幻想力学<2>
2030年、男性社員がゲームの企画制作において中二病センスあふれる必殺技の名を考えていた時にその能力が発現してしまった。彼は思考実験を繰り返し再現を試みた。彼は元々中二病センスあふれた自作小説を書いていたこともあり、思いつくままに叫んでみたのだが、これが結果としては正解だった。他にゲーム企画で案に上がっていた必殺技を順番に叫んでみたところ発現する能力としない能力があることに気が付く。
彼は面白くなり同僚を誘い検証をさらに進めると個人差があることが判明し、社内において協議した結果、自社では手に余る案件であると政府に持ち込んだのであった。
政府はゲームメーカーに機密保持を条件に莫大な報酬を約束しこの不思議な現象の解明、研究解析しようと画策したのである。ゲームメーカーも売れるかどうかもわからないゲーム一本作るよりも確実な利益が見込め、尚且つ、毎日、必殺技を繰り出すという童心くすぐる事業の方が良いと判断し、すぐに政府に協力を申し出たのである。
ゲームメーカーは各個人の持ち物や健康状態などあらゆる条件を記録し、毎日毎日朝から晩まで全社員を動員して中二病的な必殺技を叫ばせ続けた。
最初はノリノリだった社員たちも流石に一週間目になるとウンザリしてきたが、それでも政府から請け負った仕事であり、その報酬はある意味では出来高制でもあり、社長以下経営陣は誰よりもやる気で社員たちを叫ばせ続けたのである。その結果、どうやらマイナンバーカードを身に付けている時だけに能力が発現するということが判明したのは政府の依頼を受けてから1ケ月後のことであった。
マイナンバーカードが能力発現のトリガーだと判明したことを政府側担当者に報告が入ると政府はすぐに別の検証を開始するように命じて来た。この時、第一回の支払いが行われ、その額に驚いた経営陣は貰い過ぎではないのかと政府側に問い合わせたが「その額で間違いない」という返答に政府側の依頼を再度請け負い、別の検証実験が始まった。
別の検証結果を求められたゲーム開発者たちは大雑把すぎる指示に困惑していたが開示された結果報告を読み込んでいたとある社員の発言によって検証の方向性が固まったのである。
「思うのだが、今までやってきたことで基礎的な能力発現は概ね五行相剋の理に沿っているんじゃないか?」
流石は中二病元患者が集まる業界と言われるだけあって、法則に気付いたようである。
「まずは五行の理でやってみよう。お前、この間は火系統のだったよな?」
「あぁ、水系統は駄目だった気がする」
「じゃあ、やってみようか」
その後、彼らのお遊び半分の実証試験が派手に行われ、社屋が炎上し掛けるという事態になったが、水系統の能力を使えた社員によって鎮火させたことで事なきを得た。その検証結果が政府側にもたらされると政府は本格的にこの能力の利用と開発を決意したのである。
秘密裏に研究がスタートし、マイナンバーカードの材質と登録されている生体情報が何らかの反応を示していると判明するとすぐにこのマイナンバーカードを刷新し、新しいものに切り替えたのであった。
それから5年。2035年に至ると十分な検証と実証試験が繰り返されたことで一定条件化における安定した能力発現に成功したのであった。政府はこれを幻想力学と命名し継続研究を進めることを決定、早速、全国の中学校・高校で秘密裏に幻想生体情報の収集と登録を行い、翌々年の2037年に新設高校を創立し、選抜した幻想力と親和性の高い学生をこの新設高校に送り込んだのであった。