酔を打って大人しくさせるしかなかった。


 そのまま王宮に運ばれ、数日後に意識を取り戻したリーンハルトがすぐさま訊ねたのは、キャロラインの安否だった。


「キャロ! キャロラインは無事ですか!? すぐにキャロの元へ……」

「下流をくまなく探しましたが、まだ見つかっておりません」


 立ち上がろうとしたリーンハルトをギースが制する。

 ギースの表情を見て、リーンハルトが狼狽したように顔を引き攣らせた。


「……嘘です……キャロ……キャロ……キャロ……」


 色を失くした虚ろな瞳で愛する番の名前を連呼するリーンハルトの様子に、さすがのギースも何と言葉をかけていいかわからない。

 この日を境にリーンハルトは、日がな一日執務室かキャロラインの部屋で抜け殻のように過ごすようになってしまった。

 

 屍のようになってしまってもリーンハルトは執務だけは熟していたが、以前のような精彩さはない。

 生きているのも辛いというような表情のリーンハルトに、国王夫妻も心配して毎日様子を見に来るようになった頃、キャロラインの行方を探していた影から気になる情報が上がってきたのである。

 

 リーンハルトは今日もまた、キャロラインの部屋で彼女の気配を探すようにじっと佇んでいた。

 ギースがやってきたことにも気づかず、上の空で虚空を見つめる主の顔は死人のように表情がない。

 本当はもう少し確たる証拠を得てから知らせようと思っていたが、壊れてゆく主を見ていられずにギースは重い口を開いた。


「実は影達が気になる情報を掴んできまして……」


 ギースの言葉にリーンハルトが、勢いよくぐるんっと首だけを動かしてこちらを覗き込む。

 琥珀の瞳が続きを促したのを見て、ギースは慎重に話し始めた。


「ローゼリア王国のアデルセン王子が近々婚儀を挙げるそうです。アデルセン王子といえば、リーンハルト様がキャロライン様と出会った日に獣人と王女を侮辱なさったアホ王子ですよね? 随分と昔の話ですので関係ないとは思ったのですが、騎士団が総力をあげて探しているにも関わらずキャロライン様が一向に見つからないことと、観瀑台の柵が故意に傷つけられていた箇所があったことが気になりまして。それに、あの滝が流れ込む川の下流はローゼリア王国ですから……」


 確信がないからか珍しく迷うような口調のギースだったが、リーンハルトの脳裏にはキャロラインを妾にすると言い放っていた憎い王子の顔が過ったようだ。


「……まさか!」


 突然叫んだリーンハルトにギースは、苦々しく眉を寄せる。

 キャロラインが侮辱された日の出来事は、リーンハルトも思い出したくないのか一度だけしか聞いていない。

 けれど、アデルセンはキャロラインのことを見下してはいたが、その瞳は獲物を狙う色を灯しており、アカシア国王が妾にしてもいいと宣言した時は歓喜の笑みを浮かべていたと、リーンハルトが言っていたのを思い出したのだ。


「…………キャロラインは絶対に渡しません」


 ギースの視線の先で、虚ろだった琥珀の瞳が強い悔恨と絶対に諦めない決意にギラギラと滾りだす。

 先祖返りであるリーンハルトは、周囲を怯えさせないためか基本穏やかな王太子だ。

 だがキャロラインが絡んだ場合は変態思考に加え冷徹冷酷になり、とんでもない行動力を見せることを、ギースは知っている。


 キャロラインが生きているかもしれない希望が見え、リーンハルトが立ち直ったことは喜ばしいが、これから自分の主がどんな無謀で無茶な行動に出るのかを想像して、ギースは顔を引き攣らせたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 妾にしてやってもいいとか言っといて ホントは好きになったのにそんな言い方しちゃった拗らせ王子だったのかな?だから猿もどきは!(笑)
[一言] 信頼を失っている時に隠し事は悪手だよ。 しかも無能だと思われたくない、なんて自己保身が理由とか…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ