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42 手から零れ落ちたもの3~リーンハルト視点~

 輝く金髪や銀髪に宝石のような碧や青い瞳を持ち美男美女で知られるアカシア王族だが、ごく稀にリーンハルトのように先祖返りともいえるような地味な子が生まれることがあるらしい。

 地味とはいわれるが、それは他のアカシア王族に比べて色合いがという意味で、普通に見れば相当整った部類に入るその子は式典が始まってからも王族席の隅に屹立していたので、地味な服装も相まって、てっきり王女付きの侍女かと思っていた。


 いきなり注目を浴び、リーンハルトがどうなることかと見守る中、王女が少しだけ縋るような視線を両親へ向ける。

 人族よりも目のいい獣人だからこそ気づけた程度の機微だったが、娘からの視線を受けた彼女の父であるアカシア国王は、表情を引き攣らせながらも口を開いた。


「ローゼリア王国アデルセン王子におかれましては、地味な娘を王女だと皆さまへお知らせするための余興をしていただき、ありがとうございます。王子のような素晴らしい方の妾になれるならば光栄でございます。尤も、お恥ずかしながらアレは王族と名乗ることも烏滸がましい地味な容姿をしておりますので、獣人のような雄々しく華やかな方々と比べては失礼に値するでしょう」


 多少自分の娘を貶めすぎな気もしたが、アカシア国王の回答は悪くはないだろう。

 ローゼリア王国へも獣人国へも配慮をした無難な場の治め方だ。たとえそれが自分の娘を貶めることで為せる外交でも、王族として生まれたならば自国の立場を鑑み時には煮え湯を飲まなければならない。

 このままお茶を濁せば妾云々の話も戯言で済みそうだと、騒ぎを眺めていたリーンハルトだったが、そんな彼の予想をアカシア国王は裏切った。


「王女ながら地味で貰い手がないだろうと危惧しておりましたのでアデルセン王子の有難い申し出に感謝を申し上げます。しかしアレは見た目も地味な上に中身も出来損ない。国へ貢献している他の兄姉達とは違い、ずっと離宮にひきこもっている役立たずでございます。よってこれから然るべき教育を施した後に王子のお気持ちが変わりなければ、すぐにでも妾として差し上げましょう」


 笑い含みで自分の娘をアレ呼ばわりし、さらに貶めるような発言をする国王に、リーンハルトは唖然とした。

 国王の言葉に居並ぶ姉兄たちも冷ややかな視線と冷笑を向けるだけで、誰も貶められた王女を庇う者はいない。

 そんな中、王妃が王女へ近づいてゆく。

 てっきり娘を庇うために動いたと考えたリーンハルトの思惑は見事に裏切られた。


 バチンッ!


 王女に何か囁いたと思った瞬間に聞こえてきた音と光景に耳と目を疑う。

 王妃が自分の扇で娘を叩いたのだ。

 夜会を騒がせた叱責なのかもしれないが、衆人環視の中貶められ父王にさえ庇ってもらえない憐れな王女にするあまりに無体な仕打ちに、リーンハルトは怒りを覚える。

 小声だったため王妃が何を言ったのかまでは聞こえなかったが、王女を叩いた王妃が何事もなかったように他の子供達へ笑う顔は美しいのに醜いと思った。


 祖母や他人から距離をとられて卑屈になっていたリーンハルトだったが、今まで両親が彼を蔑む発言をしたことなどはない。

 現に今だって、隣に立つ母親は酷く機嫌が悪い声で「自分の娘が妾になるのを容認するって……それに扇で殴りつけるなんて、胸糞悪いったらないわね」と呟き、父親はアカシア国王を凍てつくような眼差しで睨んでいる。

 アデルセン王子が獣人をケモノ呼ばわりした時も若干こめかみに血管が浮かんでいたが、同じ子を持つ親としてアカシア国王夫妻の王女への対処の方がお冠らしかった。

 しかし、今現在自分達は人族に変装して隠れて夜会に出席しているため抗議することはできない。


 リーンハルト達が断腸の想いで見守る中、王女は僅かに視線を落とすも叩かれた額を気にするふうでもなく、嘲笑と失笑が満ちるホールを毅然と顔をあげたまま優雅にカーテシーをして退出して行く。

 その姿は決して地味だと貶められる謂われはない堂々とした振舞だった。

 だが彼女の手が微かに震えているのをリーンハルトは見逃さなかった。


 気付いた時には追いかけていた。

 彼女を一人にさせてはいけないと思った。


 小さな背が回廊の闇に消えてゆく。

 歩いていた彼女の足が、やがて小走りになり、次第に本格的に走り出す。

 その背を追う者が誰もいないことにリーンハルトは胸が締め付けられる。

 夢中で追いかける間に変身してしまい着ていた服も脱げてしまっていたが、それさえもどうでも良いと思えた。

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