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23 トスカーナ王国にて2

 見張り台は緊急時用に設置されたものなので、まさかキャロラインがこんな所へ出入りしているなど、彼女の護衛以外知らないだろう。

 視力には自信のあるキャロラインは、毎日少しの暇を見つけてはこの見張り台へやってきて、獣人達のモフモフを心ゆくまで眺めていた。


 キャロラインがアカシア王国の孤児院で時折触っていた猫や犬は短毛種が多い。

 それはそれで可愛かったが、少し長めのツヤツヤ、フカフカの毛もかなり魅力的である。

 そして今、キャロラインの眼下には、手触りの良さそうなモフモフで溢れ返っているのだ。


 短毛種の獣人もいるが皆手入れされていて、野生の猫や犬とは毛並みがまるで違う。

 それに獣人の行動は見ていて微笑ましいものが多かった。

 心の平静と少しでも獣人のことを知りたいと思い始めた観察行為だったが、いつしかキャロラインはこの場所へ来るのが楽しみになっていた。


 昨日は、犬の獣人の庭師が凄い速さと正確さで庭園の木々を剪定しているのを見て感動した。一昨日は、いつも厳つい顔をした熊の獣人の騎士団長が、四阿で大きなケーキをホールごと幸せそうな表情で食べている所を発見して、ギャップに驚かされた。


 アカシア王国では庭木の剪定は夜、王族が寝静まってからひっそりと行われていたし、調理場からホールでケーキを持ち出し、それを四阿で食べるなど絶対に許されない。

 城はいつでも美しく保たれ塵一つなく、侍女は気品と優雅さを尊び、騎士は強さよりも身形と礼節が何よりも重視され、美しくないものはとことん排除し、もしくは王族の目に触れぬように秘密裡に処理されていた。


 トスカーナの王城では、王族以外歩くことが許されない回廊などもなく、登城した者達は自由に城内を闊歩している。

 侍女や兵士は休憩時間ともなれば庭園でお弁当を広げているし、暑い日は噴水で水浴びをしている者さえいる始末だ。

 隅々まで磨かれた大理石に塵一つ、髪の毛一本落ちていただけで厳罰に処されるアカシア王国とはまるで違う。

 

 流石に平民が王城へ来ることは稀だそうだが、それは用事がないから来ないだけで、陳情などがあれば普通に出入りできるらしい。

 そんなことで城の警備は大丈夫なのかと不安になったが、流石に王族が住む王宮の奥へは検問があるので平気だとギースに笑いながら言われてしまった。


 地味で美しくないという理由で奥まった離宮に押し込められ、息を殺してひっそりと生きてきたキャロラインにとって、トスカーナ王国は自由すぎるほど自由だった。

 あまりに自由な国なので人族からの使者は不遜だと言う者が多いそうだが、キャロラインはこの息苦しくない王城が心地良かった。

 だからほぼ毎日のようにこの見張り台を訪れては、獣人たちの様子を眺めてモフモフな様子に癒されていた。


 今日もまた城内を見渡せば、夢にまで見たモフモフの尻尾を揺らしながら闊歩してゆく人影や、フサフサの三角の耳をピコピコと動かして他愛ないおしゃべりをしている者達の姿が見える。


「みんな可愛い。できれば片っ端から触ってみたい」


 ポツリと呟いた独り言に慌てて口を噤む。

 獣人は番を見つけると生涯その一人だけを愛し、とても大切にする半面かなり嫉妬深いらしいと文献で読んだことがあったからだ。

 ギースから番への甘さを聞いてはいたものの、考えてみればリーンハルトはキャロラインに会うなり婚約を申し出たし、この国にやってくる道中も散々愛を囁いてくれていた。


 さすがに帰国した今では執務があるので一緒にいる時間は少なくなったが、必ず就寝前に部屋を訪れてくれ他愛ない話をしてくれる。

 キャロラインが見た限り、リーンハルトは時折理解し難い言動はするが嫉妬深い方ではないようだ。

 だが、それでも他の獣人を触りたいなどと言えば気分を悪くするだろう。


「私だって嫌……」


 リーンハルトが違う人を撫でるのを想像しただけでムワッと胸が不快感で一杯になり、思わず漏らしてしまった声は、自分でも驚くほど冷たかった。


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