巡る巡るシリーズ
元々中世の騎士であったアリスは百年戦争で敗れあのジャンヌ・ダルクに処刑されたはずなのに、次に目を開けると現代日本にいた。アリスは新影美咲として現代日本に生を受け、前世の記憶を保持したまま現代日本に適合していく。しかし、アリスであることを忘れかかっていた女子高生となった、ある日ジャンヌ・ダルクの生まれ変わりと思しき少女と出会い復讐の心を募らしてゆくようになる……
序
アリスは歌う。
夜の多摩川に。
昼間はこの前の嵐の影響なのか、大木に多くの流されてきた枝や塵が非人為的に荒々しくせきとめられていた。
ああなんて無力。自然の前の人は。
アリスは思う。しかし、口にはしなかった。アリスはそれよりも別の恐怖をもっと強大に感じていた。
それは、人は盲目であるということへの恐怖。
夜の闇では嵐の爪痕もそもそも見えぬ。聞こえるのは清流が濁流かも分からぬ流水の音。
ああなんて盲目。
たとえどのような出来事が起きていたとしても見えてなければその重大性は分からない。アリスは石を拾って投げる。ぽちゃりと飛沫の音が辺りに響いた。アリスは、そこではじめて安心感を覚え、駅のホームへと向かう決心をした。