例えばこんな未来の話(祖母と孫)
『いやぁ、おねーさん、美人さんですねぇ! 美魔女さんやないですか』
『いえいえ……私のパートナーの方が、もぉっと美女ですよ。ほら、これ』
『あ、お写真ですか? え! パートナーさんめっちゃ若ないですか!』
『ね、めっちゃ可愛いでしょ』
ピッ
『パートナーさん、確かけっこうお歳が離れてましたよね?』
『はい。向こうが十五上ですね。口説き落とすの、苦労しましたよ』
『そりゃ、十五離れてるとねぇ。しかも会ったの、子どもの頃でしょ?』
『そうなんですよ。だからいつまでも子ども扱いでね』
『わかるわー。あんなにちっちゃかった少年が、まさかおっさんの自分をってなりますもん』
ピッ
『結婚とか、恋愛とかは、する気が無いです。友だちや家族と、ずっとのんびり仲良く出来たらいいですね』
『あと、猫ちゃんたちですか』
『そうですね。もうほんと、可愛い可愛い娘息子たちですからね』
「……はー。ええ時代になったわー」
「ちぃばあちゃん、また言うてはる」
テレビをザッピングしている祖母を見て、孫の紀久子が呆れたように言った。
「おばあちゃんたちの時代はな、えらい大変やってんで」
「もう何べんも聞いたわ、その話」
耳にタコ、と紀久子はため息を吐く。
紀久子は、今年で十二になる。生意気盛りの、可愛い孫だ。
「お母さんを引き取るときもひと悶着あったんでしょ? でもそれを早苗ばあちゃんと乗り越えて今がある……と」
「……先に言いなや」
「だって、この話、五十回は聞いたもの」
孫は、つんと澄まして祖母の隣にどすんと座った。
「あーあ。私も誰かとこの先、恋するのかしらん」
「さぁねぇ。してもせんでもどっちゃでもええけど、紀久子のことをちゃーんと好いてくれる人のそばにおりや」
友だちでも何でも。
祖母は、真剣な眼差しで孫を見た。
「その話も何べんも聞いたし、早苗ばあちゃんからも、お母さんからもお父さんからも聞いたわ」
もう飽きた、とほっぺを膨らませながらも、紀久子は「わかってます」と言った。
「そもそも、自分を好きになってくれへん人なんか、こっちから願い下げやわ」
堂々と言う紀久子に、祖母は微笑んだ。
飽きた、と素直に言えるほど、自分を好きになってくれる人といるときっぱり言えるほど、しっかり愛情を受け取っている孫の姿に、
「ちゃんとわかっとんのやったら、ほいでええ」
頼もしさと嬉しさを感じながら。
「やっぱり、ええ時代になったわぁ」
しみじみと、今の幸福を思い、味わっていた。
「また言うてる」
END.