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46 主と番の王女3~ギース視点~

 翌日、キャロラインの元を訪れたギースは、昨晩リーンハルトが言っていた警戒という言葉の意味を理解した。

 これまで羨望の眼差しを向けていた彼女の墨色の瞳が、明らかに変化していたからだ。

 昨日まで朗らかに微笑んで、たどたどしくはあるが素直に優しい言葉を紡いでいたキャロラインが、まるで獣人など視界に入れたくないというように視線を逸らし、口を引き結んだ様子に、ギースもこれは絶対に何かがあったと確信した。


 結局、心も口も閉ざしたキャロラインからは何も聞き出せなかったが、とにかく早くこうなった原因を究明して、リーンハルトと以前のような関係に戻ってもらおうと躍起になって調査した結果、キャロラインは階段から突き落とされたかもしれないことが判明する。


 あの日、たまたま彼女から離れていた護衛はキャロラインが落ちた瞬間を見ておらず、階下にいた侍女も不審人物を見なかったと証言していたため、過って落下したと思われていたのだが、ギースの鬼気迫る尋問に、虫が出たと騒いだ侍女がキャロラインと護衛を引き離すための演技だったと白状したのだ。

 そして、侍女にそれを指示したのは女官長であった。


 王家と同じ白狼の血を継ぎ騎士を多く輩出する公爵家の出身である女官長は、女性ながらも武勇に秀でており、護衛としても適任だからとキャロライン付に抜擢された。

 本人も快諾していたのだが、裏では侍女達に王太子であるリーンハルトが人族と婚約するのは反対だと零していたそうだ。

 それというのも数年前、彼女は人族の番に大きな耳や尻尾があるような野蛮なケモノとは付き合えないと、手酷く振られたらしい。


 女官長の醜聞は人族に振られたことを恥とした公爵家によって隠蔽されており、トスカーナ王宮の採用調査の時でさえ明るみに出ることはなかったため、ギース達は女官長の過去を知らなかった。

 番に拒否された女官長は絶望し人族を強く憎むようになり、それ以来誰とも結婚することなく仕事だけを生き甲斐にしてきたようだが、リーンハルトが人族である番を婚約者として連れてきたため、過去の苦い恨みが爆発したらしい。


 人族であるキャロラインへの配慮から、護衛も兼ねた分別のある高位貴族出身者を側付きに選んだことが逆にアダとなってしまい、女官長の過去を調べ上げたギースは溜息を零した。

 女官長はキャロラインを階段から落としただけではなく、様々な嫌がらせを行っていたことが明らかになったからだ。

 嫌がらせは二人きりの時にしていたようだが、たまたま見ていた侍女が多数おり、今までは公爵家出身の女官長が怖くて言い出せなかったが彼女が処罰されると聞き、連座で罰せられては堪らないと次々と暴露しだしたのである。


 番に拒否された女官長が人族を憎む気持ちは解るが、キャロラインへの仕打ちは完全なる逆恨みだ。

 それにキャロラインを傷つけた、それはリーンハルトの中では万死に値する行為なのである。


 案の定、調査報告を聞いたリーンハルトは女官長の死刑を望んだが、公爵家から必死の嘆願があったことに加え女官長が決して罪を認めなかったことから、仕方なく国外追放となった。

 王太子の婚約者を守れなかった護衛は不甲斐ない自分を責め自ら閑職への異動を希望し、女官長に命じられた侍女は責任を感じた公爵家が引き取り王宮から姿を消した。

 女官長の嫌がらせを見て見ぬふりをしていた侍女達は王宮外の職場へ異動させ、調査の途中でたまたま聞き及んだ、キャロラインがリーンハルトの番ではないなどと勘違いも甚だしい噂話をしていた侍女達へは即刻首を言い渡している。


 一連の処断は、婚約者になったばかりのキャロラインへ詰まらない瑕疵がつかないように、全て極秘に行われた。

 しかし、公爵家の厳密な箝口令があったにせよ人選を誤ったことに落ち込んだリーンハルトは、中々キャロラインへ真相を打ち明けることができずにいた。

 キャロラインから距離を置かれたこともリーンハルトを臆病にし、ガリガリと精神を削られているようで、裏庭で彼女が転ぶのを阻止した護衛にさえ嫉妬する始末であった。


 キャロライン付きの護衛は騎士団の中でも精鋭を揃えており、リーンハルトが番のキャロラインを溺愛しているのは周知の事実だったため、必要以上に彼女へは近づかないようにしている。彼女が他の男と会話する所など見たくもないリーンハルトから悋気を被らないためだ。

 幸いといっていいのかキャロラインも誰かと会話をすることが苦手なようであったので、今までは悋気を起こすような事態にはならなかった。


 だが、やっと手に入れた番に避けられてしまっているリーンハルトの擦り減った心は、本能のまま欲望ばかりが大きく膨れあがっているようで、宥めるために昔聞いたことがある失礼極まりない隣国のアホ王子を引き合いに出す程だった。

 大層毛嫌いしているその王子と同レベルだと言えば、リーンハルトは『猿もどき』という人族を侮蔑する言葉を吐き出しながらも自重したようだ。


 それでも二人のすれ違いは続いた。


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