Game Over
「なんの!」
矢鱈と派手目な狩衣風の衣装を着た男は涼しい顔でひょいっという擬音に近い動作で近づく物体を避ける。
彼が避けた直後、高速で接近する式神から校舎にぶつかり爆散する。
――あぶねぇ。マジか、あれ、当たってたら死んでた……。
内心冷や汗をかきながらなおも続く攻撃を避けつつ彼は次の術式発動の準備を進める。
「甘いわ! 飛鳳弐式!」
躱されることを予期していたのか巫女服を着た女は流れるように一歩二歩と彼との距離を測るとすぐに次の術式を発動する。
刹那、鳳凰型の火焔が彼女の指先から打ち出される。
――追い込んだ。もう逃げ道はない。
灼熱の焔を身に纏った鳳凰は真っ直ぐに彼の元へ突き進む。
「ふん!」
男は左手を突き出す。
「五行相剋の理を持ち出すまでもないが……八岐大蛇!」
鳳凰が届く寸前に術式が発動する。大蛇は口を開け飲み込まんとする。
「そんなので防げるとお思いかしら?」
徐々に極太のレーザーと化している紅蓮の焔は今もまだ彼女から放たれ続けている。
「フハハハハハ……貴様の手の内はわかっておるさ。最早後がないこともな!」
勝ち誇った様に高笑いをする彼には迷いも焦りもなく、文字通り勝者の余裕すら感じ取られる。
――追い込まれていながらどうして……。
彼女の動揺は焦りを生む。その焦りは見落としを生み出す。
「これで終わりだ! 天之尾羽張!」
いつの間にか右手には十束剣が握られていた。
彼女はそれに気付くが術式が発動したままで動けない。
ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる彼は宣言する。
「この瞬間を待っていたのだよ、チェックメイト、貴様の負けだ」
彼は刀を振るい紅蓮の焔を薙ぎ払うとそのまま疾走する。
距離は10メートルくらいだろうか。
術式を破られた彼女は顔を歪めるが、すぐに術式発動に掛かる。
――なりふり構ってなどいられない。今は時間と距離を稼がなくては……。
彼女は内心の焦りを必死に抑えつつ術を発動させる。
「式神!」
だが、既に遅かった……。
「その首頂戴する!」
あっという間に距離を詰められていた彼女は斬撃を受け膝を屈した。
――Game Over