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人間は神様に勝てない  作者: 永瀬けんと
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ニッポンのアカルイ未来

 学校へ行って、何もなく平和に終わる日もあるし、好きな時間が無いわけではない。昼休み、学校の食堂で食べる油そば。この油そばのクオリティがめちゃくちゃ高い。一年前に突如としてメニューに表れた三百円という油そばは、みんなギャグかと思って初めは誰も注文しなかった。うどん、そば、ラーメン、定食など、ザ・オーソドックスのなかで異彩を放つ油そばを初めて頼んだやつがいた。周りはそいつが油そばを口に運ぶところを固唾(かたず)を飲んで注目した。

「うまっ!」

 そいつは一心不乱に油そばを食べ始めた。その姿を見て次の日から油そばを注文する生徒が増え、いまでは人気商品となったため、チャイムと同時に走って食堂に行かないと、売り切れてしまうこともあった。

 そんな至福の時間に、今日は同級生の女子たちから嫌な話が聞こえてきた。

「ねえ、大和くん、こんどテニスの近畿大会に出場するらしいで」

「うそやん、めっちゃすごいやん」

「頭いいし、運動できるし、イケメンやし、菜々(ななか)がほんまうらやましいわ」

「菜々花と付き合ってどれぐらいやったっけ?」

「もう半年ぐらいになるんちゃうかな」

 格差。学校生活においても、すでに悲しくなるほどの差が出ている。大学にいけば、そして社会に出れば、その差が広がる一方なのは簡単に想像できる。田中大和は大企業とかに勤めて、ニッポンを動かしたりとかするんだろう。透けて見える、ああいう(やから)がつくるニッポンのアカルイ未来が。”普通”の人たちのためのアカルイ未来。

 大池が学校に来なくなってしまった。俺に告白した次の日から、その次の日も、その次の次の日も学校に来なかった。

 いまの時期からずっと休んだら、もしかして卒業できないんじゃ? もしそうなったら、責任って俺にあんの?

 イヤーなことが頭をよぎる。

 別に足が悪かろうがちゃんと学校に来てたやないか。告白に失敗したぐらいがなんやっちゅうねん。

 仮想世界に行けるヘッドギアが販売されたとき、「うちはそういうの買わんから」って力強く言っていた。「うちは逃げたりせーへん。大事なもんは現実世界にあるから」とか何かのアニメかドラマに影響されたようなセリフまで吐いていたくせに、俺にフラれたぐらいで学校っていう現実に来れなくなっている。俺は仮想世界に浸ってはいるけど、現実世界にもちゃんと顔を出している。俺にはあいつの持つマイナスがどれほどあいつ自身を苦しめているのかは知らない。けど、俺は俺が持つマイナスと、ちゃんと向き合っている時間もある。あいつよりも、よっぽど俺のほうがしっかりしている気がした。

 学校からの帰り道に大池の家に寄ってしまった。ピンポンは押していない。ただ、家の前を通りすぎただけ。俺の家から歩いて十分ぐらいのところにある大池の家は、大きな一軒家。恐らく、お金には困っていないと思う。どういう病気かは詳しく知らない。小さい頃から鉄の歩行補助器みたいなのを左足につけていたから、多分、生れつき左足が悪いんだとは思う。

 いったい、いつから俺みたいなクズを好きになったんだろう。俺がいじめられてた醜い姿とかも大池なら見てきただろうに、俺のどこが良かったんだろう。大池沙也夏(おおいけさやか)。小学校からずっと同じ学校。中学から高校一年生までは同じクラスにならなかったから、今年が久しぶりのクラスメイト。同じクラスになるのは生涯最後とか大袈裟なことを、もしかしたら大池は思っていたのかもしれない。

 大池の家は呼吸をしていないように見えた。気配を全く感じない。もしかしたら、出かけているのかもしれない。失恋旅とか? 大池ならそういうことをしそうな気がする。だったら余計な心配はいらない。気が済んだら、また元気に登校するんだろう。そうだ。きっとそう。多分、そう。おそらく、そう……。

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