再び動き出す時間
「都会の真ん中でボーッとしとったら、危ないで」
「ごめん、考えごとしてたわ」
おれは後頭部をポリポリかいた。
「琴平くんはちょくちょくストファンに入ってんの?」
「たまにね。トマソンとかと話すだけやけど」
「琴平くんもアナザー社からもらった新しいヘッドギアは調子いいん?」
「うん。ええ感じやで」
「ガジュさんもリンリンさんも、トマソンも雷切取りに行くの待ってくれてんもんなー」
「おれもね」
「琴平くんは早く雷切欲しいだけやろ?」
「雷切早く欲しいんはトマソンやから。まあ、おれも欲しいけど」
「あはは」
「でも、まさかあのハーバスの時計台の地下に雷切があるなんてな」
「あんな頑張って上った上の部分が全部ダミーとか笑っちゃうよね」
トマソンきっての願いで、神木さんたちに協力した見返りとして、おれたちは雷切のあるダンジョンの場所を教えてもらっていた。なお、ダークラインの向こう側でトマソンが撮影していた動画や画像は秀川さんに没収されてしまったようだ。ただ、これまたタダでは起きないトマソンはヴォーパルソードのあのホログラムが出る技の発動条件が、剣を鞘におさめながら戦っているとレベルに応じた確率で発動することを見返りに教えてもらっていた。
「そういや!」
「ん? どないしたん?」
「この近くに美味しいパン屋があんの忘れてた」
「ああ。ほな、今から行ってみる?」
「あ、マジで。めっちゃ助かる」
田中大和について。田中大和は自分の部屋でヘッドギアを被ったまま、泡を吹いて倒れていたらしい。幸い命に別状はなかったが、後遺症で一週間に一回程度、発作みたいなものが起こるようになってしまったそうだ。それもあってか、学校へは通っているものの、休む日も多くなった。ちなみにおれには全く近寄らなくなったし、仮想世界でシュー太郎やソウルナイトと名乗っていた側近たちも無事に現実世界に戻ってきたが、おれと目が合うと逃げていくようになった。
田中大和が生きていると聞いたとき、安堵した自分がいた。残念な気持ちになるのかと思っていたけど、意外というのか、それはなかった。間違いなく今でも嫌いではある。後遺症が残ってしまって、当然の報いを受けたとも思っている。けど、本当に死んで欲しいとは思っていなかったようだった。まだ認める気はない。認める気はないが、もしかしたら、田中大和もおれの人生には必要な人間のひとりなのかも知れないと、最近よく考えるようになった。
程なくして、おれはミーナと仮想世界で再会した。現実世界で毎日のように大池と顔を合わしていたのに、妙に照れくさかった。
「なんか、変な感じやね」
ミーナも同じ気持ちになったようで、おれたちはちょっと距離を空けてハーバスの街を歩いた。
「おーい!」
リンリンさんがおれたちを見つけて手を振った。ガジュマルさんとトマソンも嬉しそうに微笑んで待っている。
心が自然と弾む。あの日、止まってしまった時間がまた動き始めた気がした。
「さあ、行こ!」
ミーナがおれに手を差しのべた。おれはその手を握りしめて、ミーナと一緒にみんなが待つ噴水広場へと駆け出した。
人間は××をやめない。これはその理由を知るための物語。そして、自らを見つめ直すための物語。この物語を読み終えたいま、あなたはこの世の見えるもの見えないもの、全てがあなたのために存在していることに気づく。




