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32 疑惑は確信に1

 殺されるかもしれないと警戒していたキャロラインを他所に、リーンハルトからその兆候は全く見られないまま時は過ぎていった。

 それどころかキャロラインが怪我をしてからというもの溺愛に過保護がつけ足されたようで、執務の合間のほんの僅かな時間でも部屋を訪れては何彼と世話をやくようになった。

 そんなリーンハルトの態度にキャロラインも彼を疑う気持ちを少し軟化させたが、番ではないかもしれないと思うと手放しで警戒を解く気にはなれなかった。


 毒殺の恐れもあると考え食事は最小限に留めることにし、食欲がないので朝晩の2回だけで量も極僅かに減らしてほしいと筆談でお願いすれば、リーンハルトは苦虫を噛み潰したような表情になったが、渋々承諾してくれた。

 アカシア王国では食事が用意されないことが普通だったので燃費はいい方だと思う。

 トスカーナ王国に来てからは三食きっちり豪華な食事が用意され、大半は女官長に強奪されたとはいえおやつまで出ていたが、元々食が細いため二食でも全く問題はなかった。


 そうしてベッドの上での生活も数日が経った頃、打撲の痛みがだいぶ引いたキャロラインは、夕食後に運動不足解消と脱出経路確保をかねて久しぶりに起き上がってみることにした。

 怪我をする前は見張り台から黒曜石の城を眺めるのが常であったが、まだ階段を昇るのは抵抗があるため庭園へ赴くと、月明りに照らされた花々に少しだけ気分が晴れる。

 花壇さえも同じ色と種類の花で整然と美しく整えられたアカシア王国とは違って、色とりどりの花が雑多に咲き誇るトスカーナ王国の方がキャロラインには好ましく、庭園の中を一頻り回ろうと考えた。


 だが、漸くベッドから出られた開放感もあって少し浮かれていたのだろう、段差になっていたことに気づかず転びそうになってしまう。

 衝撃に備え目を瞑ったキャロラインだったが、固い声とともに身体が支えられたことがわかった。


「……お気をつけください!」


 固い声音が耳に響くと共に、背後に付いてきていた護衛が助けてくれたのだと悟って慌てて身を起こす。

 お礼と謝罪のため頭を下げるも酷く迷惑そうな顔をされ、居た堪れない気持ちになった。


 キャロラインがリーンハルトの番ではないことは公にはされていない。

 だからこそ護衛も王太子の婚約者として接していてはくれているが、仕事とはいえ人族など触りたくもないのだろう。

 ただでさえ前の護衛が更迭されていて、ピリピリムードが漂っている。

 せっかく王族の護衛にまでなれたのに更迭などされたら、騎士としての未来は真っ暗なのだから当然だ。

 階段から落ちた翌日から女官長の姿も見えなくなったし、刷新された侍女達も護衛も、まるでキャロラインを腫物に触るように接してくる。

 更迭したのはリーンハルトだが、キャロラインは益々孤立を深めていた。


(もし、あの護衛が私を階段から落とそうとした者とグルだったのなら、首尾よく私が死ななかったから更迭されたということかもしれないわ)


 薄暗い庭園を鬱々とした気持ちのまま歩いていると、そんな考えまで浮かんできて、自分の穿った思考にキャロラインは大きく溜息を吐く。

 転びそうになってしまったことだし、これ以上迷惑をかけるのも嫌だったので、大人しく自室へ戻る素振りを見せると、護衛があからさまにホッとしたような顔になったので、気づかれないようにまた一つ溜息を零した。


 その後はベッドの上で読書をしたりして、なるべく護衛の手を煩わせないように過ごしたキャロラインの元へ、いつものように就寝前の挨拶にリーンハルトが訪れる。

 にこやかに入室してきたリーンハルトだったが、キャロラインへ近づく毎に眉間に皺が刻まれてゆき、ベッドの傍らに腰かけるなり、彼にしては些か強引に掛布の上に置いていた手を掴んだ。


「違う匂いがします」


 不快だと言わんばかりに吐きだされた言葉を、キャロラインは理解できずに首を傾げる。


「キャロから別の男のにおいがします!」


 キャロラインの思考が追い付かないまま、リーンハルトの琥珀の瞳が剣呑な色に染まってゆく。


「どういうことです? どうしてキャロから男の匂いがするんですか? 返答次第では、容赦できません」


 キャロラインを射抜くようにリーンハルトの瞳が鋭さを増す。


 その視線の鋭さに、やはり自分を殺そうとしているのは……とキャロラインは怯えたが、今はとにかく身に覚えのない不貞の疑いを晴らすため必死に思考を巡らせる。

 しかし幾ら考えても心当たりはなく、キャロラインは途方にくれてしまう。


(もしかしたら不貞を働いたと冤罪をかけて処罰しようとしているの? このまま地下牢に囚われたら逃げられないわ……)


 青褪めたキャロラインが、声が出ない設定も忘れて弁解をしようとした時、入口で控えていた護衛がおずおずと口を挟んだ。


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