第1話
それは、地獄のような光景だった。
突然の炎に包まれ崩れ行く日常に、人々の怒声、金属どおしのぶつかり合う音が響いた。
しまいに悲鳴に似た叫び声に変わり行き、辺りには肉の焼ける臭いが立ち込め始めた。
ただ一人絶望への行く末を見守る中少年は、双剣を見た。
◇
「……ただいま」
二週間ぶりに人気の無い我が家に帰って来た俺、ルゼルは一人つぶやく。
もちろん、返事は帰ってこない。
この家の本来の持ち主である偉大なる大賢者、ジロ-ル=カルディッジはもういないのだから。
―――
――
―
あの日、あの地獄の様な惨劇の中、唯一の生き残りとして双剣使いに拾われた俺は、すぐに知り合いであったという大賢者ジロールの下に預けられた。
幼い身に過酷な体験をした俺は、心が壊れる手前だった。
そこで数多の魔法を使いこなす大賢者に精神の安定を依頼し、引き受けたジロールは記憶を封印することで実現させ、そのま術後観察も含め様子を見るために引き取ったらしい。
そしてそこで俺は、ルゼル・ディージと名乗ることになった。
『ルゼル』と言うのは心を病んでいた俺から、唯一双剣使いが聞き出せた自分の名前らしい。
『ディージ』というのは昔にあった商家の家名で、あえてカルディッジを名乗らせないことで大賢者の関係者であるという面倒ないざこざを避けるために選んだと言われた。
ジロ-ル=カルディッジは育ての親であると同時に、師でもあった。
俺に掛けられた記憶の封印による精神の安定は、同じような強い衝撃で崩れてしまう可能性があるらしい。漠然とはいえ、未だにあの日の一幕を思い出せるのがその証拠でもあった。
そのため、どんな状況にも打ち勝てる強い精神と力を得るために、ジロールから魔法を学ぶことになった。
今になって思えば、自分の後継者を育てたいという考えもあったのかもしれない。
それほどまでにジロールの教えは厳しく、また多岐に渡った。
幸運にも俺にはそれを受け止め自分のものとする才能があった。いつの間にかジロールと共に新たな魔法の開発を行うようになる程度には。
ジロールはそんな俺を『魔法に愛された子』だと喜んだ。
それでも俺の求めたのは魔法ではなく、剣だった。
しかし全くと言うほど剣の才能には恵まれなかった。体質か後遺症か、筋肉が付かなければ動体視力も伸びず身体の動きも悪い。
あの日見た双剣の輝きには、永遠のような距離があった。
お読み頂きありがとうございます。
頑張ります。