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きたない毛布

作者: あらら

これはコロナの休暇が生んだ奇跡だったのだ。と思う。


「1」1995

母が二枚重ねの羊毛の毛布を持たせてくれたのは、

50を超えた私が嫁いだ、昭和から平成に変わる時代。


確かピンクだったはずのダブルサイズの毛布を、私はなぜかずっと肌身離さず使ってきて、

私が使用した以上に愛犬たちにも愛されたからか、あちこちへたっていた。

いつかきちんと直そう、と思っていたが、全く余裕も暇もない30年を過ごしてきた、


それをこのコロナ自粛休暇に一心不乱に縫い、直した、

水曜どうでしょう、をYouTubeで見ながら、

来る日も来る日も。

母に詫びながら、母と会話しながら。


嫁いだ狭い新居のアパートに、ダブルサイズの羊毛の重い立派な毛布を、母は持たせてくれた、

羊毛の毛布が絶対暖かいから、だ、と言った。

色違いの緑も確かあった、、二枚だ。


若い夫婦にダブル毛布二枚など必要なはずがない、


ただ、ただ、片親だった彼女の愛情だったのだ。と、

当時の、末っ子の跳ねっ返りの私が気づくはずもなかった。


数年後、母は長男を見るのを待っていたかのように亡くなり、

私は引っ越しを数回しながら働き続け、自宅を持ち、

いつの間にか毛布はピンク1枚しかなくなった。


今、あの昭和を知って我が家に残っているのは、このきたないピンクの毛布と、

針の数を数えるように、

と、デカデカと母がズボラな私にマジックで書いてくれた針山がある裁縫道具だけになった。


それから男の子が3人生まれ、長男は既に30になった。



「2」2000

長男と次男坊は、それなりに育てた。

とにかく働いた。

昼夜なく、に等しい。

なんとか家のローンを早く返すことに、夫婦で必死だった。

夢の城を持ったつもりが、、悪城に滅ぼされてしまうかもしれないことにさえ気付かない、

若い、若い親だった。

家があり、きちんと食べさせられていること、

子育て満喫、問題に向き合う以前に、問題があるとも思ってはいない。

たくさん旅行もした、スキーにも行った、

真夏の自宅で、エアコンをギンギンにきかせて、ピンクの毛布にくるまって寝る贅沢は、何かには変えがたい。

頑張っている実感に満ちていた。

夫婦不在時の自宅の長は長男になっていたが安心して頼りきって、働いた。



「3」2020

コロナ渦下。

私は、一心不乱に毛布を縫っていた。

長男次男坊はとうに独立し、三男は一浪して志望大学に合格したものの、リモート授業。

4男は高校受験を迎える。

私は、自粛の息子のために1日中、台所でご飯を作り、

空いた時間にはYouTubeで水曜どうでしょう、を見ながら、

ようやくボロボロの毛布の修繕に着手したのだ。


針の数を数えるように、

との、針山を眺めながら。


ダブルの毛布のヘリは長い。

マスクなら何十枚作れるか、

ミシンも子供たちの成長を見届けて役目を終えた今、

老眼で、針穴にさえ糸を通せない私の手縫いで、

一針一針。


まるで、千本針のようだ、と、

でもさ、お母さんありがとね、お陰様でまもなくあなたの年は越すわ、と、

母に語りかけながら。


ふと、気付いたのです。


犬たちがかじってへたったと思っていたへり、が、

三角に、、

たくさんたくさん、切り口のあること。


ハサミ?






「4」ありがとう


3男でした。


気付いてくれた?

ありがとう。


あなたたちがいなかった時に、お兄ちゃんが怖くて、

仕方ないでしょ、帰って来ないし。

ぼくがハサミでたくさん切ってたんだよ。



私は涙が溢れて、

母の針山のマジックの文字が読めませんでした。


針の数を数えるように、、、













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