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因縁の二人の再戦

 神庭台学院高等専門学校……この学院の名は正式にはそう呼ばれるが、当事者たちは長すぎる校名を「カミコー」「神高」「学院」などと略することが多い。

 高等専門学校と言えば、一般には工業とか商船や電気関係が多い。いわゆるブルーカラーとかいうそれだが、この学院はそれらとは全く異なるものを専門に扱っている。そして、公募ではなく、経営母体である財団がスカウトして入学させている。

 そして、今年もまた新入生が入学し、国内どころか世界で唯一の特殊学問を学ぶことになる。


 そんな新入生が遠巻きにしつつ学院の中庭で派手に幻想戦(ファントム・バトル)を繰り広げる男女がいた。彼らが術式を発動し、避けるたびに中庭のどこかしらで爆発音と煉瓦の石畳が破壊されている。


「どうだ、今までの私とは違うのだよ。日登朔夜、貴様の時代は終わりだ」


 見た目は派手な一撃を浴びせかけた男は高笑いをしつつ女を挑発する。


「見掛け倒しの術式で無駄打ちしている余裕があるなんて私を見くびり過ぎじゃないかしら?」


 日登朔夜と呼ばれた女は無表情でそれに応える。彼女の周囲には式神が4体展開し、男の動きに合わせて攻撃を仕掛ける態勢が整えられていた。


「それはどうかな? 布都御魂剣(カマイタチ)


 彼は術式で発現させた直刀を構えると一拍の後、一閃する。

 刹那、つむじ風が学院の中庭を襲う。

 遠巻きにしていたギャラリーにもつむじ風による術式攻撃は容赦なく襲っていく。

 そこかしこでガラスが割れていくような音がする。ガラス窓を一斉に割った様なパリンとかパキンという音が大合唱である。


「――ちょっと、あなた! 今は私と戦っているのに、周囲を巻き添えにするなんて何を考えているの!」


 彼女は驚きと怒りで叫ぶ。

 彼の術式によってギャラリーの多くは巻き添えを食って敗北判定されてしまったのだ。一定ダメージを感知すると耐久度が限界を超えた場合、学生カードにはめ込まれているガラス素子が割れることで戦闘継続不能を示すのだ。

 そして、彼女はギャラリーが”戦死”していると同時に自身の式神も霧散していることに一瞬遅れて気付いた。


「愚か者め。ここ中庭は全域が貴様との戦場だ。戦場で観光客が死ぬのは当たり前ではないか」


 彼の言葉で彼女は唇を噛む。

 彼の言う通り、戦場にいる以上、巻き添えで”死んでも”仕方がないのだ。新学期のスターとともに学則が改訂されたからだ。

 ギャラリーが巻き添えを食ったことで彼には大量の戦績ポイントが入ってしまった。彼が仮にこの一戦で敗北したとしても戦績ポイントによって累積戦績ポイントにおいて大きく溝を開けられるのはこれで確定したのである。


「……くっ、卑怯よ……と言いたいけれど、あなたが正論ね。でも、無警告というのは感心しないわ」


「しっかり防御しているくせによく言う」


 だが、彼らの幻想戦(ファントム・バトル)はそこまでであった。


「何事だ!」

「”大量虐殺”が起きた!」

「救護班は中庭に急げ!」


 教官たちが非常呼集(アラート)で出張ってきたのだ。


「……ちっ、御用改めか。今日のところは見逃してやる。貴様もうまく逃げろよ」


「なんで私が逃げないといけないのよ……仕方ないわね。いいわ、勝負はお預けよ。三成光輝くん、その戦績ポイント、来週私が頂くから首を洗って待ってなさい」


 ロクでもない会話をした二人は中庭を脱出すると何食わぬ顔で学生寮へ逃げおおせることに成功したのであった。

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