新しい関係の始まり
――追い込んだ。もう逃げ道はない。
朔夜は勝利を確信した。だが、それと同時にいつもとは違う気もしていた。
灼熱の焔を身に纏った鳳凰は真っ直ぐに彼の元へ突き進む。
「ふん!」
避けるでもなく泰然と光輝は左手を突き出す。
「五行相剋の理を持ち出すまでもないが……八岐大蛇!」
「そんなもので防げるとお思いかしら?」
鳳凰が届く寸前に術式が発動する。大蛇は口を開け飲み込まんとする。
徐々に極太のレーザーと化している紅蓮の焔は今もまだ朔夜から放たれ続けている。
「フハハハハハ……貴様の手の内はわかっておるさ。最早後がないこともな!」
勝ち誇った様に高笑いをする彼には迷いも焦りもなく、文字通り勝者の余裕すら感じ取られる。
――追い込んでいる。でも、これは間違いなく罠だ。彼の言う通り、後がない。
表情には出さないが奥の手である飛鳳弐式を光輝の罠で使わされてしまったことに気付いたのだ。
だが、彼女は言葉と裏腹に彼女は焦りを感じていた。動揺は焦りを生む。その焦りは見落としを生み出す。
「これで終わりだ! 天之尾羽張!」
いつの間にか光輝の右手には十束剣が握られていた。
朔夜はそれに気付くが術式が発動したままで動けない。
ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる彼は宣言する。
「この瞬間を待っていたのだよ、チェックメイト、貴様の負けだ」
光輝は刀を振るい紅蓮の焔を薙ぎ払うとそのまま疾走する。
距離は10メートルくらいだろうか。
術式を破られた朔夜は顔を歪めるが、すぐに術式発動に掛かる。
――なりふり構ってなどいられない。今は時間と距離を稼がなくては……。
彼女は内心の焦りを必死に抑えつつ術を発動させる。
「式神!」
「その首頂戴する!」
朔夜の術式が発動するのは遅かった。あっという間に距離を詰められていた朔夜は光輝の斬撃を受け膝を屈した。
「……負けたわ……完敗よ」
朔夜の言葉は少し寂しげであった。そこにあったのは光輝との因縁が解消したことで半年以上続いて来た関係が終わったことへの喪失感だったのかもしれない。
「何を言っている? 貴様にはまだ負け越している。終わってなどおらんぞ?」
「……え?」
朔夜らしからぬ呆けた表情であった。
「貴様に一度勝った程度で満足など出来るか。最低でも後5回は勝たねば私が勝ったと言えない」
「とんだストーカーね……」
「失礼な」
光輝は心外だと言わんばかりの表情を浮かべ反発するが、朔夜はクスっと笑ってから右手を差し出した。
「これからも私に挑んでくるのなら全力で相手をするわ」
「言うまでもない。貴様に勝ち越して、幻想舞闘に勝利しなければ何の意味もないからな」
光輝は朔夜の差し出した手を固く握ると少し照れくさそうな表情を浮かべるが、すぐにいつもの不遜な態度に戻る。
「……そうだ、貴様どうするんだ? クラスメイトを”虐殺”したのは不味かったんじゃないのか?」
「全校指名手配のあなたがそんなことを言えた立場かしら?」
「いや、見知らぬ輩なら兎も角、貴様は友人すら容赦なく殺しただろ。流石にそれはどうかと思うぞ」
光輝の正論に朔夜の視線は泳いだ挙句、素知らぬ表情で誤魔化したのであった。




