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25 リーンハルトの奇行2

 眼下では包みから取り出した柔らかそうな棒状の物体に、嬉しそうに頬擦りする婚約者の姿がある。

 視力に自信のあるキャロラインの目は、リーンハルトが頬擦りしている物が獣人の尻尾を模ったものだとすぐに解った。


 最近トスカーナ王国では獣人の尻尾を模った掌サイズのキーホルダーを売り出したところ、モフモフ好きな女性のお土産として爆発的な人気商品となったらしい。

 毎日、花束やらお菓子やらを贈ってくれるリーンハルトが、流行っているからとそのキーホルダーを持ってきてくれた時は、あまりの触り心地の良さに夢中で撫でまくってしまい、持参したリーンハルトにさえ呆れたように苦笑されてしまった。実は今も就寝する時にこっそり握って寝ている位、キャロラインのお気に入りである。

 

 キャロラインがもらった尻尾は掌サイズだが、今リーンハルトが抱いているのは明らかにそれよりも大きな物で、敢えて言うなら成人の獣人と同じサイズ感のようだ。


「そんなにモフりたかったんだ」


 思わず低い声が出てしまってキャロラインは項垂れた。

 モフりたい気持ちは大いに解るが、番とはいえ尻尾も三角の耳もないキャロラインではやはり不満があったのかと思うと胸が痛む。

 あの作り物の尻尾はモフモフできないキャロラインの代わりなのだろう。

 わざわざ特注サイズで作らせたことに、リーンハルトの欲求不満の大きさが見えて申し訳ない気持ちになると同時に、女官長の勝ち誇った顔がチラついてぎゅっと拳を握った。


 最近の女官長はキャロラインの反応がないのをいいことに、わざとゴミを投げつけたり、水風呂に浸からせるなど、嫌がらせの行為がエスカレートしていた。

 相変わらずリーンハルトや護衛がいる時は従順そうに振舞っているが、キャロラインと二人になると口汚く罵ることが日課となっており、人族がいかに無能かを滔々と説いては鼻を鳴らして去ってゆく。


 深層の令嬢だったら、とっくに泣き出すような悪質な嫌がらせだったが、悲しいことにキャロラインには、祖国での耐性があった。

 それにアカシア王国にいた頃と比べたら食事も用意されるし、水とはいえ風呂まで準備してくれ、掃除をしてくれる侍女がいる。

 だから不服など思うはずもなく、リーンハルトへ訴えたりはしていない。

 勿論、女官長の嫌がらせには気づいていたし多少傷ついてもいたが、そんなことで優しいリーンハルトを煩わすことも嫌だったし、キャロラインは彼から愛を与えてもらえるだけで十分に幸せだと思っていたのだ。


 だが、目の前で尻尾に顔を埋めるリーンハルトに裏切られた気持ちになる。

 尻尾のない人族であるキャロラインではどうしようもないことは解っているのに、彼の愛情を自分だけに向けて欲しいと願ってしまっている自分がいて、打ち消すように頭を振った。


「大丈夫、だって私はハルト様の番なんだから」


 今までは番だから自分を好きになってくれ、そこに愛情はないのだと不安になっていた。けれど今は番であることに縋りたい気分になってしまう。

 我ながら矛盾しているが、キャロラインは自分に言い聞かるように両手を握りしめる。

 だがこれ以上自分以外に(それが人間ではないとしても)蕩けた表情を見せるリーンハルトを見ていたくなくて、フラフラと後退すると見張り台を後にした。


 トボトボと階段を下り、自室までの長い回廊を歩く。

 途中目につくのは、先程まで癒しだと思っていた獣人たちのフサフサの尻尾や耳だ。

 羨望の眼差しを向けていたそれに嫉妬という感情が纏わりついて、いつの間にか自分がリーンハルトへ醜い独占欲を抱いていたことに胸が重くなる。

 アカシア王国では愛されることを諦めていた自分が、随分と欲張りになってしまったものだと少し自嘲して、キャロラインが自室の扉へ手をかけると中から侍女達の話し声が聞こえた。


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