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上田物語  作者: 松本 猛
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時をかけるインターネット

「ごめん

さよなら


そんな内容のLINEのメッセージが送られてきた刹那、後ろを振り返ると、暗がりから彼女の雲丹ちゃんが現れた。雲丹ちゃんの華奢で白く澄んだ手には、恐らく肉を切る用の鋭利で大きな包丁が握られていた。

「…ま……」

命乞いをする暇もなかった。突進してきた雲丹ちゃんの包丁が心臓に直撃した。「いや、これ結構痛いんだな。」と彼は思った。視界が徐々に薄れ始め、様々な追憶が頭上を掠め去っていった。これが走馬灯なのかな……。あとでツイートしとこ。彼はゆっくりと意識を喪った。


上田は目を開けると、自宅にいた。時刻は午後11:59。

「…は?」

当惑していると、光る端末の画面からとっけーさんの声が聞こえる。

「アレ?よすいさん死んだん?w」

さっきまでのは何だったのだろうか。たしか、昨日の夜もとっけー、雪見、あと俺の彼女の雲丹ちゃんと会議していた。暫く画面を眺めていると、とっけーさんがたこサンの話を始めた。

「たこサンと昨日通話したんですけど、彼女がガールズバーに入るだの入らないだので喧嘩してたらしいんですよ笑 それでキレたたこサンが最後通牒を送ったら彼女が…」

また同じ話だ。昨日の夜もこの話をとっけーさんがしていた。

「とっけーさん、昨日と同じ話するのは”ナンセンス”ですよ」上田は条件反射で話に水を差した。

「何言ってるの?よすいくん?とっけーさんはこの話をまだ一度もしてないよ。」雲丹ちゃんが言う。

「たしかにとっけーさんは俗に言うADHDだし、よく同じ話を何回もするけど今回に限っては初めての話だと思うよ。」雪見も反駁した。

おかしい。たしかに、昨日の夜もこの話をしたはずだ。しかし、三人とも記憶にないようなのだ。状況を理解出来ないので暫くの間は静観に徹することにした。

しかし、雪見のオンラインゲームに対するキレ方、とっけーさんの話題、雲丹ちゃんのレスポンス。すべてが全て、昨日の夜と全く同じ内容だったのだ。いつか見た記憶なのだ。何かがおかしい。何かが引っかかる。しかしまあこれは夢か何かなのかもしれない。とりあえず今日のところは寝るとしよう。会議を抜けて上田は床についた。

目が醒めると、既に夕方だった。今日はパチンコにも行かずダラダラ過ごすか。そう思いながら、コンビニに行ってタバコを購入し、Twitterでなんでもないことを呟きながら散歩していると、夢で出てきたところと同じ場所に行き着いてしまった。人気のない、静かな路地だ。

「ここって確か…」

すると、雲丹ちゃんからLINEが送られてきた。内容は……


「ごめん

さよなら


「………ま…まさかな」

振り返ると、暗がりには雲丹ちゃんの姿があった。その手には確かに夢で見たものと同じ包丁があった。「ヤバイ」と思ったのもつかぬ間、突進してきた雲丹ちゃんが上田の溝落ちに包丁を突き刺した。上田が押されて後方に倒れると、雲丹ちゃんが馬乗りになって包丁をザクザクと上田のふくよかな腹に突き刺した。上田はその怨嗟と狂愛に満ちた眼差しを眺めながら絶命した。

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