狩る者、狩られる者<1>
――どうしてこんなことになっている?
光輝は追い詰められていた。
――どいつもこいつも私を狙って襲ってくる……まるで落ち武者狩りだ……。
今週もまた週末となり幻想戦が開始された。宣戦布告を受けてから不注意な存在を片手間に”虐殺”しながら対戦者との一騎打ちを続けていたが、気付くと今まで対戦していた男子学生を前衛として後衛に別の男子学生が援護射撃をしてきていた。
遠距離から二人まとめて片付けるべく布都御魂剣で薙ぎ払おうとしたがそれを別の女子学生が防御術式で邪魔してきたことでどうやら自分に包囲網が敷かれていることに気付いたのであった。
「八岐大蛇!」
繰り返される遠距離からの援護射撃に防御術式である八岐大蛇を発現して対抗するが、分が悪い。接近戦を仕掛けられないように布都御魂剣で牽制するのが精一杯であった。
――キリがない。こんな場所で戦うのは不利だ。なんとしても高所か障害物の利があるところで戦わないと不味い。
今の光輝の発現出来る術式は4つある。
Level1の術式
天沼矛:近距離攻撃、単体攻撃(中)
布都御魂剣:遠距離攻撃、全体攻撃(小)
Level2の術式
八岐大蛇:単体防御(大)、全体防御(中)
天之尾羽張:近距離攻撃、単体攻撃(大)
1対1の対戦なら効果的な攻撃重視スタイルの術式である。だが、1対多になる途端に分が悪くなる。
実際、防御術式である八岐大蛇と攻撃術式である布都御魂剣を組み合わせてなんとかしのいでいるが、ジリ貧であるのは明らかであった。
――あいつならどうするだろうか?
光輝が思い浮かべたのはライバル視している日登朔夜であった。去年の大舞闘会でクラス対抗で轡を並べて戦った時に朔夜が後衛、光輝が前衛を務めることで圧倒的な勝利を収めていた。
――あの時の様な戦い方が出来るならこの程度の雑魚に苦労することなどないのだが……。
光輝はそう思う。その時防ぎそこなった攻撃を受け口を歪める。今の一撃は思いの外ダメージが大きかったようだ。
――残りの耐久が6割か……ちと厳しいな。
敵の戦力と自分のガラス素子の耐久度を冷静に判断し、刺し違えることすら無理だと判断するしかなかった。
突破口を見出すにしてもいくらかのダメージは甘受する必要はある。
――切り抜けたとして3割残れば良いところか……。
走り出すと渡り廊下の壁に一度姿を隠し、追い掛けて来た追手を一刀両断に斬り捨てる。
「天之尾羽張!」
戦果確認などせず、一目散に逃走を図る。その直後、パリンという音が聞こえ敵が一人減ったことに安堵する。
だが、後ろから遠距離攻撃系の術式を発現して攻撃が繰り返され、避け切れないダメージが徐々に蓄積していく。
階段を駆け抜け、屋上を目指す。
――やっと着いた。
屋上の天文台に逃げ込む。
「あら? あなた、どうしてここに?」
そこには想定外の人物が同じ様に隠れ潜んでいたのだ。
「それはこっちの台詞だ。なぜ貴様がここにいる?」
「追われているからに決まっているじゃない……あなたもなのかしら?」
「まさかと思うが……」
「そのまさかよ……困ってしまうわね」
二人は揃って溜息を吐く。
「さて、どうしたもんか」




